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5夜 福の島のくらし


辛気くさい話が続くと思うだろう?
たしかに辛気くささと、あったまにきた、という心情が交互にまたは同時に在るんだ。

知人の犬が地震の前日に死んで、昨日また死んで、花束ラッシュで参る。
シワ コ なぞ、毎日眉をしかめて怒ったような顔をしてふて寝していたら、腹を壊した。
夕べは被災犬を見、酪農家が牛は手放し犬だけはどうにか保護する人に出会ったという。
まったく辛気くさいにもほどがあるので、真っ直ぐに家に帰る気になれず、
どれほど辛気くさいか夜の町を見てあたまにくることにした。

どうせやっていないんだろ?と思ったら、
ちょっと贔屓にしている小さな居酒屋が営業しているので驚いた。
店には、駅前で店をやっている親方がふたり、客になって元気に飲んでいて、
この地の方言丸出しでこの地をどうやって元気にするか、熱く、いやむしろ暑苦しく語っていた。
笑わせる内容なんだけれど、ふざけているだけでもない。

この地の娘を嫁にできないとは無礼だから、もう、いざとなったらこの地をひとつの国にして、
地産地消でやっていけばいいんだ、にはひっくりかえった。
地産地消って、農協が十年以上をかけて手がけてきた考え方であって、
嫁は大根とか蕪(かぶ)じゃないんだから。
いやそれを言うなら、この地の男衆は、もっと男を磨かなくちゃいけないんじゃないか?
・・じつのところ、食材を手に入れるには今までと違う発想が試されるだろうと言う。

へこんだみんなが、夜、店に来たら、「今日もおつかれさんナイ。」と言うんだそうだ。
どうたいへんだったとか、こうたいへんだったとか、そういう話じゃなくて、
「一杯やって明日もがんばっぺナイ。」未来とか今後とか、そういう話じゃなくて。
「役人も、夜は一杯やりに来たほうがいいんだ、気分が変わっぺー。」
「ナイターはちっと自粛してもらって、花見は盛大にやってもらって。
いいんだそれでナイ。花は咲いてる期間が短いんだから、あだりめーだべした。」
親方ふたり、まだ客はぼちぼちだけれども、店はとっくに開けて
旨い物を食わせて元気をつけてやろうと手ぐすね引いて待っている。
変換してみたら手ぐすねって深い。手で薬を煉るから手薬煉。
・・さぞかし旨い薬だろうよ。ここは、福の島なんだから。



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これはふたりの親方のイメージ写真。右の子どもが持っているのは、なんと紙幣。
 追記:質問があったので。撮影はわたしです。



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ネットで見たいい映像 All Together Now
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by noone-sei | 2011-03-31 00:10

4夜 島のくらし


浮き足が止まらない。
赤ちゃんの水にお母さんたちが泣いている。

停電や節電に我慢している小さな子のお母さんが、
被災地を思い、ご亭主の疲れを癒す晩酌に「これって贅沢なのかも・・」と、
ちらりと罪悪感を感じる。

それはわたしも同じ。
「たまの贅沢は、素敵でしょ。」と言って友人にドリップで入れたコーヒーを勧める。
そしてちらりと罪悪感を感じる。

今日、王様が三時間並んで三千円分のガソリンを給油できた。
地震後、初めて大きなスーパーに連れて行ってもらったら、
チーズや牛乳はなかったけれども、生鮮食品が並んでおり、
買い物客は大勢いたが、買いだめする様子もなく、
普段どおりに買い物をしていたので、たいそう安心した。
まだ収まらない原発に、重い気分を持ちながら、
それでもできるだけいつもどおりへと、皆の暮らしが始まっている。
そして、やっぱりわたしはちらりと罪悪感を感じる。

九州で暮らす、昔世話になったお姉さまから電話をもらった。
「水がなくなっちゃったの。みんな関東の知人友人親戚の赤ちゃんに水を送ってるのよ。」
とてもとても罪悪感を感じる。

