日が落ちて真っ暗になる前の夕暮れは、あの世とこの世の境界が淡くなる。 そんな時間に、盆の迎え火を焚き始める。 十三日から十五日まで迎え火を焚き、十六日は送り火を焚き、二十日と三十日にも焚く。 三十日のは晦日盆(みそかぼん)というのだとか。 山あいの温泉町は、盆は泊まり客で賑わう。 家々の前の迎え火はすこし幻想的で、浴衣姿に旅館の下駄で散歩に来た客たちが喜ぶ。 子どもたちがその迎え火で花火をしてはしゃぐうちに、川のほうから笛や太鼓が聴こえてくる。 わたしの育ったその町ではどうだったのか知らないが、 昔はほっかむりをして盆踊りを踊ったと聞いた。 春彼岸も秋彼岸も、あの世の者たちはむこうの岸辺までは来るが渡れない。 一年に一度きりの盆に、彼方の岸から此方(こなた)の岸へと渡る。 笛や太鼓に誘われて、この世の皆と一緒に踊ったり、ときには誰かに憑いたり。 ほっかむりで誰が誰やらわからないから。 今年、うちを入れて近隣で三軒に不祝儀があったから、ここいらでは新盆が三軒ある。 けれども古くからの慣わし(ならわし)のない地域なので、右倣え(みぎならえ)することができない。 母方の親戚縁戚に四件も不祝儀があったわが家は、新盆を迎える本家に倣うしかない。 温泉町の本家に教わって、薪を鉈(なた)で細く割って火の準備をした。 近隣で迎え火を焚いたのはうちだけ。 よそは盆棚に飾るほおずきを探しただろうか。 墓や盆棚に、ササギとナスを細かく刻んで生米を混ぜたものを供えただろうか。 ナスやキュウリを牛馬に見立てて一年分の荷物を背負わせて送っただろうか。 流し終えると、派手な花火が上がる。 口をあいて、空から降る大輪の菊の花びらのような余韻を飲み込むのだけれど、 あっぱぐちをあけて、まぬけな顔をしながら、泣きそうになっているなんて、おかしなはなし。 お盆のシワ コ は 湯上り(嘘)の、毛深い動物は情けない姿になります。 ・・これはヤギ? セイさん、わたし、お風呂、好きじゃありませんから。 頭にタオル、乗せないでください。
by NOONE-sei
| 2008-08-20 00:04
| 数のない夜(23)
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