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80夜 冬の夜長


明日は冬至。
一年でいちばん夜が長い夜。

先日は霜が下りた。
畑の朝は、地面からきらきらと無数のちいさな柱が立ち上り、踏んだらいじらしい音がしそうだった。
ちょうどその前の晩に、友人に送った「霜柱」という菓子が届いた知らせを受け取ったばかりだった。
それはこの寒い時期にだけ作る飴菓子で、ほろりと口の中で溶けるはかない菓子。
その翌日はたいそう雪が降った。
刺すような雪ではなくて大粒の花びらのような雪だった。

寒さの感じ方は気温に依(よ)らない。
底冷えがする土からの冷気の寒さと、ぼさりぼさりと降る雪の寒さでは、寒さの種類が違う。
夏の暑さもそうだろう?
乾いた風があれば暑さがしのげるし、湿度が高くて風がないとまとわりつく暑さに参る。
それは気温という数字ではまかなえない感じ方のような気がする。

秋の夜長というけれど、ほんとうに夜が長いのは明日。
冬で寒くて日の光が短いとなれば、季節性の鬱が人々のこころに忍び寄る。
そんな日々は夜を楽しまなくちゃいけない。
ストーヴには鍋をかけてことことと煮込みの料理をしたり、
編み物をしたり縫い物をしたり本を読んだり。
手仕事はこころが鎮まる。それにはやっぱり、こたつ?

ところで、霜は「下(お)りる」。柱は「立つ」。では、霜柱はどう言えばいい?
下り立つ?それじゃまるで霜の精みたいじゃないか?




今夜のお写真は、秋から冬のゆったりしたもの。


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こちらは秋の夜長に作ったウォッカ。
真ん中のびんは、トマト、パプリカ、セロリ、ニンジンに
パクチーフレッシュシードのナンプラー漬けをスパイスにしたピクルス。



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レモンジャム。
近く、といっても車で十分もかかるんだが、不思議なスーパーマーケットがある。
たっぷり一箱のトマトだったり、山盛りの国産レモンだったり、ときどき驚くような値段で売るのだ。
で、そうして買ったレモンを絞り、皮をむき、水にさらし、何度も煮こぼし、種からペクチンを取り出し、
最後に砂糖で煮るとジャムの出来上がり。



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端切れで作ったコースター。



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山のふもとの公園で、「手仕事市場」という催しがあった。
素人も玄人も混在して手芸品や工芸品を出展し売る。
わたしは好きな工房があって、昨年も今年もかわいらしい袋物を買った。




□冬に読んだ本
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美しい緑の表紙。
food trilogy三部作の三作目。一作目の「ショコラ」は映画化されたのだそう。
わたしは表紙で引いたこの本しか知らないが、本の中に出てくる老婦人の作る仏料理の美味しそうなこと。



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言葉少なな主人公の印象を周囲が自分の取りたいように取ってイメージをたいそうなものにしてしまう。
トム・ハンクスの映画「ビッグ」にもこれと似たようなところがあったっけ。

冬の獣
# by NOONE-sei | 2013-12-22 02:20 | 趣味の書庫話(→タグへ)

79夜 亡者のために


本屋で小説の背表紙をざっとながめていたら、「七緒のために」(島尾 理生)という題名を見て
それが「亡者のために」と読めてしまった。
意図した嘘読みは、ちいさなころからのわたしの密かな愉しみなんだが、
その日は眼鏡の調子が悪くて本当にそう読めた。
どんな小説かと手にとってぱらぱらめくると、それは十四歳の女の子同士の、痛々しい物語だった。
亡者のためにという嘘読みは正解ではないが、間違ってもいなかったように思う。

いつの世も変わらず、少女期は苦い。
別れが少女たちを本当に大人にするのか、信頼を回復するちからを少女たちは備えているのか、
それとも求めるものが大きすぎるのか、受け止める奥行きを持つには傷に敏感過ぎるのか、
いずれにせよ少女たちは孤独だ。

少女は寄り添う。そして残酷に遠ざけあう。
ときに、無視という武器を振るい、力関係の、閉じない輪を繰り返す。
きっかけはちいさなほつれ目なのに、長期に渡る無視がまとわりつくこともよくある。
その長期に耐えることでほつれの代償は払ったかと思うのに、いつのまにか、許す許されざる関係が出来上がる。
それまでの、いい時があったことも通い合ったものも塗り替えてしまうのに、やめられない。
それは孤独から生じた執着だろうか。

