カテゴリ:新百夜話 本日の塾(12)( 10 )

97夜 したごころ


受験を控えた子供たちは、問題を解く背中が日に日に美しくなってゆく。
ついこの間まで、思春期特有の気難しさや脆(もろ)さをたくさん見せていたのに、
ひとつひとつ、それらを削(そ)ぎ落としてゆくかのように。

今年の受験生は、昨年の子たちよりも線が細かった。
痛々しい子もいた。

どの子にも、寄り添いながら静かに見つめた。
自分を持て余すさまには、見て見ぬふりをした。
大人ぶって教訓めいたことを言うよりも、伴走するほうが、愛が深いことだってある。

まだ幼い子供たちが、たとえば幼稚園の園庭で汗をかくほど遊ぶ、懐かしい風景。
その子供の群れからは湯気が見えるほどの、夢中なさま。
やがて、すいっと群れから抜けた子がひとり走ってきて、
幼稚園の先生のおなかに両手をまわして抱きついて、黙ってものの五秒間。
そうしてなにごともなかったように、群れに走って戻る。
人肌に、ちょっと触れれば気が済む、子供の本能のようなもの。

受験生たちは、幼い子供よりは少し大きいから、
直接こちらの人肌に触れることはもうないけれど、似たようなことは、たまにある。
振り返ると、すぐ後ろをくっついて歩いていたりするのだ。

あんまりひたむきな姿なので、少しかき混ぜてやろうと、漢字の部首で遊んだ。
「まだれ」だとか「にくづき」だとか「けものへん」だとか、小学生に戻ったように、目がきらきらだ。

  「意味の『意』の心は、なーんだ?」
  「したごころーー!」

ひとりの女の子が言った。
  「えぇっ?『恋』もしたごころだったのかぁ、、。」

・・あらら、すごいことに気づいてしまったかもしれない。
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by NOONE-sei | 2006-01-22 01:58 | 新百夜話 本日の塾(12)

88夜 年年歳歳


ちいさな塾には大きな円卓があって、
大工職人の父がこしらえてくれた。

その円卓を囲むのは、ある日は小学生のちいさいさん。
ある日は受験を目前に控えた中学生のお姉さん。

お姉さんもいろいろで、
学校が休みでも体操服で来る子もいれば、
キラキラした飾りを携帯電話に貼り付けている子もいれば、
リンゴのようなほっぺで外の寒さがへっちゃら、薄着の子もいれば、
いつも青い顔でしょっちゅう学校を早退するのに、塾には何故か来る子もいれば。

ほとんどの子は、
自分の未来に「大人になる」という世界が待っているのは
遥かの彼方すぎてぴんとこない。

ごくわずかの子は、
「大人になりたくない」と強く願い、暦が変わるたびに悲観的になる。
他人の言葉にも自分の言葉にも傷つき、いつも心をいとしんでやれなくて、
本当は誰より自分が大事なのに、どう大事にしていいのかわからない。

ある夜の王様と子どもたちの会話。
何故、年が新(あらた)まるのか?
何故、歳をとるのか?
子どもたちには不思議で理不尽でならない。

そういえばこんな言葉があったっけ。
年年歳歳。
人間万事塞翁が馬。

こんな言葉の群は年寄りくさい。
天邪鬼だから、わたしはこの手の言葉が押し付けがましく感じられて苦手だった。
けれど、辞書で調べてみると、なんてお気楽な言葉だろう。
先のことなど誰にもわからない。大人にだって。

子どもたちに王様が答えた。
「オレも歳をとりたくないなー。でもなんでかなぁ、歳ってさ、とると貯まるんだよねー。」
お気楽な返事。

・・人生は買い物?
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by NOONE-sei | 2005-12-26 20:28 | 新百夜話 本日の塾(12)

83夜 闇から曳くもの


闇の色?それとも闇の夜の物語?
想像の産物が怪物になって追いかけてさえ来なければ、
闇は恐くて怖くて魅力的。

夜のテレビが、江戸川乱歩をシリーズで紹介していた。
この夜は『パノラマ島奇譚』。
   
    「中学生頃に読み始め、高校、大学と。
     読んでみれば、文章そのものにことさら書かれている訳でもないのに、
     想像が湧いてくる。とてもエロティックな小説だと思った。」

