62夜 冬はつとめて


枕草子で語る春夏秋冬は、それぞれが心憎く言い得ていて、小憎らしいほどだ。
春は夜明け、夏は夜、秋は夕暮れ、冬は早朝。
立冬が過ぎ、まだ里に初雪が降りてこない今は、一日のどの時間に趣きがあるんだろう。

『寒厨(かんくりや) 音が明けてゆく夜明け』
一時(いっとき)句作に精を出していた母がこんな句を作ったことがあって、
ほかの句は憶えていないがこれだけは印象深い。
まだ火の気のない朝の台所で、引き締まった空気がこれから緩んでゆくという情景が見え、
そして外から音の無い空気が入り込んで音に変わるのが、視覚に聴覚に伝わる。
句のとおり、母の朝は早い。

しばし退院して家で過ごすはずが、ほんの数日で父は再入院してしまった。
母もわたしも毎日の病院通いが始まっている。
今度は長丁場だから、母を送り届ける役に努めようと思っている。
だから、わたしのほうは父の顔を見たら病室にそう長くは居ない。

毎日の出勤時間も決めた。
母の言った時間がきりのいい時間ではないので不思議に思い、ある時、
鶴の恩返しのようにそっと茶の間の襖を開けてみた。
母は朝の勤めを終えると、コーヒーを飲みながら一息入れ、
時代劇を観ながら化粧をしていた。
そして観終えると、それまでの実用本位の、人前に出るにはあまりに普段着の、
なんだもない格好から、派手ではないが、どこか可愛げのある服装の姿に変わった。

父に、母とどのように過ごしているのか聞いてみた。
大部屋に長時間居るのは気詰まりだろうと思った。
患者のベッドはそれぞれ昼でもカーテンが引かれ、個々人は静かに思い思いに過ごす。
「オレはテレビが観られるように、頭のほうに足をかいちゃ(逆向き)にして寝てんだ。
あのひと(母)は、オレの足を横っちょに退(の)けて、ベッドで昼寝して帰んだ。」
・・ぷぷっ

枕草子で言う『つとめて』が早朝を意味するのは、
お坊さんの朝のおつとめからきているのだったか。
母の冬は『つとめて』、朝の勤めをし、努めて父の病室に通い、勉めて父のベッドで寝る。



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わたしにはまだ、『秋は夕暮れ』。
秋を撮ったお写真を整理し終えぬうちに立冬を過ぎてしまった。
しばらくお話を更新できないでいたが、せめて雪が降る前までに
少しずつお写真を載せてゆこう。
時季がずれている、と、笑わないで見ていてくれ。

ウェブログのスキンも暖かい色に変えよう。
もうじき、火のつくストーヴの上に鍋をかけるからね。
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by NOONE-sei | 2007-11-14 01:57 | 新々々百夜話 父のお話(12) | Comments(9)
Commented by osa麻呂 at 2007-11-14 23:28 x
こんばんは!
ちょうど「枕」の色っぽい話でも意訳しようかなって思っていたところでした。
受験生にはかわいそうなくらいおピンクな段がセンターにでたりするのでかわいそうだけど、けっこう詳しく解説したりするのでした。
大学はいってから楽しんでね、って感じ。
Commented by NOONE-sei at 2007-11-15 09:51
麻呂さま、おはようです。よい朝でおじゃるか?
古典のエッセンスを素材にお話を書くことが多いですが、
古典の基礎素養が抜けているセイでございます。
osaさんのような心積もりの古典指導を受けていたなら、
もっともっと自由に、書く内容にも広がりを持たせることができたろうになぁ。
古典に親しむには、10代ってまだ幼いですよね。
思えばそれでも書こうとするのは、
その口惜しさが憧れとなって、今でも素材にしているのかもしれないなぁ。
Commented by mica at 2007-11-15 13:22 x
『将棋さす 背中(せな)に秋めく夕日影』
母ととても仲のよかった伯母が、晩年につくった句です。
他の句は、やはり覚えてないのですが、たまたまケッコンして
挨拶がてら、連れ合いと母とで伯母宅に行った際に、
母と縁側で静かに話していて、「これは先生にほめられたのよ」と
嬉しそうに笑っていた姿が、焼き付いています。

その頃すでに伯母は癌を患っていたのですが、その
ほんの3年後に、母の方が先に逝ってしまいました。
その翌年に伯母が逝った時、最後まで伯母に会いたがって
いた母のことやら、その句のことやら思い出されて
その場に居た誰よりも大泣きしてしまいました。

