<   2006年 04月 ( 11 )   > この月の画像一覧

22夜 ちょろ。


父、じいじはまたの名をちょろという。
王様とわたしは密かにそう呼ぶ時があって、それはそれ以外に表わしようがない時だ。

犬を連れて一緒に散歩すると、庭から道に垂れ下がったよその家のイチジクをぱっと取って、
美味そうにほおばりながら歩いても平気だ。一緒に歩くわたしのほうがひやひやする。

わに丸がまだ小学生で、ソフトボールの地区大会があった時には、
いつのまにかどこからかやって来て、にこにことわに丸に駆け寄ったかと思えば、
試合中に、後輩と思しき審判に先輩審判が、休憩で寝そべりながら駄目だしをするのを見、
「何だその態度は。寝ながらちゃちゃをいれるな。子供達は、一生懸命やっているんだぞ!」
たたっと寄ってゆき食ってかかる。
審判は起き上がり、じいじと向き合うが、互いに手は出せないので腹で押し合うかの喧嘩。
どちらも手は腰の後ろ。大人の喧嘩は面白い。いい歳したおっさんとじいじが、本気になって。

父は、本気で怒るとその顔が紅潮せず次第に青くなりながら怒鳴る。
わたしも似た所があり、怒りを感じると青くなって声が低く小さくなる。

ここ数日の父は経過が良く、カテーテルも点滴もはずしたので優等生でいられなくなった。
退屈で退屈で歩き回っていたらしい。
母はといえば、父の所に顔を出す前に、わたしに行き先を告げる。
「△△寺のしだれ桜が今満開だから。江戸彼岸といって綺麗だから。ちょっと寄ってって。」
たしかに車は便利だし、母の言った場所は近くなのだけれど。

父と母は桜が好きだ。
退院してからでも、これから咲く桜はまだまだあるからと、猪苗代湖の近くがどうだとか、
そこには昔、軽便と呼ばれるトロッコ列車が走っていただとか、
桜にまつわる話は尽きない。仲良きことは美しき哉。

今日、どこぞの桜を観に行ったふたり。
「ついでに足をのばして三春の滝桜にも行ったけど、もう散ってたなぁ。」と父。
・・帰って来たのだ、昨日。それもバスで突然。

「退院していいと言われたから、帰ってきた。金。これから車で病院に金払ってくる。」
昨日の朝、帰って来ての第一声はこれだった。わたしはひっくり返った。
・・ちょろ。これ以外に、言いようがあるか?

c0002408_2584487.jpg
          母を連れて行った寺の桜。桜は不気味だ。凄みがある。
c0002408_2585681.jpg
           寺の庭の花とつぼみ。

c0002408_2591745.jpg
          近くの茶店の囲炉裏。
c0002408_2593099.jpg
          茶店の天井。
[PR]
by NOONE-sei | 2006-04-30 03:16 | 新々百夜話 父のお話(8)

21夜 安達太良が見える

安達太良のお写真。
c0002408_2454517.jpg
公園から見た安達太良。
c0002408_2461161.jpg
ほんのすこし近づいた安達太良。少年達が横切って、キャッチボールをしにゆくところ。
c0002408_246343.jpg
たくさん近づいた安達太良のふもと。

c0002408_2471213.jpg
遊歩道で見たショウジョウバカマ。
c0002408_2472635.jpg
水芭蕉が群生していた。
「夏の思い出」という歌に、夏の風景として水芭蕉が出てこなかったか?
尾瀬では夏でも、このあたりでは水芭蕉は春に咲くんだろうか。
c0002408_2475099.jpg
木道沿いに水芭蕉がある。わたしには「花」というイメージではない。
大きなお写真は千と線の文箱に載せた。

c0002408_248460.jpg
安達太良山の登山口。
この日、頂上から山の向こうに下りる計画だったのを 予想以上の雪で諦め引き返したという
外人の登山客が、テントを張る場所を探して困っていた。
交通手段のない彼らを車で野営場まで連れて行ったというおまけつき。
[PR]
by NOONE-sei | 2006-04-28 03:18