案内役の大槻ケンヂがこんな意味のことを。
闇から何を曳いてくるかは、闇を覗く者次第。

子供達が夢中、ゲーム『ドラゴン・クエストⅧ』。
物語の終息までを 幻想という魔物の虜になりながら旅する。

    「世界樹の根元に落ちてる現在
     ゼボット研究所(禁断の地)左の小屋の宝箱(現在)
     今日と明日を間違われる
     過去ふきだまりの町
     城下町の井戸の中」
                   
攻略するための鍵になる言葉達、現実世界の子供達は自室の囚われ人。
闇から何かを曳いてくるのか、曳かれてゆくか。

ちいさな手を動かし合体するおもちゃで遊んだはずの子供達。
闇から何かを曳いてきて、そこに自分にも何かの役割を与えていたはずの。
闇に想像だけを飛ばすことを覚えた子供達は、
今はおもちゃ付きお菓子を集めないし、プラモデルを作らない。
わたしの周りの子供達は、今、ゲームの世界にいる。

ところで先日、王様のちいさな塾にちいさな生徒がやってきた。
小学三年生の男子。
小学生は、わたしが日本語遊びの勉強でお相手する。
初めましてだから、おしゃべりしたり、しりとりしたり。
この子も今、ゲームの世界にいておもちゃで遊ばない。

大きな紙に絵を描いてもらった。
お題は『この世にない、クリスマスの食べ物』
投げかけておしゃべりすると、想像の産物が画面に描き出される。
青一面の中に茶色の円。そして小さな黒い円。黄色い線。小人がひとり茶色の円の中にいる。

    「食べても食べても無くならない肉の島だよ。」

この子は肉が大好きだから、肉に囲まれてクリスマスを過ごしたい。
大好きな麺が黄色い河のように流れる。黒い池は?・・焼肉のタレ。

ではわたしも密かな想像をさせてもらおう。
麺の大河、タレの池、焼肉島の小人。 
恐怖劇場じゃない。
『肉の島奇譚』だ。

百夜話 58夜 小さな世界
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by NOONE-sei | 2005-12-15 17:29 | 新百夜話 本日の塾(12)

67夜 秋のお写真 味覚編


塾の前庭で芋煮会をやった。

芋煮を食べるのはこれで三度目。
一度目は、
見事に田園が広がる場所に敷地を持つ民家に、大勢の人が集い、
わたしもお招きいただきご馳走になった。
敷地には居住区とは別に蔵座敷があり、土間がひんやりと気持ちが良かった。
漆喰の壁、太い梁、まるで民芸館のような佇(たたず)まい。
柳宗悦などの民芸運動に明るくはないが、これまで何度も目にした彼らの器は、
こんなところで実際に使ってこその、用と美ではないかと思わされる。

二度目は、
大工の棟梁をはじめ、親戚一同が揃っての、本家の上棟式。
これまた大勢の人が招かれた席で、お膳に添えて芋煮をもらった。

けれどといおうか、やっぱりといおうか。
この地の芋煮は味噌仕立てだ。
秋の野菜が幾種類も入る。
里芋・大根・白菜・ごぼう・ねぎ・きのこ。
にんじん・こんにゃく・豚肉。
・・だいたいこのような食材。

さて本日の芋煮会では、すっかりわたしの思いつきの食材となった。
里芋・ねぎ・舞茸・こんにゃく・牛肉で、醤油仕立て。
・・これに生揚げを。こんなものを入れる芋煮、聞いたことがないけれど。

そして最後の締めには、カレールウを少し割り入れて、カレーうどん。
なんたる芋煮と呆れられ、邪道だと怒られそうだ。
・・どうせお叱りを受けるならば、もう、大きなお写真を載せてしまおう。

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牛肉を軽く炒め別に取りわけておく。

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鍋に水を張り、里芋と軽く下味。泡が出ないようにするため。

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材料いろいろ。きのこをたっぷり。

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里芋が煮えたら、

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牛肉を戻し入れて、

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酒をたっぷり・砂糖・醤油で味を整えて、沸騰したら出来上がり。
作り方は適当。めったに料理の写真を載せたことなど無いのだから、片目をつむって勘弁。
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by NOONE-sei | 2005-10-31 01:04 | 新百夜話 本日の塾(12)

50夜 折り返しの頁


貢(みつ)ぐじゃなくて頁(ページ)。
似て異なるもの、鼠と栗鼠(リス)、蜥蜴と蛇。

「動物のお医者さん」という漫画の登場人物は皆、無表情でおかしな人間ばかり。
そのうちの獣医学生のひとりが、どうにも苦手な鼠を鼠じゃないと自分に暗示をかけるために、
鼠の写真の載っているところに注釈をつける場面がある。

