男の子をヤロ コ と呼ぶとかわいい。 犬をシワ コ と呼ぶように、猫をアク コ と呼ぶように、 男の子が動物の仔のような気がしてくる。 脱皮して「人間」になるのは女の子の方が先だけれど、 動物としての「人間らしさ」は、もしかすると男の子に生まれたときから備わっていて、 本能のようなそれは、いかにも人間くさい。 塾の事務室にいたら、教室からお経が聞こえてきた。 それも、坊主の声明(しょうみょう)のように声が和になっている。 昨年の三年生、高校生になったばかりの卒塾生たちは、 いろいろな思い出やエピソードを残してくれたけれど、すこし線が細くて痛々しかった。 だから、久しく塾での出来事は、おはなしとして書くにはしのびなかった。 その次の代がいま三年生になり、上のつかえが外れて伸び伸びしている。 声は、三年女組のおかしなハーモニー。 一昨年の三年男組は、全員で英語を独自のカタカナ英語に直して読んでいた。 そのバイリンガルぶりは大真面目で、れっきとした勉学の姿だったので笑うに笑えず、 修正させるわけにもいかないほど、「この単語はこう発音する」という確固たる規則性があった。 ・・その中のひとりの妹が兄直伝のお経、いや、カタカナ読みを皆に伝授したのだ。 一年ぶりに聞くお経は、こころなしか洗練されていた。 兄が同期の卒塾生数名と菓子の差し入れを持って顔を見せた。 妹にしたら本家の兄達に聞かれるのは気恥ずかしい。 兄達も分家のような現三年生に気を使って同席しなかったが、 心の内では「おれらの英語は最高だべ。」と思っていただろう。 王様にしていったのは、つまりはそれぞれの自慢話だ。 「ハンドボール部は、実力的にはおれらの高校が県下一だべ。」 「ウェイトリフティング部は、おれの重量級が県じゃおれだけだべ? んだからまっすぐ東北大会。全国制覇も夢じゃねーべな。」 スキマスイッチの歌に「全力少年」というのがあって、その中の『・・世界を開くのは僕だ!』 という歌詞が、大それていて大げさで、そこがなんとも好きなのだが、 このヤロ コ たちの熱くて暑苦しい語りは、歌そのものだ。 実際には挫折を知らない子たちじゃないし、悩むことの苦しさも知っている。 それでも語ってしまうこのヤロ コ たちの人間くささはなんだろう。 ・・汗くささ? 百夜話 72夜 とつくにのことば
by NOONE-sei
| 2006-05-27 03:11
| 新々百夜話 本日の塾(9)
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