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25夜 ときおりの休息 弐  あこがれの


「あこがれのハワイ航路」という懐かしの歌があるじゃないか?
わたしは歌える。
そんな機会はめったにないんだが、歌うと皆ひっくりかえる。
そんな歌を知っていることそれ自体に、驚かれる。

もとよりわたしのおはなしは、生まれ育ったちいさな山あいの歳時記なのだけれど、
語ると同世代にさえいつの時代の話だと驚かれる。
住む場所がすこし離れているだけで、こうもお伽噺に聞こえるものかと。
ただ、もしもこの地にあり続けて今があったなら、
きっとおはなしを書くことはなかったと思う。

山の中で育ったわたしは、自分の居る場所を見ない、興味を持たない子供だった。
山の名も草花の名も、それらの美しい時期も、ただ目からこぼれていた。
見ようとしなければ目には入らない。
歳時はわたしとは関係のないところで綿々と続いていた。
それら身の回りのことが、ようやく目に留まるようになったのは、
いちどふるさとを離れてふたたび戻ってからのこと。

盆暮れや法事には、都会から帰省した伯父たちが、懐かしそうに昔語りをする。
そういうとき、すこし悲しくてうざったいような、妙な気分になるのが常で、
できるだけ居合わせないようにしたものだった。
親に財があれば、長男に家屋敷田畑(でんぱた)を継がせるほかに、
農業に従事しなくとも次男以下にも土地を与えて近くに住まわせることができる。
けれど、分けるものがなければ、都会へ出て働くしかない。
都会というものが、出たくて出るあこがれの場所とは限らないことを
ちょっぴりちりちりと子供ごころにも感じ取って、それで一緒に居たくなかった。

あれからずいぶんと年月が過ぎた。
今でも伯父伯母そして母が、顔を合わせれば昔語りをする。
なおなおそれらには磨きがかかり、美しい話を聞かせてくれることがある。
「王様の千と線」は永遠の六十九歳が繰る記憶と嘯(うそぶ)いて、
このようなおはなしを書き続けていると、ちいさくてなにげない日常が、
いとおしく思えることがあるから不思議だ。




      ふるさとは遠きにありて   詩:室生犀星


   ふるさとは遠きにありて思ふもの

   そして悲しくうたふもの

   よしや

   うらぶれて異土の乞食(かたい)となるとても

   帰るところにあるまじや

   ひとり都のゆふぐれに

   ふるさとおもひ涙ぐむ

   そのこころもて

   遠きみやこにかへらばや

   遠きみやこにかへらばや



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                             * * *


ここからは、「あこがれの大阪航路」のおはなし。

王様とふたりで夜遊びに出かけると、串揚げ屋巡りをしていたことがある。
昨年の初夏に大阪で食したものの数々、ことに串かつをわたしが自慢したものだから、
それならこの地にも数軒ある店を食べ歩こうというわけだ。
けれど、どて焼きを食せる処はなく、王様のどて焼きへのあこがれはつのった。

王様は、鰐号がまだわに丸の頃それもほんとうに小さくて可愛かった頃に、
帰ると寝顔しか見られない日々を取り戻すように、
無理して一年に一度は二日休みを取って旅行に連れて行った。
けれど、わに丸が大きくなるにつれ、それもできなくなって久しい。
わに丸が憎たらしい鰐号になったころには、休みそのものがなかなか取れなくなっていた。

このたび、王様はぽっかりと平日に二日も休みが取れた。
こんな機会はめったにない。
あちこち旅の案を出し合ったのだけれど、
あこがれを現実にしよう、しかも会いたい人にも会おう、と決めたら、
東京からもその旅に参戦するという声もかかり、
それならばと、学生のようないきあたりばったりの愉快な旅にすることにした。
旅に付き合ってくれた友人たちに心から感謝している。


では、王様のあこがれ、食のあれこれを。
■串かつ
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どて焼き。甘い味噌がからんだ牛すじ。


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串かつ。玉ねぎ、タコ、イカ、しし唐、豚肉 ・・忘れるくらいいろいろ。


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貝柱、エビ ・・わたしはエビ好きなので。くすくす


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たまご、まるまる一個。


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ジャンジャン横丁のてんぐという店には、昨年行きそびれてしまったので、
わたしはずっと行きたいと思っていた。
以前、東京からの友人に先を越された時にはどすんばたんと悔しかったのだった。
このあとの喜びの小躍りは写真がないのでお見せしない。
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by noone-sei | 2009-08-31 00:00 | ときおりの休息 弐(8)