 『ワタシはリス。しっぽを剃られたの』 ・・でもほんとは鼠。

詭弁だか欺瞞だか、なにしろそのネガティブなすり替えを責められるのが面白かった。

数日前のこと。
駐車場から車を出したら、道路に寝ていた。いや、すでに永久に寝ていた、干からびて。
初めはわからなかった。・・いや、本当は目ざとく見つけ、すぐに勘がはたらいた。
普段はぼんやりのわたしでも、アレだけはわかる。
あの、『足の無いトカゲ』 ・・でもほんとはアレ。

この頃、よく窓の網戸に現われるカマキリで遊んだから、バチがあたったんだろうか?
それ以外に悪い事は、近頃はした記憶がない。
家の中に入ってきたイナゴだって、仮面ライダーだと言ってすこし遊んだけれど、
写真も44夜に載せたけれど、ちゃんと外に逃がした。
なんでこんな目に遭うかなぁ。

嫌なものは見ないに限る。
だから家の図鑑や百科事典のアレが載っている頁は、折り返しておく。
けれども塾にあるものは、頁を折ってしまうわけにはいかない。

小粒がまだ小学生のちいさいさんだったころ、魚や鳥をみんなで調べたことがあった。
アレの頁がわたしはさわれない。
本当なら頁を菜箸でつまんでめくり、直接には手を触れたくない。
 仕方がないので、頁と頁で挟(はさ)んでセロテープを貼り、開かないようにした。
それ以来、しばらくの間、わたしは事あるごとに小粒たちにそれで脅された。
小粒たち男子は、中学生になっても思い出すらしい。
執念深いのはアレとおんなじじゃないか?
塾に蚊が飛んでいると、潰してやるのはわたしだろう?

今夜は50夜。
百夜話の半分、折り返し、ということで。
しかし、なにが悲しゅうて、目出度い折り返しに蛇のお話を書くかなぁ、、、。
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by NOONE-sei | 2005-09-21 01:53 | 新百夜話 本日の塾(12)

49夜 こどもってっ!


「おとなってっ!」

とても懐かしい台詞を聞いた。
初めて聞いたのはずいぶんと前のこと。

子供が寝てから、仲良く二人でお茶漬けを食べるパパとママ。
ふと目が覚めて襖のかげから二人の睦まじい夜食を目にしたチビ君、
布団の上で枕を振り回して、悔しがって言うのがこの台詞。
言った後に枕の勢いで、つまづいて転びそうになるのだったっけ?
その、お茶漬けのコマーシャルが、ほとんど変わらぬ設定でテレビで流れた。

「こども」って、不思議ないきものだ。
よく、小さいうちにいい事と悪い事を教えろというけれど、それを家庭の躾というけれど、
では、それをおろそかにするとトンデモハップン、コロンデニフン、
時計になぞらえた駄洒落のような子の出来上がりか、、、というと、これがそうでもない。
こうすればこうなる、、、というのは、あながち誤りではないけれど、
こうしないとこうなるかどうか、、、については、なんとも言えないな、と思う。
もちろん丁寧に育てるに越したことはないのだが。

いつどこで刷り込まれるのか、こどもには本能のような正義があるらしいのだ。
「今よりもっと善くありたい」という心理を内在させているのが低学年の特徴。
幼稚園児などは、「僕が総理大臣だったら云々」と、語らせれば大真面目に語る。
日本を 世界を 宇宙を そして自分を 皆等しい大きさで捉える。
中学生にも中学生の正義があって、しかし彼らを見ていると、
皆が皆、丁寧な育ち方をしたかといえば、そうとも限らない。

中学生の正義は幼児や児童のそれとは少しちがう。
中学生は、汚いものや異質なものを排除する意識が強く働いているから柔軟でなく潔癖で、
幼児や児童は、柔軟だけれど極端だ。
「こども」って、小学生までで、中学生は「こども」でも「おとな」でもない、「コドナ」?

