昔、国語の教科書に「屋根の上のサワン」という物語が載っていて、 サワンとは鳥の名だったように思う。 教科書はその後何度も改訂があって、今の中学生はこの物語を知らない。 わたしは物語のあらすじをすっかり忘れており、誰かがサワンをサワシと誤って読んだ、 その可笑しさだけが記憶にある。 「屋根の上のサワシ」・・今思い浮かべるだけで、クラス中が笑いころげたその時に戻る。 笑うような物語ではなかったはずなのだが。 とても早起きした朝。 犬と散歩にでかけ、稲刈りが済んだ田んぼがちらほらある、澄んだ景色を眺めた。 田んぼには杭が打たれ、稲束が掛けられている。 まるで隠れる所がなくなったからのように、イナゴが減ったような気がする。 鳥がどの季節を教えてくれるのか、風物に関心を持たなかったわたしは物知らずだが、 この地ではトンビもサギも見るし、姿は見えなくとも、季節には良い声を聴かせる鳥もいる。 けれども、季節を問わずに姿を見るカラスは、異様な鳥だ。 大きすぎて黒すぎて、なにか心を許せない。 その朝、ある田んぼの杭の一本一本にカラスがとまっていた。 全部で二十羽はいたように思う。鳴き声はなかった。 そしてどこからか飛んできては、少しずつ増えてゆく。 不気味というより、奇妙な光景だった。 わたしはふいに、その集会に乱入したくなった。 これといった理由はない。けれど無性に。 田んぼのあぜをずんずん歩いて寄ってみた。 もちろん、カラスがわたしを歓迎するわけはない。 近づいたら一斉に飛び上がるが、飛び立つという形容は当たらない。 約束事のようにちょっと飛んでみせているだけ。 しばらくその場に佇(たたず)んでから、背を向けてゆっくりと歩き出したら戻ってきた。 わたしが見なくても、きっとあっちはわたしを見ていたんだろう。 鳥の俯瞰は精密なのだろうか。 色もきっと見分けるだろう。 カラスは知能が高いそうだが、わたしをいつまで覚えているだろうか。 次回の集会にも参加してみようかな。 右手の雲の中に安達太良山が隠れて見えない。 左手の雲の中には吾妻山が。 そうそう、昼は暑い日もあるのに、朝夕の涼しさにコタツを出してしまった。
by NOONE-sei
| 2005-09-30 18:16
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