「愛を乞うひと」という日本映画がある。
もう二度とわたしは観ないだろうけれども、二度と忘れることができない母と娘の物語。
生まれ落ちて最初に結ぶひととひととの関わりがうまくいかないことが、こうも尾を引いてゆくものかと思う。
親と子のことが出発点だと言ってしまえば話は簡単、そして短絡。
けれども無下(むげ)に否定できない現実が実際にはある。
少なくともわたしが知っている少女たちやかつて少女だった者たちは、
情愛を持ったことそれ自体が呪わしいかのように愛を乞うひとたちだった。

いまになって、ひとはみな愛を乞うひとたちなのだと気づく。
ワレモコウ、吾亦紅、我も乞う、、と。
誰かと話していて、このひとも愛を乞うひとだった、と感じることはよくあること、
いちばん身近な母も鰐号も、そしてわたしも、みなそうだ。

母はあるときわたしに「大人になるから」と言った。
母たちの年代のユーモアに、衰えたり老いてゆくことを「大人になる」と言う言い方がある。
もちろん母が言った大人とは、もっと素直に接したり自分の力で物事に対処できる姿を指しているが、
わたしは心の中で、ユーモアのほうの「大人になる」でもまあいいか、そう思ったりする。
それが現実だし、かつて少女だったころをほんの少し前まで持ち続けていた母よりも、
大人になった母のほうがわたしには親しみが湧く。

ところで本屋で嘘読みをしたわたしは眼鏡を新調した。
嘘読みした亡者と盲者も、たいへんよく似ている。




今夜は秋から冬のお写真を。



□十月なかばの安達太良山
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今年は母を連れて二度行ったのだが、紅葉の時期を少し逃したみたい。


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まあまあの紅葉かな。


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このゴンドラで山を上り下りする。


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とっさのことで焦点がぼやけているのが本当に残念。
昨年は牡(オス)のカモシカが車の目の前を駆け抜けて行き、今年はゴンドラの下をカモシカの母子が歩いていた。
仔はむっちりとした、まるでツチノコ?「カモシカのような脚」というのはぜんぜん細くない。




□つい先日の吾妻山
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冠雪。うちも初雪が降った。


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夕暮れの田んぼ。




■おまけ
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安達太良を下りて入った田舎料理の店。
ほんとにいかにもこの地のごく一般的な田舎料理には、煮しめに凍み豆腐、いかにんじん、山菜の和え物、
しその葉の塩漬けのおにぎり、味噌味の芋煮、山椒味噌を塗った焼き団子。


・ご報告
78夜 大学でのこと
その後のご報告です。プレゼンは二週をかけて全グループ終了し、三週目に一位の投票が行われました。わたしのグループは有効票の半数近くを獲得し、一位になりました。
講師は来年の実現に向けて準備を進めたいとしています。


ちいさな来客
# by noone-sei | 2013-11-30 01:10

78夜 大学でのこと  


本日は立冬。
とうに吾妻山には雪が降ったので『王様の千と線』は若草色から橙色(だいだいいろ)へ。
いつまでも「春の足跡」を載せていると、春の足音が恋しい真冬が始まってしまう。
おっかけおっかけのはずが、追い越してしまってひと足早い春のお写真のようになるので、
そろそろ春はおしまい。
77夜で八つ目の米のおはなし、米は八十八だから、なんだか引き時もいい。
とはいえ季節のお写真はまだ保管庫に眠っているのでまたすこしずつ、ね。


ちかごろのこと。
今年度の大学の聴講は精神科リハビリテーション学を受講している。
前期は精神保健福祉の歴史・制度の変遷・諸外国との対比、
精神科リハビリテーションの概念・理念を学んだ。
学んだとはいえ膨大な量で、しかも社会の変化とともに歩む分野なので、どんどん新しいものに塗り換わる。
3.11の震災と原発のもたらした影響は深刻で、ぶ厚いテキストにはそのこともふまえての
さまざまな援助と精神福祉の向上が書かれている。

後期は演習。テーマは「精神障害者のためのイベントを企画する」。
なかなか現実にこれを実施しているところはそう多くない。
講師は、クラスをグループ分けし、企画立案させプレゼンテーションをコンペ形式にし、
練り上げて実際に来年度以降に実施することを目標としている。
プレゼンは紙資料のほかにパワーポイント、ホワイトボード等フル活用なんでも可。
今は演習だけれども、意識はNPO法人が補助金を獲得してイベントにこぎつけるというつもりで。

