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84夜 真実の口 


年長のお姉さまから聞いた話。

今ではどの子も貰うような、紙でできた長靴。
彼女がちいさな頃にはまだそれはハイカラで、誰もが貰うものではなかった。
それは聖夜の翌朝ではなく、夕げの席で父から手渡される。
もと軍人だった父上は子どもに厳格な父親だった。
クリスマスを家庭の行事にすることは許したけれど、
聖夜には役に立つ物を子どもに渡すならわしだった。
靴の中には菓子に手が触れる前に、まず「役に立つ物」が入っている。
・・・たわし。家のお手伝いをするように、という意味。

こういった家庭で育った彼女が結婚したのは、父上と同じように厳格な人だった。
授かった子どもが少し大きくなり、やがてクリスマスが近づくと、「サンタさんはいるの?」
大抵の場合、親は通過儀礼として真実を告げるのが常だが、彼女のご亭主は違った。
・・・「サンタクロースを疑ったら、その時から彼は来なくなる。」
そうしてその家の子は中学生になるまで、二度と疑いを口にしなかった。

わに丸が小学生の頃、友達が来てクリスマス会のまねごとでもてなす機会があった。
サンタクロースへの疑いを口にするのは上に兄弟のいる子ども。
そういう時は聞こえないふりでやり過ごし、なりゆきに任せるものなのかもしれない。
けれど、わたしは彼女のご亭主に習って、子ども達が雁首を並べている席で言い渡した。
「いろいろ思っているだろうけど、サンタさんを疑ったら二度と来てくれないんだって。」

幼稚園児のわに丸は、夜中にサンタクロースの鈴の音を聞いたことがある。
王様でもわたしでもなく立派な髭のサンタクロースだから、影だけでも見せようとしたのだが、
ぎっちりと目をつぶって耳だけを澄まし、わに丸は決して瞼を開けない。
掠れた静かな「メリークリスマス・・・」という声が遠ざかると、
やっと「サンタさんはほんとにおじいさんだった、、、。」とつぶやいた。

後に知ったことだが、わに丸はその時の印象が鮮烈だったことと、
疑ったら贈り物も貰えなくなると解釈して、思考そのものを停止させたのだという。
わたしの言い渡した言葉で、あの時の子ども達も思考を停止させていたのだろうか。
答えを聞いてみたいような、聞きたくないような、、、。
by NOONE-sei | 2006-12-27 01:54


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