20夜 ご褒美に花見


ここ二日ばかりの暖かさで、町場の桜はずいぶんと散り、山のふもとの桜は満開になった。
桜が見えない病室の父には申し訳ないが、先日、桜が散ってしまう前にと
病院の帰りに母を連れて花見山に行った。

写真家、秋山庄太郎が生前には毎春訪れて花を撮ったという桃源郷。
白や薄桃の桜に、白や紅の梅、濃い桃色の花桃、黄の連翹、山の斜面一面に花という花。
人出が多いと知っていたので、いつも諦めてはもっと山あいの春を愛でていたのだが、
この花見山、いつか一度は行ってみたかった。

今日は王様の休日。
父の経過が良いので、母は家のことをやり、王様が夕方に病院に顔を出す。
母に花見山のご褒美をあげたら、今日はわたしが王様から花見のご褒美をもらった。
王様と、山のふもとの公園で花見。
一枚も花びらが散らないかのような満開の桜と、ありあわせのものだけれど花見弁当。
夕方まではまだ時間がある。
安達太良山の登山口までは家からでも三十分もかからない。
山には登らないけれど、ふもとを歩くくらいならできる。
たった半日のことなのに、今までひきずっていた冬がすっかり遠のいて、春になった。

お写真は花見山。安達太良は次の夜に。
c0002408_2454260.jpg
         桜と連翹。
c0002408_2463414.jpg
        桜と花桃と菜の花と ・・花の名がわからない。
c0002408_2461080.jpg
        花の名がわからないので、つまり、花のかたまり。
c0002408_2462253.jpg
        写真の腕がないので、桃源郷に見えるだろうか。
[PR]
by NOONE-sei | 2006-04-24 03:03

19夜 天の配剤


じいじが入院するとわに丸はおとなになる。
そのときだけでまた逆戻り、とはいえグラフは山型にゆきつ戻りつしながらわずかずつ上るんだろう。

たびたび排尿に苦しみ、早朝の病院に駆け込むことがあったじいじが、手術をした。
「この量、横綱だったね。」と、ちょびひげの医者が切除した組織の入った瓶を机に置いた。
母、西太后とわたしとで術後に説明を受けたのだが、
腫瘍肥大のメカニズムを慣れた口調で話すちょびひげは、習慣のように瓶を振ってみせた。

わに丸の何様ぶりがいよいよ最高潮になる頃、じいじが入院する。
一昨年の大病のときもそうだった。
今回は、アルバイトで人に揉まれてわに丸なりによく耐えており、少し経験値を上げ始めてもいた。
前回のような動揺は見せず、からりと明るく受け止めたのが救いだ。

手術室に向かうときに、じいじは必ず冗談を言う。
前回は、イカが好物のじいじは「イカ刺し」になって帰ると言った。
今回は何を言うかと期待していたら、ストレッチャーに載せられて「まぐろの切り身」と言った。
この明るさが、なにより救いだ。

今日も歯が痛かった。
じいじの前回の手術には、前日に歯医者で牙を研ぎ、今回は、牙を抜かれた。
わに丸の鎮まりが天の配剤なら、わたしの抜歯も偶然ではない?

明日はパブリックな集いの場でパブリックなセイになる。
18夜のように、血も涙もない、と逆説的な自虐を言ってはいられない。役割でも正義は正義。
・・じいじの名も正義。

c0002408_2223386.jpg
         庭のカタクリ

百夜話 24夜 願い
[PR]
by NOONE-sei | 2006-04-19 02:32 | 新々百夜話 父のお話(8)

18夜 噛みしめる


歯と歯を噛みしめて正義を保ってきたら、縦に裂けた。
骨にくい込んで癒着した根は、ついに掘り起こせずそのまま塞いで糸で縫った。

上顎はたくさんの臓器をくるんでいるから、
骨の中にはたくさんの血管があり、酸素や養分を運んでいる。
下顎にはくるむべき臓器がない。
だから血管はせいぜい歯を養う程度でいい。

それにしてもほとんど出血がなかった。
わたしは下顎の中に、血管が少ないのだという。
人と人の交わる場で、まるで役割のような正義を保とうとしてきた者は、
血も涙もないのか?