この地に住んでいるというだけで感じる罪悪感。
死ななかったというだけで感じる罪悪感。
被災地は辛かろうと思うだけで感じる罪悪感。
日本中が小さな罪悪感でひしゃげ始めているんだろうか。
この、共鳴音を 耳を塞いで打ち消すには皆が傷ついている。
震災直後の体力と気力が底をついてきた。
本や音楽や映画やスポーツ、日々の晩酌、そうしたものに罪悪感を感じちゃいけない。

九州のお姉さまは、東京電力と国に怒っているでしょう?とわたしに訊ねた。
もう原発がなくなればいいと思ったでしょう?とも。
答えられなかった。それはとてもむずかしいんだ。
罪悪感の出処と、それを並列に並べて迂闊に話すことはできないな、と思った。

電話の本題は、わが家に移住を勧めるものだった。
「考えてみて」と言われたのはある大きな島。
とても具体的だったけれど、それはとてもむずかしいんだ。
日々の重苦しさの出処と、それを並列には考えられないかな、と思った。

・・「島のくらし」?わたし、海では浮き足立って泳げないからやっぱり無理だと思う。




□島というと
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昨秋に撮った宮城県の景勝地、松島。松島の牡蠣養殖は、養殖棚が流されてしまったが、
この点在する島々が緩衝材になって津波の勢いをやわらげた。
今日のスーパーに、牡蠣はひとつもなく、広島からも入荷しないという。
そうなると牡蠣が食べたくて、惣菜で売っていた牡蠣フライを買った。
・・ちらりとある罪悪感、食い意地には勝てない。
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by noone-sei | 2011-03-28 00:10

3夜 お茶の時間


王様の親友がそれはそれは心配して、幾度も王様に連絡をくれた。
王様がどんなに、うちの被害なぞ軽微なものだ、と知らせても、
なにかできることはないか、と、やせ我慢かと思ったかなおなお心配する。

鰐号と半年振りに時間を巻き戻し、新たな時間を重ねるために、話したり衝突したり。
二人はついにもみあいになり、割って入ったわたしは運動神経が無いので流血した。
ちょうどそのとき、別の友人からも、個人への宅配が営業所留め置きに復活したから
なにか必要な物はないか、と連絡が。
王様が「親子喧嘩につけるクスリを。」と即座に返信した。
流血で衝突どころではなくなって平常心が戻った。ついでに、そんなときなのに
ユーモアも戻った。いや、そんなときだったからこそか?

鰐号はもちろん悪かったんだが、わたしの我慢が足りなかった。
一方、王様は、我慢しすぎて時間が長いこと止まっていたと気づいた。
翌日、三人が揃ったので、朝の食卓を囲んでわたしが言う。
「じゃ、久しぶりにいっせーのーせ、でいくよ。 き・の・う・は。」
一斉に謝るという、うちの懐かしい仲直り法だ。
「ごーめーんーなーさいっ。」
鰐号は声を出さなかったけれども、頭をぴょこんと下げた。

王様の親友からもなにか送って欲しいものはないか、と連絡が。
鰐号は横浜の生ラーメンと豚饅頭がいいと言う。わたしは美味しいお菓子と言った。
そう送信したら、「被災者は被災者らしく、トイレットペーパーとか言わんかいっ。」と返事。
だって、今本当に必要なものは石油とガソリンだもの。それは送れないだろう?
個人になぞいいから、その気持ちを義援に充ててくれ。

朝食の後三人で、めちゃめちゃになったままだった木小屋と作業場の復旧にとりかかった。
現場の作業には、一服の時間がつきもの。
わたしは本当にこんなとき、美味しい洋菓子が食べたかったのだけれど、
その晩、親友からの連絡にはこんな内容が。
「炭とコンロ。いつ頃着くか分からんけど。
宅急便が最寄の営業所留め置きで着くというので、着いたらリヤカーで取りに行っておくれ。」
・・きみは、どうしてもわが家を被災者家族にしたいわけだね?