24夜 東京散歩 参


 ・メンタルな話なので引き寄せられる人は読まないほうがいい

  
昨夏は新盆だったから、二十日盆、三十日盆(みそかぼん)が来た。
今夏はあっという間、たった三日のお盆。
迎え火もたった三日。
父はきゅうりの馬でやって来て、ナスの牛に乗って帰って行ってしまった。
行ってしまうとさみしいのだが、来る前は気が重かった。
わたしは父を思い出したくなかった。
母は、亡くなってから一度も会っていなかった父に、
盆の入りに夢で逢ったのだという。
笑顔で幾人かの人たちと談笑していたというが、言葉は交わさなかったのだとか。

盆の慣わしに追われてさえいれば、気持ちがやるべきことにとられるから、
ほんとうは手は動き脳は使わないはずなのに、
あの世からの人たちに会いに、あちこちの墓や家々を巡るのには気が滅入る。
ほおずきとは鬼灯と書くのだな。
鬼に気をすくわれないよう、ついつい顔から表情が消える。
夏の虫は飛んで火に入るのだろう?
迎え火を焚いていたら、細い薪が赤から置き火に変わるのが虫に見えてきた。
木を這う虫が骨を這う火の虫に見えたのは、火を見すぎたからなんだろう。

本家は新盆でなくとも毎年きちんと盆棚を飾る。
盆ござを掛けた棚には位牌や写真やお盆さまへの供物。
上の横棒には杉の葉、ほおずき、麩のまんじゅうを下げる。
供物はナスとささぎをみじんに切って生米を混ぜたもの、切り昆布の煮物。
本家は分家や新宅とちがって忙しい。
自分のところのご先祖さまだけでなく、本家を出た人たちの墓を巡る。
竹筒と花と線香を用意して、花を供える筒には屋号を書き記す。
参らねばならない墓がたくさんあるので、すべての家のお盆さまにまでは
手を合わせに寄ることができないから、墓に参ったしるしを残すのだ。
朝早くからの墓参りを済ませて帰るともてなしの準備。午後は本家を出た人たちが集まる。

小さい頃には、都会に出た伯父や伯母の家族が本家に集まって賑やかだった。
夜、子どもたちは浴衣を着せてもらって盆踊りに行った。
昔は面を付けて踊ったのかもしれないが、今はうちわを手にして、
それをやぐらから木々に渡した綱に点ったたくさんの提灯にかざして踊る。
そして盆踊りを終えると、土産を持って都会という生活の場に帰る人々。
踊りに紛れたご先祖さまには逢えただろうか。

ふるさととはなんだろう。
子どもたちが巣立ってひとりになった友人は、
家を引き払ってもっと手狭なマンションに住み替えようとしたら反対されたという。
自分たちは出てゆくくせに、戻るべき、または戻ろうと思えば戻れるかもしれない場所を
残しておきたいというのは傲慢というものなんだろうか。
ふるさとに帰ってこなければならなかったわたしには、
出て行った者や出てゆかなければならなかった者のことはわからない。

東京は特別な町だ。
地方から行った者は、残してきた地方とどう折り合い、
そして日頃はそれをどうかき消して過ごすのだろうか。
普段は忘れているのだろうか、忘れようと努めているのだろうか。
偲んで過ごすのはきつかろう。
遠くに行った者の家族はうまく暮らせているだろうか。
近くに面倒見のいい先住者をみつけただろうか。

先日、郊外から都内への僅かな往復に乗った電車で、おかしな人をたくさん見た。
流行りだからと初めて着たような浴衣の人、
電車の中で化粧をする、隙だらけの女の子、
上から下までエレガントで美しい身なりなのに武装感たっぷりの女性、
座席にパンを広げて食べる年のいった母娘、
鳥打帽に金のネックレスをした、シャツの襟を広げ胸元から胸毛を見せている男性、
若い頃は愛くるしい女の子だっただろうに黒一色の服装に濃い化粧の女性、
秋葉原から乗った年配の男性ふたりの、持っている手荷物と口調の不思議さ。

これらの人々は、いつから東京に住んでいるんだろう。
地方に、残してきたふるさとがあるんだろうか、それともはじめからそこに居たんだろうか。

 
                                *

今夜は東京駅や丸の内周辺のお写真を。


□丸の内周辺
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こじゃれたカフェ


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カルティエゴルチエのショーウィンドウ


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ふたりづれ


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マロニエの並木道
手入れされた花や観葉植物が植えられていたり、吊り下げられたり、景観への配慮があった。



