むかし友人のお母さんに、「心を込めて買ってきました。」という言葉を教わった。 仕事を持っているかただったから、なにもかも手作りの食卓というわけにはいかない。 手早くならぶお皿もご馳走のうち。 この茶目っ気ある言葉の真髄を、このときのわたしはまだ知らなかった。 子育ては分刻みに忙しい。 忙しいとなると、ふたつもみっつものことが同時進行だ。 そしてやっかいなことに、そんなときに限って「僕を見てビーム」は全開になる。 あいづちさえ打っていれば、なんとかやり過ごせるかと思いきや、そうはいかない。 目だ。わに丸は視線を追うのだ。 視線が自分にないと感じ取るや、わたしという木によじ登り首にぶら下がったまま どんどんしゃべり始めて止まらない。 食事の支度のころにそれがピークに達したら、あきらめることにした。 わに丸を車に乗っけて、車の中で話を聞く。 なぜか視線はわに丸になくても許される。あたりまえか、、、。 信号の赤をわに丸は、「青にーーなれっ!」という呪文でどんどん青にしながら、 、、、と自分では信じ込んで、お店で今日のおかずを一品。 わに丸には、「特別だよ。」と言いきかせておもちゃ付きお菓子を一個。 そのお菓子はたいてい小さなラムネだ。 パック詰めのお惣菜をお皿に移し変えて食卓に。 作る時間とわに丸ビームを引き換えに。 子育てで疲れ果てながらも、生真面目に食の安全を追及するお母さんが、 わたしのまわりにはたくさんいた。 たまにならいいんじゃない? そう前置きして、わたしは友人のお母さんの言葉を言ってみる。 山や畑に馳せて心のこもった食材を揃え、おもてなしをする。 そういうご馳走を差し上げて、相手の喜ぶ顔で自分も満たされる。 そういう心構えでありたいとは思うけれど、 子育てをしながらふと気づいたことがあった。 いつのまにか、手作りにこだわり、温かさにこだわるあまり、 喜ぶタイミングを見落としていたこと。 ひとの喜びは食だけで満たされるものではないのに。 わに丸が充たされることより、作る自己満足に走っていたかもしれない、と。 無理をすることをやめにした。 今夜、じいじが病院から一時帰宅。 夕食はじいじの好きな海老のチリソース煮。でも作る時間がない。 うーーん、心を込めて、馳走だっ。
by NOONE-sei
| 2004-12-12 20:37
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