「こども」という不思議ないきものは、不思議な絵を描く。
夏にスイカを畑で収穫した初めての経験を描けば、画面いっぱいに真ん丸いスイカ、
よく見るとその上にちょこんとちっちゃいアリのような自分。
秋にバスで遠足に行けば、大きなバスと、まるで透視したようにバスの中にいる自分。

この不思議ないきものは、奇妙な絵も好む。
だいたい字が読めないから、絵本が主だけれど、例えばミッフィーだとか、
きれいな輪郭で赤青黄色、原色くっきりの絵を好むかと思えばそうでもない。
先日、塾の中学生に何の絵本が好きだったかを聞いてみた。
今にして思えば不気味な絵の絵本が好きだったと不思議がる。
きっと、この子たちはとうに不思議ないきものを卒業しているんだろう。

明日は中秋の名月。
わたしが幼いころ好んだ物語の挿絵の月も、よく見るとおかしなお顔だ。

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小さい水の精が、初めて月を見た晩。手を伸ばしてヤナギに引っかかった月を枝からはずすつもり。


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中学生が皆、一様に好きだと言った「三びきのやぎのがらがらどん」。

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ほーらこんなに不気味、と指差して喜ぶ。

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こんな絵本も。
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by NOONE-sei | 2005-09-18 02:29 | 新百夜話 本日の塾(12)

43夜 色っぽい足


ときどきパンを買う。
フランスパンは丈が長すぎるので、同じ食感でクッペという名のパンを選ぶ。

クッペという名を目にするたびに、おかしな気持ちになる。
食べるときに、その半月のような形を見て、やっぱりおかしな気持ちになる。

バレエのクッペは足にまつわる言葉。踊るための動きや形を指し示す。
足首から下、爪先をもう片方の足首に添わせるポーズだ。
足の裏で床をつかんでから鋭くしゃくるようにして、重心を片足に切り替える。

・・動きを言葉に置き換えるのはやっかいだ。
つまりわたしはクッペを食べるたびに、爪先をかじるような気分がよぎるのだ。
それはほんの一瞬のことなのだけれど。

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塾のおおきいさん、お姉さん達の誰かが飴の包み紙で折った鶴。
よく見ると脚がなにやら色っぽい。まるでバレエの衣裳、チュチュを着けているみたいだ。
色っぽいので、モノクロームにしてみました。
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by NOONE-sei | 2005-09-02 00:00 | 新百夜話 本日の塾(12)

35夜 月遅れの七夕


七夕の節句。
今年は旧暦なら8月11日だとか。

東北の夏祭りはいろいろあるけれど、月遅れの仙台の七夕祭りも賑わう。
仙台にならって、この地でも七夕祭りは月遅れでやる。
仙台ほど大掛かりで豪奢ではないけれど、
商店街のアーケードに色とりどりの七夕飾りが下げられ、
そこをくぐって歩くのは楽しい。

ところどころに、幼稚園や保育園の子供達の願い事を書いた短冊が、
びっしりと下げられた笹が結わえられている。
かわいらしいもの、切実なもの、荒唐無稽なもの、笑っちゃ悪いがひっくり返るくらい可笑しいもの、、、
その願い事を読んで歩くのも楽しい。

暦(こよみ)には、新暦と、一ヵ月後の月遅れと、旧暦があるとか。
たなばたは、七夕そして棚機、祖霊信仰の機(はた)を織る織姫にあやかっているなら、
星祭りは天の川が見える八月のほうがいい。

ところで塾でも七夕飾りを作った。
塾も毎年月遅れでやる。
新暦の7月7日には、まだちいさいさんが折り紙で作ったあじさいや、
かたつむりなど梅雨時の歳時が壁に貼ってあるのだが、
それでもおおきいさんのお姉さんたちは、七夕という日は気になるらしく、こんな会話をする。

  「あーっ、雨だ、今年もだっ。
   織姫と彦星、また会えないし。」

  「待てないよ、ぜったい。今年は不倫するな。」

  「来月(月遅れの七夕)会えたら、どうする?」

どうする、、、って、さあ、、、。・・どうするんでせう?
お姉さんたちの想像力はお姉さんたちにお任せして、短冊に書いた願い事を
いくつか覗かせてもらおう。

中三生
 ・△△高に合格しますように。                      さすがに受験が気になる。
 ・頭がよくなりますように。                        切実。
 ・身長がこれ以上伸びませんように。                 これまた切実。
 ・ガオガイガーフィギュアが手にはいりまくりますように。      こら。
 ・長生き。                                  お若いのに、、、。

中二生
 ・ガードとしての役割が果たせますように。              部活の中心になるから。
 ・身長が150センチくらいに伸びますように。みょーん。      背の伸びる音。

中一生
 ・ふくろパック、デッキパックがたくさん買えますように。      カード?
 ・ガンプラ全種類が買えますように。                  ガンダムかい。

