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32夜 烏賊と蛸


今日はずっと雪が降り続いている。
父が病院から何度も連絡をよこす。

「門の上の松の枝が折れないように、支えをしろ。」
雪の重みで松の枝が耐え切れず、折れたらいけない。でも降りはたいしたことはない。
いくら言ってもきかないので、しぶしぶながら言われたとおりにすることにした。

外の物置から脚立やら、空のビールケースやら、角材やら、必要なものを
準備しながら、無性に腹が立ってきた。
(だいたい、幹の太さに比べてバランスが悪いと思うのだが、ひと枝だけを
門の上に長く張り出すなんて。)

 昔、父は素性もあやしい骨董屋から何百万円もする鎧兜を買いたくて買いたくて、
夜も日も明けなかったことがある。刀剣にも興味があるはずだし、もしかしたら、
虎や熊の敷物だって、欲しがっても不思議ではない。
いずれにしても趣味が悪いにはちがいないのだが、どれほどの悪趣味か、
知るのも恐い。
 あの、松への執着ぶりからして、きっと「カドマツ」とか名づけているに違いない。

脚立にのぼった瞬間、わたしの神経は三本くらい切れたんだろう、わに丸の名を呼び、
近所迷惑も顧みずののしった。
 そのときわに丸は、戸外でなにをしているのかをわかっていた。
わかってはいたが、わに丸には独自の時間の流れが常々あって、腰を上げる時間に
まだなっていなかったようだ。

 ご飯を食べるのに手を二本、食べながらパソコンで野球情報を得るのに手を二本、
食べながらキーボードを操作しながら携帯でメールするのに手を二本、極めつけに、
ご飯・パソコン・携帯・テレビのチャンネル操作に手を二本、わに丸はタコ男だ、
計八本の手足。

父は言わずと知れたイカ刺し。イカの足の数を知っているか?
計十本、歩いて病院の電話まで行けるようになったものだから、うるさい。

父はイカでわに丸はタコ。
いずれ劣らぬ無礼なやつらだ。
by NOONE-sei | 2004-12-29 23:26 | 百夜話 父のお話(19)


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