条件設定は精神科病院に通院・入院、障害福祉サービス事業所に通所をしている精神障害者、
その家族および病院・事業所の職員・ボランティアが一堂に会すること。
規模、時間帯、イベント運営のコーディネートおよびスタッフの配置は詳細に。
精神障害者の疾病と障害とその特性に配慮。
必要なことには加除式を採用。
コンペで一位になったグループには賞金をトークンエコノミー(仮想貨幣)で授与する。

ここまでですでにわたしのウェブログでは意識して避けている外来語やカタカナがいっぱい。
でもこれはまだ準備の段階。
くじびきでグループ分けが為され、わたしは五人の学生に混じった。
プレゼンにどの資料が必要かを確認し、企画案を自由に出し合う一週目。
秋のイベントは芋煮をふるまうのが定番だけれど、カレーでちいさなウォークラリーはどうだろう。
裏テーマは、「頭も体も使ってもらう」。

二週目にはすでに皆の案や資料が持ち寄られイベント当日のタイムスケジュールができた。
受付は開始一時間前。送り迎えのバスが到着、自家用車は駐車場に案内。
受付で前もって参加者を把握し準備したネームホルダーを渡し、当日の流れ・カレーの作り方など
必要なことが書かれている持ち易いしおりとビンゴカードをそれに入れてもらう。
自分たちでカレーを作ってもらおう。
それにはグループ分けをしなくちゃいけない。
見ず知らずが交流できるようにゲーム感覚のレクレーションでいこう。
まず開会の後、音楽で体を動かし、音で集まる。イス取りゲームみたいに。
その際の音は、太鼓は知的障害を持つ人には向かないので鍵盤で出す。
カレーの材料をゲットする各ブースで、カロリー当て、計量当て、ニンジンに向かって輪投げ、
肉は好き嫌いがでないよう鶏を準備し、ストラックアウトで量に差をつける、というふうに、
頭も体も使ってもらうカレーラリーにする。
カレーは調理実習室を使えるよう大学にかけ合おう。
カレーを中庭に運んで、各グループがうちとけて一堂に会食、他グループの味見。
障がいを持つ人は意外にも辛いものを好む人も多いので、甘口を用意はするがスパイスで調整。
食べ終わるころにビンゴゲームで地元の果物や米を当て、当たらなくてもリンゴ一個は持ち帰ってもらう。

三週目は三名の学生がPCでそれぞれ資料を作りながら打ち合わせの詰め。
ひとりがパワポの準備を進めていて、わたしも文書を入れたUSBメモリを渡した。
イベントの案内には申込書をつけ、バスの送迎の要不要チェック欄を作る。
参加費は予算的に700円だけれども補助金をゲットして500円にする。
果物など農産品は賛助品のお願いの文書で地域に協力を頼む。
協力者の名前はしおりに載せよう。
必要な機材は。見守りスタッフの人数は。前日までの準備は。

・・来週が四週目、いよいよプレゼン。


ゆとり教育の悪いところばかりが取りざたされ、やはり学力重視へと、
鰐号たちゆとり世代は長い目で見ると教育の中のぽっかり流れる溝のようになった。
わたしも、こんなにおばかになっちゃって、文科省どうしてくれるんだ、と思っていた。
でもわたしのグループの学生たちの機動力やスピードを見ると驚かされる。
さんざんレクレーションやボランティアはやってきたんだよ、というふうに経験がこなれている。
わたしの認識が一方向でした、ごめんなさい。



□前期のテキストと提出物
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ほんとうはすべての記述を障害ではなく障がいとしたいのだが、
わたしの今のちからでは認識を持った書き分けができない。

五輪と原発とこの地
# by noone-sei | 2013-11-07 23:59

77夜 春の足跡  八 王様は新米


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ずっと、PCがついたり消えたりせいぜいがメールの確認をするくらいしか用を成さないひと月だった。
結果的には先の台風と昨夜の台風とで電話線の不具合があったらしい。
ここ数日は保守のおじさんやおにいさんが我が家に日参して、一日にひとつの仕事をしていった。
段階的にやらないと、どこが不具合なのかを見つけられないからなのだそうで、
ほんとうに一日にひとつ。
これがなんだかとても可笑しくて、作業する後ろ姿はいろんな想像をさせてくれた。
大手の電話局の下請けの人たちだからか、たいへんそうではあるんだがどこかのんびりともしていて、
こういう人たちがゆくであろう地元の小さな居酒屋だとか、おねいさんのいる店だとか、
作業服で昼食をとるファミリーレストランのランチメニューだとか、
なんだか目に浮かぶように映像がくっきりとしていた。
今夜はラインが中断しないようなので、気合いを入れておはなしを載せてみよう。


