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74夜 おとなになったね


弔事があると、悲しむ暇(いとま)を与えないためなのか、
さまざまな手続きに追われる。

うちは田舎なので普段なら出先の支所へゆくのだが、
その日は幾つか町なかの役所を巡らねばならなかったから、
いつもはあまり馴染みのない市役所へ行った。

本人確認があるので、母を伴なって行くと、
「こういうことは全部、役所が来てやってくれるものだと思ってた。」
西太后は下々(しもじも)のことに疎い。
さりとてわたしが聡(さと)いわけでもなく、
西太后ほどの上々(かみがみ)とはいわないが、中々(なかなか)くらいだろうか。
わたしのイメージの造語なので、ほんとうはこんな言葉は無いと思うが。

わからないということは本当に悲しいもので、
自分が何をどうわからないのかが、わからない。
わからないことについて、説明することもできない。
貧しい脳みそを総動員して窓口で説明するのだが、おぼつかないことこの上ない。
赤くなったり青くなったりしながら目も泳いでいたかもしれない。

ふとゆらゆら定まらなかった視線が、ひとりの女性に留まった。
  「×△○っ!!」
思わず役所のロビーで呼び捨てした職員は、卒塾生だった。
もう成人している彼女の代の塾生たちとは、昨夏も飲んだ。
十代の頃の、揺れていた彼女たちの姿も知っている。
しかしこんな所で天の助けになって現われるとは思いもよらなかった。
初めて彼女から教わる立場になったけれど、わかりやすく教えてくれる。
ということは、わからない者が何をわからないかが類推できるということ、 ・・偉い。

夜になって、彼女から電話を貰った。
今、役所を出たのでお線香をつけに行ってもいいか、とのこと。
同じ年頃のころのわたしに、そんな気遣いができただろうか。
ちゃんと社会人をやって、情もあって、上々(じょうじょう)のおとなぶり。

昼は父の祭壇の花々の手入れをしながらぽつぽつ訪れる客人の応対をし、
役所に通い、初七日や三日七日(みっかなのか)には親戚が集うので「ふるまい」をし、
夜になるとすこしさみしい、そんな日々を過ごしていた。
その晩は彼女にお礼がしたくて外での食事に誘った。

食事? ・・いや、飲みすぎなかったけど。
by NOONE-sei | 2008-03-05 01:56 | その五の百夜話 本日の塾(3)


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