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9夜 こどもの夢


わかい父とちいさな娘のふたり暮らし。

お弁当もつくるし、一汁一菜だけれど朝夕の食事も懸命につくり、
洗濯もし、土曜日にはまとめてアイロンがけもする。
今度のクリスマスで、そういう暮らしが一年になる。

電話のむこうでは、飼っている小鳥のさえずりが聴こえ、
夏に捕った昆虫がどうだとか、運動会のお手伝いをしたとか、
他愛のない日常の暮らしぶりを伝えてくれる。

慣れない無骨な子育てだから、姉代わりのわたしに知恵を求めることもある。
〔朝の支度が連続の動作として身に付かない。
つい苛立ってしまう、自己嫌悪してしまう、どうすればよいのか。〕
・・・内緒で時計を10分進めてみたら、と応えてみる。

〔先生に宿題の提出を忘れつづけ、いつしか気後れしてしまい、
わかっていても提出できなくなっていることを知った。
娘の気持ちはひしゃげきって、一歩も動けない。
けれど先生にそれは届かず、怠慢を詫びるよう促されているようだ。
もうそんな日が何日も続いている。何度も娘と話し合った。
どうしたら娘が先生に自分の言葉で謝り、信頼を取り戻すための一歩を踏み出せるのか、
親としてどう援助してやればよいのか。〕
・・・先生とよく話し合って協力を求めてみたら、と応えてみる。
 わたしの言葉は選択肢のほんの一部だ。

考え抜いた末、父は娘に、「勇気を持て。」
「自分のおこないがまちがっていたことは事実で、それは向き合って直さなければいけない。
信頼は取り戻せなくても、信頼のために謝るのではないんだよ。」
ちいさい娘は、朝ごはんの時に自分で考えたことばをリハーサルして登校した。
まじめに胸を痛めた父娘はそんなふうに日々を懸命に生きている。

母子には有る、国の福祉が、父子には厳しい。
そして世間の目も厳しい。

娘を病院で見かけたが頭はちゃんと洗ってやっているのか、
洗濯して汚れを落としたこざっぱりした服装をさせないのか、
季節に合った色や素材の服装をさせないのか、
学校には理解してもらっているのか、学童保育の担当者は何もしらされないから
娘をはれもののように扱うじゃないか、
物ばかりを豊富に与えているが世話は不十分なのではないか、、、等々
わたしの耳にはいる外野からの痛い痛い尖った言葉の数々。

病院という非日常の多くの目がある場所に、とるものもとりあえず行っても、
そのときのたまたまの身なりから想像される。
学童の担当者たちは複数交代でパート勤務だ、全員に直接のコンタクトはむずかしい。
娘は好奇のそして吟味の目にさらされながら、しかし愛されなくてはならない。

娘は先日、学芸会で劇に出た。
こどもたちが夢を語る。
看護士になりたい、パン屋さんになりたい、、、、
ちいさな娘はアーティストになりたいと。
わかい父はこういうたとえ話をした。

「お父さんは王さまに仕えて仕事をして、ごほうびにお給料をもらうんだ。
アーティストはね、神さまに仕えるんだよ。
神さまは、一生懸命はたらいてもごほうびをくれないし、ほめてもくれない。
それでもいいとおもうなら、がんばってごらん。」
# by NOONE-sei | 2004-11-30 01:13

8夜 王様のアニバーサリー


わに丸が、王様に初めて珈琲を入れた。褒美を賜るにちがいない。
# by NOONE-sei | 2004-11-28 22:54

7夜 二尾でどうだ。


鯵の天日干しが二尾。
一尾足りない。喧嘩になる。

わに丸は分け合って食べるのを良しとしない。
王様は、亡くなった母が食卓によく鯵をフライにして乗せてくれた思い出があるという。
困る。
わたしはといえば、譲るほどうつくしい「日本の母」ではない。

そうだ、変わりご飯にしよう。

鯵をこんがりと焼く。飯の上にぽんと乗せ、へらでくずしざっくり混ぜる。
白炒り胡麻を振りいれ、最後にとっておきの大人の薬味。舌がしびれるほどぴりりとする、
山椒の実の醤油漬けを混ぜ込む。塩は要らない。
 蕪と胡瓜をざくざく切って、ほんの隠し味の砂糖と、粗塩と昆布茶、そして粉からし。
密閉容器の中でよく振って味をなじませたら即席漬け。
 じゃがいもは茹でておいたから荒く切ってころころと炒め、戻しておいた椎茸と、
昆布を水に入れてストックしておいた出汁と、同じくストックしておいたスルメの足の出汁を入れて、
砂糖をすこしと醤油で簡単煮物。出来上がりに刻んだ芹をばっと散らす。
 エリンギを細く手で裂いていれた、あったかい京菜汁でおしまい。

所要時間はごくわずかの夕げの支度。二尾でどうだ。
二尾しかなかったことを二人は知らない。
# by NOONE-sei | 2004-11-28 00:40

6夜 雲隠れ


今日、一年近くも雲隠れしていた結婚指輪をみつけた。

04.11.22
# by NOONE-sei | 2004-11-27 23:25

5夜 茶摘み


今年は長く収穫できた、豊作のピーマン。
霜がおりたら凍みてしおれてしまうから、
葉を摘んで、つくだ煮にして最後まで美味しく楽しむことにした。

茎は煮ても硬いので、葉だけを摘む。
大きなたっぷりとしたザルに葉を摘みながら、
ふと頭をよぎった 「夏も近づく八十八夜、、、とんとん」
これ、茶摘み唄か?このあとの歌詞はなんだっけ、、、。
冬間近に、なんて寒いうたを。
ピーマンの葉は、お茶の葉に似ているかもしれない。

酒をたっぷり鍋にいれ煮立て、砂糖と醤油、
そしてアクセントに、すりつぶした南蛮の麹づけを。
山ほど摘んだ葉をどさっと入れ、ぐつぐつ煮るといい香り。
味わいは、まるで葉唐辛子のつくだ煮。
でもわたしのはもうすこし柔らかくてあっさりしているかな。

息子わに丸の弁当は、男子の間で「渋い」と評判なのだとか。
弁当箱を洗うとき、入れた覚えのないアルミケースがよく入っている。
わに丸が弁当の蓋をあけると、当然のように隣から手が伸び、
ひょいひょいとおかずを摘んでいくそうな。
ひとしきりそれが終わると、とん、と何かひとつおかずが来る。

さて、葉唐辛子もどきの明日のおかずは、渋さ度が高いよ。
隣から、手は伸びるでしょうか。

04.11.21
# by NOONE-sei | 2004-11-27 23:23