89夜 花束を買って


花束にまつわる話にはあれこれある。 

・その壱
女友達は、人が振り返るような美しさ、すらりと背が高く華やかな顔立ちのひとだった。
身持ちが堅くて男性には慎重で、すこしつらい恋もしていて、ずっと彼女の幸せを願っていたら、
ある日突然彼女から結婚するという知らせを受けた。
見合いの相手から百本の薔薇の花を贈られたら話が決まってしまった。
男性から女性に花を贈るというのは魔力だ。おおくの男性はそれを知っているだろうか。
すこし斜に構えてものごとを視る女性だったのに、その彼女が陥落するとはなにごとだ。
行ったこともない遠くの町に嫁に行ってしまって、彼女とは結婚式以来会っていない。

・その弐
知り合いの女性にわたしが花束の話をしたので、彼女は結婚記念日に花束をもらうようになった。
初めて花屋に行ったご亭主はどういう選び方をしたのだか、昨年の花束には菊が混じっており、
それは不祝儀だからと彼女が教えたら、今年の花束には白い百合が混じっていた。
カサブランカならいいが鉄砲百合は好みがむずかしい。
今度は薔薇だけの花束がいいと彼女が言ったので、来年こそご亭主は奥方好みの花束を贈れる。

・その参
お見合いに現われる青年に、前もって見合い相手の女性のために花かごを準備するよう助言した。
小さなレストランとは念入りに打ち合わせ、カジュアルで温かな席を作ってもらい、
クリスマスプレゼントとして彼が贈った花かごを見たら、白いトルコ桔梗が盛られていた。
初々しいことこの上ない。汗をかきかき花を頼む青年の姿が見えるようだった。
とはいえ、駅の花屋ではなくて、アレンジのうまい花屋を今度は紹介しなくては。

・その四
青年の母は昔、一度だけご亭主に花束をもらったことがある。
仕事帰りのバス停留所にある花屋で買って、汗をかきかき帰ってきた。
「・・恥ずかしかった」と言う普段は無口なご亭主にそれ以上の心境は訊ねなかったが、
だれがいったいご亭主に助言してくれたのかと、彼女は今でも不思議に思っている。

・その五
結婚間もない頃、年上のお姉さまの家で花屋から花束が届くのを見た。
夜に帰ったご亭主が王様に言った。
「結婚記念日には花束を贈れ。それで一ヶ月は機嫌がいいんだから、安いものだろう?」
王様が欠かさず花束をくれるようになったのはいつからだろう。
もしかしたらそのときのご亭主と同じくらいの歳になってからかもしれない。
初めは青いトルコ桔梗、次は白いカスミ草、薔薇になったのはやっと近頃かもしれない。

男性の花選びには選ぶ者の好みがあって、慣れないうちはとにかくどこかで見覚えのある花。
だから菊が混じってしまったりもする。
やがて自分が好ましく思う花を選び、可愛げを求めたり凛とした風情を求めたり。
そして、選び手やもらい手の好みがどうとかいうよりも、むしろ華やいだ花束らしい花束、
つまりは薔薇に落ち着くのかもしれない。
そう考えると、その壱のプロポーズの薔薇百本は究極の花束かもしれない。
女友達を遠くに連れ去った男性は、花を選びながら汗をかいただろうか。



c0002408_2574832.jpg
今年もらった薔薇の花束。見よ、長年の成果を。くすくす

追って:コメントで祝いの言葉を戴いてとても嬉しい。祝われるのはいつもどんなときも嬉しい。
     本日本当は結婚記念日じゃないんだが、あんまり嬉しかったので結婚記念日にしてしまいたいほど。
    
[PR]
by noone-sei | 2010-12-11 00:10


<< 90夜 怪獣の歯 88夜 白いろいろ >>