まだ一人だった頃、母と折り合いが悪くて家出をした。 わたしを案じて、王様の母がわたしに連絡をくれた。 王様の母は、日本の母を体現したような、包容力のある優しい話し方のひとだった。 娘のいない王様の母には、実母と娘が折り合えないことを想像するのは難しかっただろう。 王様の母にそういうことを想像しては欲しくない。 わたしは自分のことをうまく語れなかった。 その声の優しさにただただ泣き、あとになって腹立たしくなった。 それがなぜなのかよくわからない。 いいお母さんを持った王様が憎らしくなったか、 それとも、いいお母さんというものが世の中にあることが悲しかったか、 なにかに八つ当たりしたくなったのか。 鰐号がひとり暮らしをして一年になる。 初めは電話で今日の献立なんかを聞いてから来たのに、 今では昼となく夜となく来たい時に来て、 中学や高校の時のようにテレビで野球、PCで野球、携帯で野球、小型ゲーム機、 家族の茶の間を独占した後、風呂、飯、寝る、、をやってゆく。 鰐号が描く母親像は、鰐号の気分で話したい時には相槌を打ち、 温かいご飯、温かい風呂を用意し、ユーモアがあって明るい。残念でした。 わたしは鰐号の望みを叶えず居心地の悪さを告げるので、小競り合い大競り合いを繰り返し、 家財道具がひっくり返ったのは鰐号がはたちの時だった。 ひさびさに先日は茶箪笥が水浸しになった。 怪我をしなかったのは運動能力が高まったのではなくて、 居場所がなくなってわたしのほうが出て行ってしまったから。 母のお守りをして間を置かず鰐号に営業を強いられることに、我慢が利かなくなった。 犬小屋にでも家出すればよかった。 家出したわたしは父に連れ帰られたのだが、 あの時王様に、「家に帰れ」と言われなかったらどうだっただろうと今でも思う。 王様が鰐号に、「今、うちは大掃除中。おまえはしばらく出入り禁止」とメールをした。 鰐号が詫びるなどというのは記憶の遥か彼方なので、きっとまた いつものようななし崩し戦法で時を稼ぐにちがいないのだが、 家出したかったわたしと家に寄り付き過ぎる子ども、 わたしの家出は、どうして子どもに遺伝しなかったかなぁ。 ■杜の都(もりのみやこ)案内 並木は冬になるとライトアップされ華やかな夜の街は不夜城のような印象。 秋には大きな音楽のフェスティバルがあって、街のあちこちから音楽が聴こえる。 牡蠣料理店、牛たん屋、海鮮居酒屋などなど店を選ぶのも楽しい。 本屋やカフェやレストランにはカラーがあり、皆そう遠くない所にあって移動しやすい。そうした店々に置いてある小さな情報誌を読むのは楽しい。 地方都市が地方や中央をあまり意識しなくなって、自分の街で丁寧に文化を発信してゆこうという緩くて息の長い動きが感じられるから、わたしが学生なら住んでみたい街かな。一生かどうかはわからないけど。
by NOONE-sei
| 2010-04-07 01:39
| ときおりの休息 杜の都(4)
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