年長のお姉さまから聞いた話。 今ではどの子も貰うような、紙でできた長靴。 彼女がちいさな頃にはまだそれはハイカラで、誰もが貰うものではなかった。 それは聖夜の翌朝ではなく、夕げの席で父から手渡される。 もと軍人だった父上は子どもに厳格な父親だった。 クリスマスを家庭の行事にすることは許したけれど、 聖夜には役に立つ物を子どもに渡すならわしだった。 靴の中には菓子に手が触れる前に、まず「役に立つ物」が入っている。 ・・・たわし。家のお手伝いをするように、という意味。 こういった家庭で育った彼女が結婚したのは、父上と同じように厳格な人だった。 授かった子どもが少し大きくなり、やがてクリスマスが近づくと、「サンタさんはいるの?」 大抵の場合、親は通過儀礼として真実を告げるのが常だが、彼女のご亭主は違った。 ・・・「サンタクロースを疑ったら、その時から彼は来なくなる。」 そうしてその家の子は中学生になるまで、二度と疑いを口にしなかった。 わに丸が小学生の頃、友達が来てクリスマス会のまねごとでもてなす機会があった。 サンタクロースへの疑いを口にするのは上に兄弟のいる子ども。 そういう時は聞こえないふりでやり過ごし、なりゆきに任せるものなのかもしれない。 けれど、わたしは彼女のご亭主に習って、子ども達が雁首を並べている席で言い渡した。 「いろいろ思っているだろうけど、サンタさんを疑ったら二度と来てくれないんだって。」 幼稚園児のわに丸は、夜中にサンタクロースの鈴の音を聞いたことがある。 王様でもわたしでもなく立派な髭のサンタクロースだから、影だけでも見せようとしたのだが、 ぎっちりと目をつぶって耳だけを澄まし、わに丸は決して瞼を開けない。 掠れた静かな「メリークリスマス・・・」という声が遠ざかると、 やっと「サンタさんはほんとにおじいさんだった、、、。」とつぶやいた。 後に知ったことだが、わに丸はその時の印象が鮮烈だったことと、 疑ったら贈り物も貰えなくなると解釈して、思考そのものを停止させたのだという。 わたしの言い渡した言葉で、あの時の子ども達も思考を停止させていたのだろうか。 答えを聞いてみたいような、聞きたくないような、、、。
by NOONE-sei
| 2006-12-27 01:54
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