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田んぼの稲刈りがあちこちで見られる。新米の収穫だ。
そろそろ一年分の玄米を頼まなくちゃいけない。

ところで、我が家にも新米がいる。王様は畑仕事の初心者、ほやほやの新米。
新米のお百姓は、盆過ぎから気が気でなかった。
白菜と大根の種まき時がすぐにやってくるからだった。
毎週の日曜日は畑仕事に精を出しでずいぶんになる。     
ナスやキュウリというような夏を代表する野菜を作らずに、
では毎週畑で何をしていたのかといえば、草むしりも整地もやることは無限にある。
夏の野菜は近所のおじさんが、自分の畑で作ったものをちょくちょく持って来てくれた。ありがたい。

わたしは、炒めたり蒸したナスに大根おろしをかけて食うのが大好きなのだが、
夏野菜に冬野菜を合わせるのがたいそう不思議だった。
大根や白菜やネギといった白い野菜は冬のものだと思っていたので、
先日、九州では大根は夏に収穫できると聞いてひっくり返った。
暖かい地方なら、作物によっては年に二度収穫できるのだとか。
この地で二度の収穫は夢のような話だ。

白菜は十分に大きくなったら畑から全部収穫して、物置に並べ、ゴザや莚(むしろ)を被せておく。
大根やネギは雪の前に収穫し、土を掘って室(むろ)を作り、
雪で凍みないように、雪よりも温かい土に移し変えて保存する。
そうやって冬中(ふゆじゅう)食うのだと言ったら、今度は九州の人のほうがひっくり返った。
土室(つちむろ)には長い棒を立てて目印をしておかないと、
雪の下のいったいどこに埋めたのかわからなくて大慌てだと話して、
住む場所が違えば畑もこんなに違うものなのだと会話が弾んでたいそう面白かった。

盆前には、いつじゃがいもを掘り上げるのかと近所のおじさんも裏の工場のおじさんも心配してくれた。
今年は長雨に加え、我が家の新米はじゃがいもの植えどきが他所よりも遅かった。
しかも、畝(うね)の上に植えて水はけを良くするものを うねうねになった土の下に植えた。
しかもしかも、幾度か土を茎に被せてゆかなくちゃいけないのにやらなかった。
植えた種芋の下には芋がつかず、地下茎は横に広がる。
だから土を被せて芋のつく範囲を上下に広くしてやるのだった。
新米のやることを見守るおじさんたちは、わたしを経由して王様に助言してくれる。
王様は日曜日のお百姓なので、おじさんたちと会話することはまずめったにない。

秋に収穫する食用菊の『もってのほか』の株が、だんだん減ってきた。
菊も植えっぱなしでは消えてしまうので、切って挿し木し根づかせる。
五月から六月にはやらなくちゃいけないのに、
王様が増やしたのは七月に入ってからだった。
新米でも王様は運が強い。雨男の通り名を持つほどだから長雨が味方してくれた。
それじゃ試しにこれも植えてみな、と、裏のおじさんが、
収穫時期のちがう別品種の『もってのほか』を分けてくれた。
さすがに植えどきが遅い。ぜんぶが生きつくというわけにはいかず、でも七割ほどは根がついた。
「生きつく」というのは、枯れずに土に根づくことができたときに使う言葉。
十月に入ったら、ちゃんと立派に薄紫の花をつけた。        

農作物が、これほど植え付けから収穫まで時間がかかるものだとは知らなかったと王様が言う。
じゃがいもなどは早いほうだと思う。
タマネギやニンニクなど、秋に植えたら幾度も雪や霜を越えて、春になってから収穫する。
霜は土を隆起させるので、露(あら)わになった作物の根には土をかけ直して収穫まで手入れする。
その根から伸びた長い茎が倒れて枯れてきたら、それが合図で堀上げ時だ。
春彼岸、盆、秋彼岸は、お百姓の畑仕事の大切な目安。
日照時間や気温の変化に作物の種は驚くほど敏感に反応する。