ゆうべ、あまりに痛くて犬に頬擦りした。
わたしに、じっと頬を貸した犬は、汐と日なたの混じった匂いがした。

c0002408_2131698.jpg

[PR]
by NOONE-sei | 2006-04-15 19:02

17夜 嘘


きょうは、ひとつの嘘をつき、ふたつの嘘を呑んだ。

ひとつは息災かをたずねられ、「おかげさまで」と嘘を言った。
そのひとの世話になっていなくても、おかげと言わねばならないような息災って、なんだ?
「おかげさまで」 ・・考えてみるとおかしな慣用句。

ふたつは「ごめんなさい」のかわりに、言い訳のための嘘をつかれた。
ふたつのひとりは、おおきなおねえさん。
戦前に生まれたほどの充分な年齢だけれど、嘘をつくときは女の子になる。
ふたつのふたりは、ちいさなおねえさんたち。
まだ十歳だけれど、嘘をつくときは女の人たちになる。

言い訳だとすぐに気づいたのに、騙されたふりをした、これはなんだ?
きょうのわたしの嘘は、ほんとうはふたつ?

c0002408_295953.jpg
       こんな路地を歩く気分
[PR]
by NOONE-sei | 2006-04-14 02:12

16夜 アイロンはかけられない


結婚前の約束は、あてになるかならないか。

近頃、わに丸に手を焼き一時は失語状態になったのを案じてか、王様がよく手伝ってくれる。

結婚前の約束を思い出した。書面にこそしなかったが、それを『家訓』と呼んだような気がする。
月に一枚は音楽のアルバムを買うだとか、
どちらかが家を飛び出したら、理由の如何(いかん)にかかわらず追いかけるだとか。

そうそう、王様はわたしにこんな約束もしたっけ。
・・家事は全部やるからなにもしなくていい。
これは、愛?
それとも、そう言わせるほどにわたしの家事は期待されていなかった?

こんな問いがある。
掃除・洗濯・料理・アイロンがけ、好きな順に並べ替えよ。
・・実はわたしが作った問い。
アイロンがけが大の苦手だから、独立した項目にした。

なんとかよちよちと家事をやれるようになるまでには、ずいぶん時間がかかった。
結婚してから何年も経っているのに、
「セイさんて、スーパーで買い物をしたことがあるの?」
と、あんまりなことを言う年長のお姉さまもいた。
結婚していることを知っていてなお、そういうことを人に言わせるわたしは、
生活人からかけ離れた雰囲気だったんだろう。

ため息がでるほど家事の要領は良くないが、
料理は並べ替えるなら筆頭で、しかも問いから外してもいい。
なぜか?
・・料理、あれは家事ではなく、趣味だから。
[PR]
by NOONE-sei | 2006-04-12 02:09

15夜 第三の医学


歯医者で顎が痛くなった。

わたしはがちゃ歯なので、定期的に歯医者から呼び出しが来る。
虫歯になる前に、予防。歯という歯を全部点検して磨いてもらう間、ずっと口を開けている。
歯医者は恐くてつらいので、頭の中から意識を飛ばして、現実から遊離する。

