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62夜 占いは売らない?


今夜は王様が寄り合い。
酒を飲めない人でも、酒席に出る機会がある。
気の置けない仲間内で飲んで食べるのとは違い、なかなかに気を使いながらの宴席だ。

寄り合いといえば、父は夜のパチンコが好きで、わに丸が小さい頃には夕食後に出掛けた。
わに丸は、じいちゃんはどこに行くんだろう、何しに行くんだろう、僕はもうじき寝る時間なのに、と
いつも不思議に思っていた。
八時には布団に入れられて寝かせつけられるから、自分が寝れば「一日というもの」はおしまい。
けれど大人の一日は、わに丸が寝てもまだ終わらない。
わに丸は子供だから、自分の一日の終わりと大人の一日の終わりは、
時刻が違うということを理解できなかった。
どこにどこにという問いに、わたしはいつも寄り合いだと言った。
今思えば、寄り合いに限らず、わたしは結構嘘ばかりついていた母だった。

今朝のテレビで、今日の運勢というのをやっていた。
いいことだけを信じてあとは忘れることにしているのだが、今日の王様の運勢はいまひとつだった。
わに丸が試験期間で家を早くに出たあと、ゆっくりと起きてきた王様に朝食を出しながら、
「今日はね、人の悪口を言うとどこかに洩れていくらしいから、宴会、気を付けてね。」と告げた。
朝のスープの酸味はどうだろうかとか、オムレツは固すぎないかとか気づかいながらわに丸の話をする。
わに丸が今回の試験は赤点ぎりぎりだと言ったとか、
試験勉強よりも野球の引退選手や高校野球の東北大会の結果で頭が膨らんでいるようだとか。
王様は静かにうなずきながら食べている。

見送りながら、もういちど「今日は、悪口、、、」と言いかけたら、王様が、
「だから、わに丸の話を聞いても、なにも返事しなかっただろ?」
宴会ではなく、既に朝からその準備を始めたというわけ。
いつになく反応が素早いというのか、早すぎるというのか、返事は欲しかったんだけど。

ところで辻占(つじうら)という言葉があって、夜の町で占いをすることかと思ったら違った。
むかしむかし、万葉の頃には道行く人の言霊(ことだま)を聴くことにはじまり、
江戸の頃には子供が辻に立っておみくじを売ったのだという。
もう、夜の町の交差点に立っている子供なぞいないけれど、
今夜、ありったけの愚痴やら本音を酔った人たちから聴き、彼らを介抱しながら通りを歩いたら、
王様だけにはおみくじを持った童が視(み)えるかもしれないな。
by NOONE-sei | 2006-10-12 18:52


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