カテゴリ:その五の百夜話 本日の塾(3)( 3 )

21夜 さんざめく宝石


梅雨は明けたの、明けないの?
そのせいか、まだ夏が来た気がしない。
いや、十分それ以上に暑いし日に焼けるし、
綿羊までの散歩道は両側に桃畑、道々が桃の甘い香りで満ちている。
桃農家は総出で桃の選定や収穫に追われているのだから、
季節は夏真っ盛りなのだ。

気分が乗らないまま、このまま撮り貯めておいたお写真の鮮度が落ちるにまかせていたら、
きっと写真群は保管庫ゆきだ。
すこし季節のずれたお写真だけれども載せてゆこう。
七月のあれこれ。

                         *

七月の初め、生まれて初めてのさくらんぼ狩りをした。
果樹畑のあいだを抜けて毎日高校に通う子ども達が、おそれ多いと語る宝石の王、さくらんぼ。
この地も近頃ではさくらんぼ農家が増えたけれど、
ネットで囲われているのでそこが特別な場所だとすぐにわかる。
今でこそ、この地でも時間制限つきの食べ放題ができるくらいに木に実が生(な)るようになった。
けれども生まれて初めての宝石狩りはいつの日か本場山形でと思っていた。

ところで、塾のちいさいさんたちに、わたしは新しいことを教わった。
野菜と果物のちがい。
木に生るもの、土に生るもの。
イチゴが野菜だったって、知っていた?
わたしはまったく知らなかった。
さくらんぼは、果物 ・・だろう?

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なんにも知らないわたしのために、
ちいさいさんが書き記してくれたもの。ありがたいありがたい。



さくらんぼ狩り
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枝にたわわ。
・・こういうちいさなものの群も、たわわっていうのか?


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真っ赤な実の原種の木が近くにある。
原種は大味で甘みも薄い。交配して作った佐藤錦の味や食感の美しさ。

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指の間からこぼれるようなさくらんぼ。
ここは一日中さくらんぼを食べていてもいい農園。
のんびり、一本一本の木それぞれの実を食べてみると、どれもすこしずつ味がちがう。
気に入った木があったら、脚立を立ててそれに登り腰掛けて、高いところから景色を見ながら実をほおばる。



新々百夜話 本日の塾 46夜 さくらんぼ伝説



おまけ
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いかにも夏というくらいの暑い日、
鉄鍋で煮た山菜汁に、冷水で締めた蕎麦をつけて食う。


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山形県の蕎麦は、旨いんだが太い。
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by noone-sei | 2009-07-31 23:58 | その五の百夜話 本日の塾(3)

3夜 そっと「ハリーポッター」祭り


小粒の姉ちゃんは小粒より二級上で、
乱暴者でわがままな弟の世話を よくやりながら塾に通った。
ちいさいさんの時からおおきいさんになって、高校に合格するまで塾の子だった。
高校に行っても塾に通うと言うのを聞き流して送り出したが、
高校一年の夏に、塾の近くの寺の境内でやる盆踊りに来て以来、
塾に来たことはない。

寂しがりやで人間関係に敏感で、中学に通うのがつらい子だった。
末っ子の小粒とはまたちがう、姉として家庭環境内での役割があり、
小さいものや弱いものをかばうその子自身の肩は細く小さかった。
口や態度では強がるので、それは精一杯の自尊心だから、
王様もわたしも姉ちゃんぶりに調子を合わせるようにし、
その子の底に流れる情の深さをそっとくるんで見て見ぬふりで通した。

思い出はたくさんある。
もう幾年も前なのに、その子を思うとき胸が今でもちりちりする。
いつも「ただいま!」と言って塾に来るのを迎え、
他愛のない話をし、家庭の問題には意見を言わずに受け入れ、
あたしって結構不幸だ、と大きな声で叫ぶときには聞いて聞かないふりをした。

するすると育ってしまう子もいれば、つまづきながら大きくなる子もいる。
どの子も、自分がどんなふうに成長しているのか、
比べるものがないから自分のことはわかっていない。
大人であるわたしたちには、そこいらへんがよく見えているのだが、
言ったところで仕方がない。どんなふうになろうとも、待つより手がない。
できることといったら、気づかないふりをして見つめることだけだ。

小粒はわたしと作文を書くのは大嫌いで、屁理屈を言っては逃げ回った。
ではなぜ塾に来るのかといえば、王様とお相撲を取るのが楽しみだったから。
負けてやらない程度に構ってやるのだが、ぎゅうと抱きしめたら逃げるにちがいないので、
抱きしめる手前のお相撲を取る、これには王様も小粒相手に技術を磨いた。
中学三年まで小粒のはっけよいは続いた。