五月に畑の三分の一もの面積を真っ白な花畑にするルッコラとパクチーは、
六月に畑に直蒔き(じかまき)しても、ずっと音沙汰なしで種のままだった。
それが、雨が上がると突然勢い良く次々と発芽した。
嬉しくなって、苗を男ともだちに分けてあげたら、
お礼にと『鞍掛け豆(くらかけまめ)』というめずらしいものを貰った。    
彼は仕事を持ちながら畑も田んぼもやるベテランのお百姓だ。
話を聞いたら彼にも新米の頃があり、なんでも面白そうだと思うものは作ってみたという。
彼も王様とおなじく近隣から温かい目で見守ってもらった。
今では、米ももち米も作り、餅をつき、美味いどぶろくも作る。
たいしたものである。なにがたいしたものだって、朝五時に起きて畑仕事をするのがたいしたものだ。
彼のようになんでもとはいかないが、新米は試しに数粒、豆を畑に植えてみた。
豆の植えどきは六月、とうに遅いのだけれどももしかしたら発芽するものがあるかもしれない。

食用菊をくれた裏のおじさんにも豆を分けてあげた。
毎日楽しみに畑を見ていたら、ある日もこっと土が盛り上がり、大きな双葉が芽を出した。
おじさんに喜んで報告したら、見にきてくれて「あ、根っ切り虫に折らっちゃ!(折られた)」と言う。
出たばかりの芽の茎がぽきっと折られているのがいくつかある。
「せっかく出たのに。楽しみにしてたのに。失礼しちゃう!」とわたしが怒ったら、
翌朝起きて畑を見たら、おじさんが畑に根切り虫よけの薬を蒔いていてくれた。
ありがたい。なにがありがたいって、早起きがありがたいのじゃなくて、王様の畑を
見守って援護してくれるその気持ちがありがたい。

白菜を種から苗にした近所のおじさんが、わざわざ「今が白菜の苗と大根の種の植え時だから」と、
うちの畑に畝を作りに来てくれた。
測量に使う赤と白に色分けされた長い棒で間隔を測りながらきちんとした畑を作ってゆくのを
直近(まじか)で見せてもらった。
昔、父が山土(やまつち)を入れて作った我が家の畑には、そろそろ窒素が必要なこと、
藁を細かく刻むか籾殻(もみがら)を混ぜて土を柔らかくしないと土の中が窮屈になること、
いろんなことを教えてもらって、畑は科学と土木測量だと思った。
教わったのはわたし。三次元の科学をわたしは王様にちゃんと伝えられるかしらん。

ところで、男ともだちから王様はありがたいお誘いを受けた。「来年、米を作りませんか?」
彼の畑のそばに休耕田があって、そこでは美味い米が作れるんだという。
米作りは畑ほど手がかからない時期が長くあるから、仕事を持っていても可能なのだとか。
田んぼは、米を作らないまま休ませたらあっという間にだめになる。
土地代はいらないから使ってもらいたいのだそうだ。
ある田んぼの主は、原発の影響で作付けを制限されているため、田んぼを維持するために
広大な蓮(ハス)畑にして解除を待っている。
放射能の影響なしという結果の出た田んぼも、休んだりやめてしまった所は多くある。
ハスやコスモス畑になっている田んぼはまだ生きているような気がしてほっとするが、
セイタカアワダチソウで覆われた田んぼをあちこちで目にすると胸が痛む。

うーーん、米かぁ。
酒米から酒を造る人もいる。贅沢で魅力的な話だなぁ。
ありがたいけれど、残念だけれど、すぐには無理だ。
・・新米が文字通りの新米を収穫するのは、まだまだずっと先のおはなし。




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蒸しナスに大根おろしとじゃこ山椒

 


□白菜になりつつある
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□もって菊とは
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きれいな菊。この花びらを湯がいて食う。おひたしにしたり白和えにしたり。





□稲のお写真
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稲と彼岸花


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かさこ地蔵


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稲藁(いなわら)を干すのも農家によって干し方がちがう。


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□にんにく・たまねぎ収穫のお写真 
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手前の白っぽく小さいのがにんにく




□じゃがいもができるまで
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塾生じゃがいもほりのお写真、膝っこぞうをすりむいているのがかわいい。



□ひたし豆のできるまで
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■ひたし豆の作り方
鞍掛豆100グラムくらい
だし 1カップくらい
しょうゆ 大さじ1くらい
みりん 適当
塩  小さじ1くらい