□建物
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三菱UFJ銀行
顔にあたる近代建築を残しつつ、後方に高層ビルを建てた銀行。


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偉そうなビル
威圧感のある建築物だと思ったら、これが新丸ビルだった。



□東京駅周辺
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橋の欄干か
川が流れ、橋が架かっていたのだとか。


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改修工事中の塀
たくさんの、東京駅に関する資料が掲示されていた。
「帝都」って、なんだかすごい言葉だと思わないか?


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中央郵便局
こちらも改修工事中。大きな時計に針がない。


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現在の東京駅
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by noone-sei | 2009-08-17 02:37 | 東京散歩(5)

23夜 東京散歩 弐


木造建築ならば、屋根が好きだ。
堅固な石造りの近代建築ならば、柱が好きだ。
屋根とは人の気配の最たるもの、
柱は人を寄せ付けないほどの屹立(きつりつ)、
相反するようなそのふたつをつなぐものは、各部に施された意匠。



今夜は明治生命館のお写真を。


□建物内部
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郵便箱


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エレベーターの横


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エレベーターの上


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ドアノブ


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天井


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廊下



□建物外側
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下から見上げた屋根


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柱 ・・これに触りたい


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建物の入り口


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建物の裏側
ここには、見ようによっては無駄とも思える空白の空間がたっぷりとあるのだけれど、
贅沢な感じがしないか?
劇場で書き割りを見ているような、劇的空間。
階段を下ると牡蠣を出すレストランがある。
あ、書き割り舞台と牡蠣、 ・・駄洒落たわけじゃないんだけど。


書き割りとは

おまけ
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by noone-sei | 2009-08-16 02:32 | 東京散歩(5)

22夜 東京散歩 壱 


王様には盆休みがないので、旧の七夕に王様の母の墓参に行った。
いつもは日帰りなのだけれど、この度は一泊することにしたので、
ほんの数時間だけれど都内に足を伸ばした。

ほんの数時間。その上京はわたしひとり弥次喜多道中だった。
王様の実家から、都内にゆくならこれが便利だからと、
緑のカードを手渡されたのだが、スイカというそれをどう使ったらいいのかわからない。

 「これはなに?」
 「スイカっていうカード。」
 
 「切符?」
 「切符を買わなくてもいいんだよ。」

 「これをどうするの?」
 「見せるんだよ。」

 「誰に?」
 「・・機械に。 ・・きみは仙人か。」

そのカードは王様が預かって、駅の改札でわたしに渡す。
機械に見せるとシャキンと扉が開いて改札を通ることができる。
つまり、機械にカードをかざすと読み取るということだったのだな。

東京では観たい建物があって、いつかの機会にはと以前から思っていた。
それは丸の内の明治生命館という、近代建築なのだけれど、
大手町から東京駅の近くまで歩くにつれ、なんとなく懐かしい景色になって、不思議な気分になった。
大手町でわたしは一年近くアルバイトをしていて、昼は弁当を持って皇居に行ったりしていたのだ。
思えばどの街より、丸の内のオフィス街はゆったりとして、のんびりしたわたしには居心地が良かったっけ。

当時のわたしは近代建築にはまったく興味がなくて、
日曜日の昼下がりに丸ビル界隈を散歩しようなどという気にはならなかったし、
思いつきもしなかったのだけれど、
平日に働く街としてだけでなく、今では買い物や散歩のできる街なのだと初めて知った。
信号がない緑の並木道には、気持ちのいい風が吹いていた。

目は開いていても見えていなかったのだから、あの頃のわたしの改札機は閉じていた。
街というものを 視点を変えて読み取ることなど、到底できなかっただろうな。
そうそう、あの頃はスイカというカードなんてまだなかったんだっけ。



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カードはこの機械に見せる。



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地下鉄をここで降りて歩いた。


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電車の中吊り広告も楽しいけれど、
駅の通路を歩きながら見るポスターも楽しい。


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地図を見ながら出口を探す。
出口をまちがうと、どこにいるのか、わからなくなってしまう。


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皇居の向かい側の駅入り口。
このすぐ近くが明治生命館。
お写真は次の夜に。
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by noone-sei | 2009-08-11 02:27 | 東京散歩(5)