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45夜 円卓の子供たち


王様のちいさな塾のおはなし。

ちいさな塾は、カーペットに座布団。大きな楕円の、木の机を囲んで、頭をつき合わせて勉強だ。
王様は、円卓が気に入っている。
円卓の騎士ならぬ、円卓の子供たちは、雪でも自転車で通って来る。

塾はちいさいが、やることはちゃんとやる。
学校の授業の内容、定期テストの過去の資料、全国の受験問題等々も揃っている。
 普段は補習型の、中学校の授業にきちんと歩みを合わせた授業。
中間・期末の定期テストの一ヶ月前からは対策講座。
春・夏・冬の学校の長い休みには、各期講習会。
理系・文系にそれぞれ専任の講師がいる。王様が文系。数理の講師はうちの塾には
もったいないようなヒト。うちのほかに、理系大受験生もみている。

ときどき卒塾生たちが遊びに来る。
進学が決まったとか、就職が決まったとか、目出度い知らせを持ってくることもあれば、
今度の(?)彼氏を見てくれとか、中には、親と喧嘩して家を飛び出してくる子もいる。
 携帯で怪しいサイトを利用した料金を払え、と多額の詐欺にあった彼氏のことで
相談に来た子の時には、警察の対策室と連絡を取り合って対応した。

何年もちいさな塾をやっていると、子も親も家庭環境も、さまざまな人間模様に出会う。
子供に関わるということは、同時に親の複雑な心理もやんわりと引き受けるということ。
 ときには親より熱心な祖母のお相手をする、実はこういう家庭は意外に多い。
そして気持ちの深さに、学ぶことも多い。
 またときには、母子家庭の子供が王様を父のように慕う場合もある。

王様が踊り手だとは、だれも知らない。
卒塾して大人になって、初めて王様の踊りを観た子は、ひとりだけ。
塾には演劇や踊りも混じった雑多な本が並べてあるが、子供の目には留まらないらしい。


 自分の塾を持つ以前に出会った子から、王様に突然連絡があった。
音楽大学を卒業し、先生になったという。
その子(もう大人なんだけど)の台詞。
すっかり気持ちは中学生に戻って、思い出と会話しているようで脈絡が
なくなってしまっている。おい、だいじょうぶか?ちゃんと先生、やれてるか?

「俺らと自転車に乗って、電車に乗って、河原をさがしまくって、芋煮しただろー。
あん時、リュックからネギ、はみ出てたぜー。
やっぱなー。
へんなひとだとおもってたよー。
机の上に、中井英夫の『虚無への供物』って本が置いてあったよなー。
俺、読んだよ、ずっとあとになってから。」

この子は未だに王様が踊り手だとは知らないし、円卓のない頃の出会いだ。
でも中には、ほんとうに大勢のなかには一握り、本に目を留めた子もいたということ。

どんな嗅覚で何に出会うか。
王様は、何を子供たちが引き当てるのか、なにもいわずに黙って観ている。
by NOONE-sei | 2005-01-11 17:32 | 百夜話 本日の塾(9)


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