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いま、わたしがいちばん欲しいのは、こんなお茶の時間。



※「王様の千と線」のこれから

このウェブログはおはなしを綴っています。
数のない夜は闇夜ですが、数のある夜のおはなしは、わたしの大切なトレーニングの場です。
闇夜に足を掬われない、闇も魔もある水の上澄みを掬う、そんな心持ちを持ち続けるためにあります。
日本中に広がりつつある天災や人災や大きな被災になすすべなくとてもつらいこの気持ちは、
それでもひょいひょい顔を覗かせるだろうけれど、今夜から数のあるおはなしに戻りたいと思います。

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by noone-sei | 2011-03-24 00:10

数のない夜 夢の花


 ・長いおはなしなので時間のあるときに読んでくれたらいい

あとひと月したら、花が咲き出す。
野も山も、桃色、黄色、真白、青の花々が。
そんな景色が見たいんだ、今年も。

誰もいないところで花だけが一斉に咲くのかもしれない。
そう言ったひとがいるけれど、それはさみしい。

お彼岸はお彼岸だから。
そう言っていつもどおりに墓参りをした。
みんな墓に参っていて、どこで買えたのかちゃんと花が供えられていた。
うちも、王様が仕事帰りの自転車で洋花を買ってきてくれた。
王様は先日誕生日だったのだけれど、自分のためでなく父の墓参のために。

わたしは王様の誕生日を忘れていなかったよ。
結婚してずいぶん経つけれど、今度こそ、ちゃんと日付を覚えられたような気がするよ。
誕生日の献立を聞いて聞いて。 ・・ちらし寿司。
地震の前に買ったまぐろはさっと湯通ししてヅケにしておいた。
冷凍しておいた海鮮や缶詰、夏に干して揉みほぐした紫蘇の葉は酢飯に混ぜ込んで。
陸の孤島の食生活は、秋に一年分を玄米で買っておいた米がまだ残っているから大丈夫なんだ。
その数日前には畑のフキノトウをてんぷらにした。
原発の備えとして換気扇を使ってはいけないというお達しがあるのだけが不自然だった。

食生活には不満を感じていない。
畑から、土に埋めておいた大根も掘り出しておいたし、ネギも白菜もある。
青々とした葉の小カブもたくさん摘んだから緑の野菜もある。
買っておいたトマトはオリーブオイルとニンニクと鷹のつめでソースにした。
肉は塩で揉んで日持ちするようにした。
それらを少しずつ、いっぺんに使い切らぬように工夫して、毎日の食卓を作る。
そう、食卓を作る、そういうイメージだ。

被災などと言うのは恥ずかしいくらい、わが家はちゃんと暮らせている。
そしてラジオでは本日現在の死亡者数と不明者数と放射線の数値を定期的に放送する。
さまざまな現場からの生の状況を知らせるメールと音楽のリクエスト、
それらを聴きながらちゃんと暮らしている。
救助された人の数も定期的に放送して欲しいとも思う。

ちゃんと暮らすための食べ物を これまでおすそ分けで人に送ったりしていた。
よろこんでもらったり、調理の仕方を教えてあげたり、食べ物はそんなふうにして
わたしとその人を繋ぐ時があった。
これから、そんなちいさな愉しみが摘まれてしまうのか?
この地や、この地に暮らす人々や子どもは、この先、特別な目で見られるのか?