では特別に、小粒の願い事を披露してみよう。ふたつもある。
 ・願い事が、年中無休、かないますように。              ぷぷっ。小粒らしい、、。
 ・この世のすべての星に行けますように。              ・・こんなこと言うんだぁ、、。

小生意気なお姉さんたちも、マイワールドな男子も、部活の責任感につぶれそうな二年生も、
顔や体に悩み多き少女も、欲張りでけちんぼなのに、星が大好きな小粒も、
みんなみんな、ごくあたりまえに
『 ・・・ますように 』 という、古来からの願いの言い回しをする不思議。

わたしも願うよ、
みんなの願いが、叶いますように、、。
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by NOONE-sei | 2005-08-09 16:25 | 新百夜話 本日の塾(12)

10夜 歩く鞄

怪談ばなしじゃない。
小粒のおはなし。

中学生になった小粒。
初めての中間テストが終わったその日、学校から自転車でまっすぐ塾に寄った。
まだ誰も来る時間ではない。

王様 「テスト終わったんだろ?問題持ってるだろ?どれ、見せてみろ。」
小粒 「持ってないっ、持ってないぞっ。」

王様 「あれ?学校からまっすぐだろ?ふふーん、、・・そうかぁ?」
小粒 「ないないっ!捨てたっ、丸めたっ、ごみ箱だっ!」

解けない問題にぶつかると、お座りしてみんなで囲む円卓に、もぐりこんでしまう小粒。
テストの前夜もそうだった。
お座りから足を伸ばし、そのまま仰向けになってずるずるっと円卓の下に入ってしまった。
そして向かいに座る王様の股の間にがしがしと足先を入れた。

王様 「その、『臭い足攻撃』、やめろっちゅうに。」
小粒 「オレの足は臭いぞ、靴下じゃないぞ、足だぞ。」

もぐったまま威張り、追撃は続いた。答えがわからないことが、くやしいのだ。
いつにも増して、発する信号は強かった。

なんでも自分が一番の小粒には、どうも思うようなテストの手応えではなかったらしい。
不安になって塾に顔を出したのだろうが、なにも言い出せないまま帰ってしまった。

深追いは禁物。
小粒には強い自尊心がある。
言うべき時が来れば自分の口から言う日が来る。
それはきっと、テストよりもっと重い荷を負ったときだろう。

帰る後ろ姿を見送りながら、王様が小さく
    「あ・ら・ら・らーー。鞄(かばん)が歩いてる、、、。」

ちいさい体に、まだ大きすぎる通学鞄。
その鞄が、大きい自転車によいしょと乗っかろうとしている。

鞄は、歩くだけでなく自転車にだって乗れるのだ。

小粒
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by NOONE-sei | 2005-05-26 09:51 | 新百夜話 本日の塾(12)

9夜 あらいぐま ラスカル


卒塾生のひとりから、王様は久しぶりに連絡をもらった。
なかなか元気そう。

希望校に合格して高校一年生。
集中力に欠ける自分にはこれだ!と弓道部に入部した。
通学も中学時代よりずっと距離が長くなり、自転車を漕ぐ脚もぱんぱんになる。
なのに毎日が正座の練習、「△△道」と名の付くものは、精神修養が付随するらしい。

喋り始めると頬を紅潮させる、彼の姿を思い出す。
みんなが喋りたい、聞くより喋りたい、声は加速して止まらなくなる学年だった。
いのししのような子供たち。
耐えてこそ咲く花が美しいのかどうかはしらないが、
弓道のなんたるか、むずかしい意味付けとは別のところで、
静かに思索するのは彼にとって、新鮮な経験だろう。

ぴっかぴかの未来。
と思いきや、王様に
「じつは五月までずっとラスカルでした、、。」

あれほど喋りたい、語りたいの子が、ひと月ほとんど口を開かなかった。
知った顔がひとつもない新しいクラスで、彼は、ひとりだった。
放課後はじっと黙って正座の日々。

なにもかもが新しすぎて、自分のいる場所もかすんで見えない、
見えないものを語る口もない、
心を誰かに打ち明けるという考えさえ浮かばない。

授業が終わって休み時間になるたびに、
彼はずうっと手を洗いつづけていた。だから、・・ラスカル。
一日の学校生活で、彼は幾度そういう休み時間を過ごしただろう。

おとなもこどもも変わりない。渦中(かちゅう)は言葉を失っている。
ひとは、身に起きていたことを振り返れるようになってはじめて、言葉になる。
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by NOONE-sei | 2005-05-23 12:57 | 新百夜話 本日の塾(12)