母の時は、仕事を休職して看病したり、自分自身がキツくて
余裕がまったくありませんでした。
何よりも、当の病人が、最期の時間を誰とどう過ごしたいかと
いうことは、その個人だけの問題ではなく、そのあともまだ日常が続く
残される者にとっては、自分が死ぬまで背負わされる問題にも成り得るわけで。。。
「生き様」同様に「死に様」というものについても、母の死後、考えるようになりました。
Commented by ひす at 2007-11-15 15:20 x
こんにちは。
お父様は再入院ですか?
またしばらくは色々と時間がとられることとなりますね。
お父様はもちろんのこと、看病なさるお母さんやセイさんもお体をお大滋に。

さて、ちょっと不謹慎な考え方ですけれども…
実はうちの祖父は入院を頑として嫌がり、ずっと家にいたのです。
その間祖母はずっと看病していたわけですが、
思えば、一時期祖父はが入院した時期は、
看病に行く際に、セイさんのお母さんと同じように小奇麗に身支度をしてから出かけておりました。
病院は家とは違い、やはり外の世界ですからね。
無論そのことが「しんどい」と言っておりましたが、
結構イキイキしているようにも見えました。
だから私は、「普段家にこもっている人間にはこうして(強制的にでも)表に出る機会が必要なんだろうな。」と思っておりました。
(無論病院通いはかなりの重労働なのでありますが。)
今回のお話を拝読し、すっかり忘れていたそういうことを思い出しましたよ。
Commented by ひす at 2007-11-15 15:20 x
>枕草子
この出だしは秀逸ですね。
誰がなんと言っても、この部分は大好きです!
色も鮮やかに絵が浮かびますもの!
中でも、「夏は夜。月のころはさらなり」が大好きです。
よし私も一つまねをして…
「ころは犬。ころの食器はさらなり!」φ(._*)☆\(-_-)「皿か!」
Commented by NOONE-sei at 2007-11-16 00:35
micaさん、
いろいろおありだったのですね。
そのようなデリケートな話題を率直にmicaさんに書かせたのは
また、そのように感応させたのは、
今回のわたしのお話に俳句というトリガーがあったからか、と
すこし胸が痛みました、ごめんなさい。
これからも日々のエピソードにお話という形の味付けを加えて
書き続けてゆくと思うのですけれど、勘弁してくださいね。

この「王様の千と線」では、底の方に、わたしの
死生観が濃く薄くそのときどきのお話に織り交ぜて現われます。
どうぞそれがmicaさんへの、記憶の刺激とならぬよう祈ります。

胸がさわさわしたり、情動的になりそうなときこそ、
淡々とすることのほうに力を尽くそうと思っているのです、わたし。
Commented by NOONE-sei at 2007-11-16 00:56
ひすさん、
ねぎらいをありがたう♪

そうなのです、ちょとかわいい黒のスニーカーが、カルバン・クラインていうの?
デザイナーのものだったり、なかなか母に感心しておるですよ。
一方、わたしは送り迎えだけだと『なんだもない格好』だったりするので
見習わなくちゃだなぁ・・・と。
ひすさんは憶えているかしらん?以前もあった偶然なのですけど、
父が入院した同じ時期に友人の家族も入院したので、また『病院友達』になったのです。
母を送ったあとに、その友人と外でお茶を飲んだり、可能ならランチしたり
しなくちゃと思っています。
「努めて」そういうことをして外(がい)界と接触し、小奇麗にしなくちゃ、、、ね。

>「ころは犬。ころの食器はさらなり!」
(≧∇≦)ъ  座布団三枚!きゃははは
Commented by mica at 2007-11-18 13:17 x
あぁぁ、そんな、謝らないで下さいませ〜〜ぇ。
たぶん、母の死の前後、立て続けに
とても大切な人や動物との別れをたくさん経験したので
それ以降、わたし自身の死生観というものが
突き抜けたというか。達観というには、まだもちろん、ほど遠いですが。

わたしも『淡々と』、心を平らかにして
大切なことを見失って、あとで後悔しないように
つとめたいな、と思ってます。
ヒトよりも生の短い動物たち付き合っていると
死生観というものについて、日々、どうしても向き合わざるを
得ない状況が、多々有ります。
「別れ」は残されるものにとっては、学びの場であったりもします。
と、ここまで書いていて、出かけなくてはならなくなったので
続きは、またいずれ。(笑

なので、気にしないで下さいませ〜。
こちらこそ、↑なコメントしてしまって申し訳ないです。<(_ _)>
Commented by NOONE-sei at 2007-11-20 01:22
micaさん、お返事がおそくなってしまって。だれのせいだっ!(エキサイト、、ボソッ)

お母様のミシンのお話を以前読ませていただいてましたよ。
心打たれるものがありました。

micaさんはえらいなぁ。
わたしの場合は弱虫なので、
後ろ向きかもしれません。しくしく
だって、気持ちが揺れたらおそろしいぢゃないですか・・・・・・。
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