「セイさんちは逃げなかったの?△△さんちは子どもを飛行機で関西に逃がしたよ。
うちの近所は県外に逃げた家でスカスカだよ。」
高台に住む知人が電話をくれた。彼女の子どもは鰐号と同級生で、看護師一年生。
大きな病院に勤めていて、貴女たちは最後の砦だから、とヨードをひと瓶、
じつはずいぶん前にもらったんだという。
米を背負わせて、高速バスで勤め先に向かうのを見送ったと言った彼女。

「いいからいいから、って患者さん置いてっちゃったんだよ。手続きしなきゃって言ったら。
精神疾患の患者さんに出す薬、ないの。もう、ワイルドになっちゃって。
で、ほかの患者さんがね、わたしたちソフィスティケイテッドされてますねー、って言うんだー。」
ほんとうは笑うところじゃないんだが、「いいからいいから」を合言葉に働く医者。

「六号線の横はすごいよー。田んぼに船がいるんだからナイ、あははは。」
明るくそう言って相馬からこの地まで何十キロも走って餡子(あんこ)を買いに来た菓子店。
「ぼたもち、作ったべか?」避難から帰ったばかりの菓子店に聞きに来た客。
岸のむこうにいるご先祖のために、仏壇にぼたもちを供えたいじゃないか。
お彼岸はお彼岸だから。

「法事は法事だから。」と、幼なじみの一周忌に、原子力発電所から約三十キロの村で
客を三十人も集めて酒盛りをした村の年寄りたち。もう、動く気はないんだそうだ。

庭の福寿草と椿と、王様が買ってくれたチューリップを墓に供えた。
菊はきらい。だいいち秋の花だ。ひと月ののちには、春の花がもっと綺麗だ。


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おまけ
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by noone-sei | 2011-03-22 00:10 | 数のない夜(23)

数のない夜 夢のひかり


うちにはマリーアントワネットが居て、彼女は以前、
西太后、と、わたしにひそかに呼ばれていた。
七日前の地震以来、敷地の外に出ていないから、映像に映るものたちが
本当のことに思えないでぴんとこない。
燃料がなくて王様が毎日往復十五キロの道のりを「これじゃ健康になっちまう!」
と言いながら自転車で塾じゃないほうの日中の仕事に通っていることや、
仕事をすることが経済活動の復興の小さな一歩であることや、
個人のところまでまだ物資が届いていないことがよくわからない。
「米は飽きた」だの「風呂がないなら追い焚きすれば」などと言って笑わせてくれる。

今日は「買い物に行きたい」と言うので、現実を知るにはいい機会だと
一番近くで今日は開いているという店に連れて行った。
まだガソリンの供給がないので実はとても痛かったんだが。
途中、あれほど頻繁に音がする消防車の正体もわかった。
「救援物資輸送中」と大きな幕をつけたトラックの先導をしていたからだった。
外から帰ったら箒(ほうき)で体を払い、うがい手洗い顔洗い。
流通が滞っていること、避難してきた人たちがいること、放射線を避けねばならぬこと、
現在の二重三重の困難をわかってもらいたかった。
買い物は目に光が宿る。たいしたものが並んでいなくとも。

帰ってから、母が言った。
「あれほど反対したのに。安保の時も原発の時も、労組はがんばったのに。
危険だってわかってるあれを持ってこられたのは、この県が貧しかったからだ。
世界に県名をこんなふうに有名にしてしまって、恥ずかしい。」
世界という名を口にした、西太后改めマリーアントワネット、たいしたものである。




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映像はもういい。夜になってから王様と原発についての特集をしっかりと見る。
寝る前に小一時間、海外ドラマを観て気持ちを切り替えるんだが、
たまたま借りてきていたものはほんの数本なので、繰り返し観ることになる。
吹き替えで、字幕で。なんだか英語の勉強だね、と笑う。

日中は大昔のラジオを発掘してきて聴いている。これが、いい音なんだ。
今日のFMは、子どもも大人もなんでもリクエストしてくれ、と言って、
子どもたちにアニメ「ワンピース」のオープニング曲を
卒園式を迎えられなかった母と子に「思い出してごらん」(詞:増子とし 曲:本多鉄麿 )を。
なんだか、泣いてしまったよ。そのわけは、
せめて子どもや若者には放射能の被害が及ばないようにと、周囲は皆それを祈っているから。
ほんとうに心から祈り続けているから。