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豆を一晩水につけておく
塩を少し入れた水で、気持ち硬めにゆでる

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ざるにとり、熱いうちにひたし汁に入れて一晩おけば味がしみる
# by NOONE-sei | 2013-10-17 00:01

76夜 春の足跡  七 餃子屋の女子校生


この地では、餃子をフライパンに丸く敷き詰めて焼き上げ、
そのまま丸い皿にかぱっと移し変えて、
それを主食のようにたっぷり食うのが普通で、
餃子だけを商っている店も昔から当たり前にあった。
街にも温泉町にもそうした店はいくつもある。
だから、わざわざ地名を冠した、例えば宇都宮餃子というような名称を聞いて不思議だった。
だとしたら、この地、福の島は大いばりで餃子が名物である。

一杯やりに街の路地の餃子屋に行くもよし、
温泉町に湯をもらいに行ったら、帰りに餃子を食って帰るもよし、
家で白飯と一緒に食いたければ、電話で注文しておいて店に取りに行くもよし。
餃子は昔から、気取りのない食べ物だった。
一皿に二十個くらいは並んでいる。

中華料理屋の餃子は肉が主張する一品(ひとしな)だろう?
肉饅頭や小龍包のように点心で飲茶をするとか、
ラーメンや炒飯におかずとしてもう一品とか。
せいぜい一皿には八個くらいだろうか?

わたしが馴染んでいる餃子は、細かく刻んだ野菜がたっぷりだ。
肉に刻んだ野菜を混ぜ込むというよりも、野菜が主役で肉はつなぎだ。
皮は粉に店それぞれの配合があって、一枚ずつ手延べし、包んだら丸く並べてぱりっと焼く。
外側はぱりっとしているが中はふんわりと柔らかい。
小ぶりであっさりしているのでたくさん食う。
もしかしたら一般的に思い浮かべる餃子を期待したら少し違うかもしれない。

ある日の夕方、温泉町の旅館で風呂をもらって、帰りに母と餃子屋に寄った。
その温泉町はわたしが生まれ育った山あいの町ではなくて、
昔、泊りがけで競馬を楽しみに来る客で賑わった町である。
今では新幹線で短時間の移動が可能になり、わざわざ泊まって芸者遊びをする客も少なくなった。

その町の餃子屋には地元の住人も来るし、
夜遅くなれば旅館の泊まり客が小腹をすかせて浴衣姿で現われる。
もっと遅くなれば、宴会を終えてコンパニオンレディたちを伴った泊まり客の一団が
酒の肴に餃子を食いに来る。
ラーメン屋に餃子があるように、なかには餃子屋にラーメンがある店もあって、
その餃子屋でわたしたちは、餃子を半皿とラーメン一人前を頼んだ。
ふたりならそのくらいの量でちょうどだ。

わたしたちが行ったのはまだ陽のあるうちだったので、
別のテーブルには女子高生がふたり向かい合って座っていた。
注文したのはわたしたちと同じ、餃子半皿とラーメンひとつずつ。
ふたりは仲良く半分こをしながら食っている。
部活動の帰りだろうか?そんな量で足りるんだろうか?

ああそうか。
学校の帰り道、肉屋で道草してコロッケを食いながら帰ったわたしの小娘の頃とおんなじか。
ということは、家に帰ったら、今度はしっかり夕飯を食うということなわけだ。
温泉町の女子高生は、コロッケの代わりに餃子を食うのだな。
なんて素敵なんだろう。



■餃子
以前のこと、鰐号が帰省したときに温泉町の餃子を食わせに連れて行った。
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息子とビールで餃子をつつく。
お写真は二軒だけれども、この晩は三軒梯子、王様は酒を飲まないのでわたしと鰐号が互いに注いで。






今夜のお写真は庭の春の花、つづきからおしまいまで



□花とりどり
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庭に手を入れて、梅雨の頃に この牡丹を植え替えた。
するとわたしの花ともだちがびっくりして、牡丹は植え替えしちゃいけないと言った。
すでに済ませてしまっていたので、その女ともだちは園芸図鑑を見せて教えてくれた。
花の機嫌を損なうのだと彼女は言った。
わたしも園芸図鑑が欲しい。


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この地の県花、シャクナゲ


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ツツジか?サツキか?


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ツツジ?


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名前がわからない。


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エビネだったか?


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シラン


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シャガ


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オダマキ

寝ていたのに
# by noone-sei | 2013-09-14 23:59