小粒の姉ちゃんは「ハリーポッター」のような小説が好きだった。
中学を卒業するまで、新しい本が出て読み終えるとわたしに貸してくれた。
巻が進むにつれ、上下巻に分かれ分量が増えた本を 
それでなくても重たい肩掛けカバンに入れ、塾に持って来てくれた。
不思議なことに、本を読むのも字を書くのも嫌いな小粒が、
そのときに限っては素晴らしい勢いの飛ばし読みであっという間に二冊を読む。
それこそあっという間、ものの十分かそこいらの集中であらすじを掴む。
作文といっても、給食の献立を書くような緩い記録文のときもあれば、
岩手、遠野の昔話をお国言葉で読んでやりあらすじを書くような高度な文章のときもあり、
実は小粒はあらすじを書くのが大変巧みだった。
頭のいい子なのだけれど勉強が嫌いで、ついにろくに勉強しないで卒塾させてしまった。

中学がつらかった小粒の姉ちゃんは、高校に入ったら友達ができて、
やっと居心地のいい居場所を見つけることができ、塾に来ることを忘れてしまった。
忘れるのを待っていたけれども、それから何巻か「ハリーポッター」には続きがあり、
会わなくなって、借りることができないのが嬉しいようなさみしいような、
続きは図書館から借りて、先ごろ最終巻を読み終えた。
お祭り以来会っていない小粒の姉ちゃんは、塾の子から高校生になり、卒業を迎えた。
最後まで読んだよ、と告げてみたいけれど、告げないままがきっと花なんだろう。



思い出のお写真
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小粒の姉ちゃんは、中学の行事、スポーツ大会がどうしても嫌で、
雨が降るように逆さまに下げたてるてる坊主。


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こんな絵をささっと描く。


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猫を描いたと思ったら、自宅で生まれたまだ目の開かない子犬を連れて来た。
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by NOONE-sei | 2009-03-08 03:27 | その五の百夜話 本日の塾(3)

74夜 おとなになったね


弔事があると、悲しむ暇(いとま)を与えないためなのか、
さまざまな手続きに追われる。

うちは田舎なので普段なら出先の支所へゆくのだが、
その日は幾つか町なかの役所を巡らねばならなかったから、
いつもはあまり馴染みのない市役所へ行った。

本人確認があるので、母を伴なって行くと、
「こういうことは全部、役所が来てやってくれるものだと思ってた。」
西太后は下々(しもじも)のことに疎い。
さりとてわたしが聡(さと)いわけでもなく、
西太后ほどの上々(かみがみ)とはいわないが、中々(なかなか)くらいだろうか。
わたしのイメージの造語なので、ほんとうはこんな言葉は無いと思うが。

わからないということは本当に悲しいもので、
自分が何をどうわからないのかが、わからない。
わからないことについて、説明することもできない。
貧しい脳みそを総動員して窓口で説明するのだが、おぼつかないことこの上ない。
赤くなったり青くなったりしながら目も泳いでいたかもしれない。

ふとゆらゆら定まらなかった視線が、ひとりの女性に留まった。
  「×△○っ!!」
思わず役所のロビーで呼び捨てした職員は、卒塾生だった。
もう成人している彼女の代の塾生たちとは、昨夏も飲んだ。
十代の頃の、揺れていた彼女たちの姿も知っている。
しかしこんな所で天の助けになって現われるとは思いもよらなかった。
初めて彼女から教わる立場になったけれど、わかりやすく教えてくれる。
ということは、わからない者が何をわからないかが類推できるということ、 ・・偉い。

夜になって、彼女から電話を貰った。
今、役所を出たのでお線香をつけに行ってもいいか、とのこと。
同じ年頃のころのわたしに、そんな気遣いができただろうか。
ちゃんと社会人をやって、情もあって、上々(じょうじょう)のおとなぶり。

昼は父の祭壇の花々の手入れをしながらぽつぽつ訪れる客人の応対をし、
役所に通い、初七日や三日七日(みっかなのか)には親戚が集うので「ふるまい」をし、
夜になるとすこしさみしい、そんな日々を過ごしていた。
その晩は彼女にお礼がしたくて外での食事に誘った。

食事? ・・いや、飲みすぎなかったけど。
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by NOONE-sei | 2008-03-05 01:56 | その五の百夜話 本日の塾(3)