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きのうは雪が降ったので外で遊ばせた。
映像で放射線を屋内に持ち込まないための画像を流している。
犬だってうがい手洗い顔洗い、でも犬はうがいだけはできないんだよねぇ。


□おねがい
ネットで訪問して観る美味しいごはん、いい映画、美しい言葉。
しかし中には終末への叫びのようなものもあって、
それは搾り出すような励ましだったり親切な情報だったりする。
けれども、どうぞどうぞ、お願いだからいつもどおりに暮らしてくれ。
情緒を揺らすことに、どうぞどうぞ、堪えてこらえて見守ってくれ。
堰を切ることなく。


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いつもどおりに。


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いつもどおりに。





※現在の状況と心境

計画停電や物資の枯渇不安などでご迷惑をおかけしています。

きのう、数件を除いてだいたいの親戚の安否確認ができました。
海の近くの親戚だけがまだ連絡がつきません。
余震は、小さな揺れと大きな揺れを感じ続けるのではなく、時間を置いた大きな揺れに変わってきています。
食材の点検をし、レシピをたくさん書いたのですが、寒さのためボールペンのインクの出が悪くかすれます。
すこし腰が痛いので、ごみ袋を切って巻いたら体温を若干保てるようになりました。
原発の心配でこの地を陸の孤島のように感じ、一日のなかでも気持ちが正と負を行ったり来たりします。
決して四十年前にできた原発そのものは希望を与える「ハヤブサ」ではないけれども、
技術者や関わる人はきっと「ハヤブサ」のスタッフと同じではないかな、と受け止めたいと思います。

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by noone-sei | 2011-03-18 00:10 | 数のない夜(23)

数のない夜 夢の途中


王様が炊き出しの手伝いに行っている。
原子力発電所から避難した人が約二百人、近くの大きな体育館に来たんだという。
夜分で食べる物の供給が間に合わないので、食品加工関係者に行政から依頼がきた。
関係者は組織として受ける間がないので、身近なところで賛同者を募り、
有志の被災者が重い被災者に炊き出しをすることになった。
朝に温かいおふかしの握り飯を提供できるよう、今、蒸し釜を準備しているところ。
それにしても食べ物が足りなさ過ぎる。
そして体を温めるものがなさ過ぎる。

こんなふうに、この地では人が人にできるだけのことをしようとしているのだから、
関東で聞き及ぶ、食糧の買占めなぞはやめてほしい。
そんなことをせずとも、あたりまえに欲張らずに暮らせば、
あたりまえに食べるものが口に入る流通が、まだあるではないか。
電車だって動くようになったではないか。
やっとつながった電話で、王様の実家埼玉から、父が食糧の確保に難儀していると言った。
わが家にまだ米はあるが、流通が途絶えていて送ってやることもできない。

町で給水車に三時間も並んで水をもらう人々がいる。
せめて知っている人にはメールで水を汲みにおいで、と連絡している。
できることをできることからすこしずつ始めることが復旧の始まりだ。
ほんとうに恐ろしいことはこれから起こるのかもしれないけれども、
こうして日々を精一杯送っている身には、その緊迫感がまだよくわからない。
ガソリンや石油の供給がほとんど止まっているから、
明日の自転車の確保をすることが生活の延長にある。
劇的なニュースをテレビで見るよりも、ラジオで人々がなにかを提供するとか協力するだとか、
そういうお知らせのほうが身に迫り真実味があると思うのはおかしいんだろうか。

今日も余震があるのだけれど、揺れていないのに揺れているように感じたりする。
三半規管がすこしおかしくなったかもしれない。
今夜の空には星があり、半月の月がかかっている。・・半と半、まるで駄洒落みたいだけど。