奥から、治療しながら説明する医者の声がする。
「・・・それはもう第三の医学の領域ですけどね、・・・」

なんだろう?
第三?じゃ、第一と第二があるというわけだ。
気になる。あんまり気になったので、意識は遊離したまま。そのお陰で顎の痛みに耐えられた。

点検を終えたわたしに、さっきの医者が説明に来た。
わくわくする。口を閉じることができたら、是非とも答えを聞きたい。

   <答え>
  第一・・痛みの除去
  第二・・機能の回復
  第三・・精神の安定

聞いてみると至極もっともな答えだった。
わたしは実のところ、医学のイメージからは対極の遠いもの、
もっとなにか神がかり的な眉唾(まゆつば)に、期待と意識を膨らませていたのだが。
たとえば第三の目という単語で聞き知っている視座。
額から幽体離脱して己(おの)が舞姿を視るとかいうのだったっけ、世阿弥の能楽論「風姿花伝」。
「風姿花伝」に本当に第三の目などという言葉が載っているのかは知らないが、
言葉の音に反応して、わたしは無意識に第三と名の付くものを共通項で括ってしまっていた。
 
第三。だって、なにやら意味深長じゃないか?
そうそう、あった、第三の目。手塚治虫の漫画「三つ目がとおる」じゃない。
わたしのイメージの中にある第三の目は、「おてんとさまは見ている」だ。
公明正大、恥じない振る舞いをしなければ。

・・歯医者でだけは、意識を遊離させて逃げてもいいですか。
公明正大に、例外は無いのだったっけ?
[PR]
by NOONE-sei | 2006-04-11 02:00

閑話休題


あちらでもこちらでも花のたより。
桜が咲いたと聞くたびに、羨ましくてちょっぴり妬けましたが、
散ったあとのものさびしさを思うと、待っている今がちょうどよいかと思い直してみたり。

ストーブの冬になる十二月、暖かい色に変えた王様の千と線、
ストーブの上には鍋をかけ、冬の料理をたびたびいたしました。
ストーブを消す回数が増えて桜が咲いたら、若草色に衣替えのつもりでおりましたが、
先日、入学式の子供たちを見かけたら可愛かったので、王様の千と線も春色にしてみました。

小学生のちびさんや、どうみても服や持ち物に体が釣り合っていない中学生。
このアンバランスはペンギンやラッコを観る時に感じるものと一緒、
漫画「パタリロ」の主人公の四頭身に可笑しさを感じるのと一緒、
こっそりくすくす笑っていてごめんね、と思いながら、やっぱり目で追ってしまいます。

さて三回目の百夜話。三順目というのでせうか?
女の子の視線がいままでより幾分多い滑り出しのような気がするのは気のせい?
これからがどうかは、さっぱり見当がつかない、、、、。
[PR]
by NOONE-sei | 2006-04-08 09:59 | 閑話休題(22)

14夜 粗茶ですが


へりくだった物言いというのは、ときに美しくときに嫌味だ。

元来、会話は相当高度な技術のやりとりで、
投げるほうにも受けるほうにも技量が要る。

天秤が釣り合っていないと、ちぐはぐなことが起こる。
  あなたさえよければ東に参りませんか?
        はい、それで結構です。

  次へ行ってよろしいですか、東にはもう満足されたでしょう?
        は?東とおっしゃったのはそちらさまだったはず、、、

いつのまにか、わずかに、提案した者がすり替わっている。
簡単に言えば、いいだしっぺはどっちだったっけ?という妙な感触。

妙なやりとりは、現実の日常にもある。
心地悪さを毎日のように繰り返すうちに、わたしはわに丸と喋れなくなった。
このところ、わに丸は飛躍的な口達者ぶりだ。
揚げ足を取られることが多くなり、なにかの不都合や落ち度の原因を負い続けるので、
わたしは正確に伝えようと神経を使った。
度重なるちぐはぐさには、わに丸の意図的なすり替えが多分にあることに気づいて疲れて、
先日、吃音になるほどに、言葉に詰まって驚いた。
喋れない。

精一杯、ゆっくりと話し掛けた。
「わたしを粗末にしないでください。」

へりくだってはならない相手に、敢えてへりくだる時の心のありようを
わに丸はいつかおもんぱかれる大人になれるだろうか。

c0002408_1037287.jpg
           わに丸とタケノコは似ている。
                          
[PR]
by NOONE-sei | 2006-04-08 03:01