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54夜 杭の上のカラス


昔、国語の教科書に「屋根の上のサワン」という物語が載っていて、
サワンとは鳥の名だったように思う。

教科書はその後何度も改訂があって、今の中学生はこの物語を知らない。
わたしは物語のあらすじをすっかり忘れており、誰かがサワンをサワシと誤って読んだ、
その可笑しさだけが記憶にある。
「屋根の上のサワシ」・・今思い浮かべるだけで、クラス中が笑いころげたその時に戻る。
笑うような物語ではなかったはずなのだが。

とても早起きした朝。
犬と散歩にでかけ、稲刈りが済んだ田んぼがちらほらある、澄んだ景色を眺めた。
田んぼには杭が打たれ、稲束が掛けられている。
まるで隠れる所がなくなったからのように、イナゴが減ったような気がする。

鳥がどの季節を教えてくれるのか、風物に関心を持たなかったわたしは物知らずだが、
この地ではトンビもサギも見るし、姿は見えなくとも、季節には良い声を聴かせる鳥もいる。
けれども、季節を問わずに姿を見るカラスは、異様な鳥だ。
大きすぎて黒すぎて、なにか心を許せない。

その朝、ある田んぼの杭の一本一本にカラスがとまっていた。
全部で二十羽はいたように思う。鳴き声はなかった。
そしてどこからか飛んできては、少しずつ増えてゆく。
不気味というより、奇妙な光景だった。

わたしはふいに、その集会に乱入したくなった。
これといった理由はない。けれど無性に。

田んぼのあぜをずんずん歩いて寄ってみた。
もちろん、カラスがわたしを歓迎するわけはない。
近づいたら一斉に飛び上がるが、飛び立つという形容は当たらない。
約束事のようにちょっと飛んでみせているだけ。
しばらくその場に佇(たたず)んでから、背を向けてゆっくりと歩き出したら戻ってきた。
わたしが見なくても、きっとあっちはわたしを見ていたんだろう。
鳥の俯瞰は精密なのだろうか。
色もきっと見分けるだろう。

カラスは知能が高いそうだが、わたしをいつまで覚えているだろうか。
次回の集会にも参加してみようかな。


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稲刈りを終えた田んぼ。稲束の積み方は地方ごとに特徴があるとか。
右手の雲の中に安達太良山が隠れて見えない。

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夕暮れの田んぼ。ここで早朝、カラス集会が行なわれていた。
左手の雲の中には吾妻山が。

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夕暮れの彼岸花。大嫌いな花なのに、そのあまりの紅さに目が引き寄せられてしまった。
そうそう、昼は暑い日もあるのに、朝夕の涼しさにコタツを出してしまった。
by NOONE-sei | 2005-09-30 18:16


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