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作業場の倒壊現場


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悪い夢が覚めますように。


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悪い夢が終わりますように。




※感謝します

無事でよかったというコメントの数々、ほんとうにありがとうございます。
たいへんに嬉しく心強く、じんわりと読ませていただきました。
「死ぬ時は死ぬんだからさー」などと明るさを取り繕うのは嫌かな。
淡々と生活しつづけなくちゃいけないな、と思っているところです。
見守っていてね。

本来ならば、コメントをくだすったおひとりおひとりにお返事コメントをしたいのですが、
こうしてまとめてお礼を述べることをお許しください。

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by noone-sei | 2011-03-13 23:12 | 数のない夜(23)

数のない夜 夢


覚めない夢が続いている。
地面がおぼつかない、海で揺られるような気持ちの悪さ。
揺れは長くて怖い。

その揺れのなか、飯を食い、眠り、遠くのひとや近くのひとを思っている。
眠ると、おかしな夢ばかり見る。
化粧したふとっちょの男が出てきたり、ばさばさと白い雪が降っていたり。

山あいの温泉町にある本家の屋根には雪がたくさん積もっており、
茶飲み話の最中(さなか)にも、時々どさどさっと音を立てて雪がずり落ちる。
地震が起きた時には、わたしは母を連れて本家にいた。
家に掛け流しの温泉があるので、わたしは風呂をもらって
立ち上る湯煙に雪が降るのを見ながら湯につかり、
温まった体を拭いていたら地震がきた。
ほんとうに素っ裸で外に出なきゃならないかと思った。
着替えを引っつかんで、わちゃくちゃに着替えながら茶の間に走ったら、
たくさんのこけしががらがらとガラス戸を破って落ちるところだった。
明かりはぱしっと光って消えた。
母は揺れが気持ち悪いと言って夢遊病のように歩き回るので困った。

地元の消防車が、小学校のガラスが割れたから避難所を支所に替えると
拡声器で伝えながら走った。
町から上って来た車に、山の下は信号機が消え、道路はところどころ陥没していると聞いた。
すぐに自分の家の様子を見に戻りたかったけれど、
女所帯の本家が近所から面倒見てもらえるとわかるまでは家から離れられなかった。
本家はすぐ裏手が山なので、二次災害も気がかりだった。
車の中で余震を感じながら、吹雪の夕暮れ、地割れと陥没した道路を運転し、
途中の店で弁当を買い、やっと家に着いたら王様と鰐号がいた。

アパートに、こもっているんだか立てこもっているんだか、と、
その引きこもりぶりに苦笑していた王様は、じつに半年ぶりに鰐号に会った。
夜中や朝方や家族が留守の時に家にやってきて、黙って帰る鰐号に、
わたしは最近数回会っていた。そしてひきこもりは長期戦だと思っていた。

地震が起きた二時四十五分、家には鰐号がひとりで居たらしい。
長い眠りの夢から覚めたように、急激にドーパミンが放出されたのだろうか。
鰐号は震える犬と音に驚く犬を二頭とも掴まえていたのだという。
その後ろでは食器棚から磁器や陶器が飛び出し、階段の本は散乱し、
家の周囲では、庭の石灯籠が崩れ木小屋や作業場の材木類はめちゃくちゃになっていった。
鰐号は孤軍奮闘していて、割れたものを片付けているところに王様が現れたというわけ。

家を鰐号に任せ、王様は塾の被害を見に行った。
小さな塾は外壁が剥がれ落ち、中は足の踏み場もなかったという。
明日は王様と鰐号が、ふたりで塾の復旧にゆく。




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こんな雪が降る日の地震。



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木小屋の倒壊現場。



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写真を撮りに外に出たら、畑のふきのとうが開いていて、なんともいえない気持ちになった。




