3夜 そっと「ハリーポッター」祭り


小粒の姉ちゃんは小粒より二級上で、
乱暴者でわがままな弟の世話を よくやりながら塾に通った。
ちいさいさんの時からおおきいさんになって、高校に合格するまで塾の子だった。
高校に行っても塾に通うと言うのを聞き流して送り出したが、
高校一年の夏に、塾の近くの寺の境内でやる盆踊りに来て以来、
塾に来たことはない。

寂しがりやで人間関係に敏感で、中学に通うのがつらい子だった。
末っ子の小粒とはまたちがう、姉として家庭環境内での役割があり、
小さいものや弱いものをかばうその子自身の肩は細く小さかった。
口や態度では強がるので、それは精一杯の自尊心だから、
王様もわたしも姉ちゃんぶりに調子を合わせるようにし、
その子の底に流れる情の深さをそっとくるんで見て見ぬふりで通した。

思い出はたくさんある。
もう幾年も前なのに、その子を思うとき胸が今でもちりちりする。
いつも「ただいま!」と言って塾に来るのを迎え、
他愛のない話をし、家庭の問題には意見を言わずに受け入れ、
あたしって結構不幸だ、と大きな声で叫ぶときには聞いて聞かないふりをした。

するすると育ってしまう子もいれば、つまづきながら大きくなる子もいる。
どの子も、自分がどんなふうに成長しているのか、
比べるものがないから自分のことはわかっていない。
大人であるわたしたちには、そこいらへんがよく見えているのだが、
言ったところで仕方がない。どんなふうになろうとも、待つより手がない。
できることといったら、気づかないふりをして見つめることだけだ。

小粒はわたしと作文を書くのは大嫌いで、屁理屈を言っては逃げ回った。
ではなぜ塾に来るのかといえば、王様とお相撲を取るのが楽しみだったから。
負けてやらない程度に構ってやるのだが、ぎゅうと抱きしめたら逃げるにちがいないので、
抱きしめる手前のお相撲を取る、これには王様も小粒相手に技術を磨いた。
中学三年まで小粒のはっけよいは続いた。

小粒の姉ちゃんは「ハリーポッター」のような小説が好きだった。
中学を卒業するまで、新しい本が出て読み終えるとわたしに貸してくれた。
巻が進むにつれ、上下巻に分かれ分量が増えた本を 
それでなくても重たい肩掛けカバンに入れ、塾に持って来てくれた。
不思議なことに、本を読むのも字を書くのも嫌いな小粒が、
そのときに限っては素晴らしい勢いの飛ばし読みであっという間に二冊を読む。
それこそあっという間、ものの十分かそこいらの集中であらすじを掴む。
作文といっても、給食の献立を書くような緩い記録文のときもあれば、
岩手、遠野の昔話をお国言葉で読んでやりあらすじを書くような高度な文章のときもあり、
実は小粒はあらすじを書くのが大変巧みだった。
頭のいい子なのだけれど勉強が嫌いで、ついにろくに勉強しないで卒塾させてしまった。

中学がつらかった小粒の姉ちゃんは、高校に入ったら友達ができて、
やっと居心地のいい居場所を見つけることができ、塾に来ることを忘れてしまった。
忘れるのを待っていたけれども、それから何巻か「ハリーポッター」には続きがあり、
会わなくなって、借りることができないのが嬉しいようなさみしいような、
続きは図書館から借りて、先ごろ最終巻を読み終えた。
お祭り以来会っていない小粒の姉ちゃんは、塾の子から高校生になり、卒業を迎えた。
最後まで読んだよ、と告げてみたいけれど、告げないままがきっと花なんだろう。



思い出のお写真
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小粒の姉ちゃんは、中学の行事、スポーツ大会がどうしても嫌で、
雨が降るように逆さまに下げたてるてる坊主。


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こんな絵をささっと描く。


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猫を描いたと思ったら、自宅で生まれたまだ目の開かない子犬を連れて来た。
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by NOONE-sei | 2009-03-08 03:27 | その五の百夜話 本日の塾(3)


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