※現在の状況

災害ダイヤル171に声を入力しました。携帯電話も固定電話も繋がらず、どこにも連絡できません。
本家では電気がないのでラジオの情報だけが頼りでした。海の惨事の規模はあとになってから知りました。
わが家は電気が通じていたので、炊事ができました。水は地下水をモーターで汲み上げています。
消防車がひっきりなしに走っています。
今日になって電話が繋がりました。かかってくる電話は受けられますが、こちらからは通じません。
山の途中にあるわが家は被害が少なかったけれど、山と町では電気にも水にも困っています。
町では火事や家屋の倒壊があります。
余震はたいへん怖いです。また、原子力発電所の事故による影響がたいへん心配です。

ご心配くだすっているみなさま、ありがとうございます。


犬たち
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by noone-sei | 2011-03-13 00:10 | 数のない夜(23)

2夜 桃雪の節句


今日は桃の節句。

春の桃とは名ばかり、朝から雪が吹き降りて、外のバケツには氷が張った。
公共の水道ではそうはいかないんだが、わが家は地下水なので、
寒い間は一日中、外にある水道の水を細く出しておく。
昔は台所や洗面所の水も、夜はそうしていた。
うっかり栓をきゅっと締めて寝てしまうと、夜に水道管の水が凍ってしまって、
朝には水が出なくなり、昼には解けて激しい勢いで噴出するということがあった。
水道管が破裂することもあるので、寒い夜には水との相談が要った。
古い家では、今でもそうしているのじゃないかな。

畑にいたずら心で植えた蕗が、フキノトウになってたくさん芽を出した。
フキとフキノトウは同じ根のものなのだと、一年を通して見るとやっと分かる。
花のない時期。そう思っていたら、福寿草が咲き始め、
日当たりのいい畦道(あぜみち)には、小さく青い花がびっしりと咲いていた。
やっぱりもう春なのかしら。

今年はついぞ雛飾りを出さずにしまった。
そのかわり、甘酒を飲んで和菓子を食べ、母と茶飲みをした。
週末には、田舎に住むわたしが言うのもなんなんだが、
すばらしく田舎の町の雛祭り、つるし雛を見せに連れて行く。
運転がたいそう不安なんだと女ともだちに言ったら、予行演習をしよう、と、
山坂越えて車を走らせ連れて行ってくれた。
今度は自分で運転してゆけるだろうか。やっぱりたいそう不安だ。

わが家のお雛様は、おでかけはわたしといつも一緒。
こんなふうに濃密に過ごす日々が来ようとは思ってもみなかった。
わたしは母のお内裏様か、父の代わりか。
わたしを言葉で傷つけてきた母を 密かに西太后と呼んでいたけれど、
ちかごろ、ありがとうが言えるようになった母をお雛様と呼ぶ日が来ようとは、
やっぱり思ってもみなかった。


今夜のお写真は、その田舎町で見ためずらかな物たち。


□春のめでたさ
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サンシュユという花。春一番に咲く花なのだって?


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「すあま」だろうか。桃の節句にちなんだ餅菓子。


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つるし雛。稚児の形だろうか。


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まつぼっくりに丹念に布を挟み込む。


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こういう手仕事は、材料で違いが出る。
小さなものでも木綿と絹では光沢が違うので見るとわかる。


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おめでたいから、真っ赤な海老。あんまり写実的なので、思わず漢字で「海老」と書いてしまった。


□めずらかな物
この町では、商店街のおかみさん達が一年かけてつるし雛を作り、
それを節句の時期に店に飾って、商品とともに自由に入って観てもらう。
肉屋、電器屋、スーパーマーケット、皆、店内に飾りがたくさん吊ってある。
ここは荒物屋で、昔のアルミ弁当箱や見たこともないような金物が並んでいた。
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五徳もめずらしいと思うけれども、書いてある文字が読めない。
セリだか市場だかで業者が使う専門用語なのだとか。


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モグラ捕り。うちでは以前に居たコリー犬、クロ コ がモグラを捕まえてくれたっけ。


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イタチ捕り。農家にしてみれば、イタチやハクビシンは害獣だったんだなぁ。
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by noone-sei | 2011-03-04 00:10