56夜 夜の花摘み


病院通いが続くと、一般的にそうだと思うのだが、生活のリズムが崩れる。
母のリズムは崩れない。
朝は早起き、農家の人が言う『朝草刈り(あさくさがり)』、つまり野良仕事をして、
洗濯をして、掃除をして、朝食をとって、身だしなみを整えて、それから病院。
帰ると猫に餌をやって、夕食をとって、風呂にはいって、いつもの時間には寝る。

わたしのほうは、リズムが狂ってまだ立て直せない。
母の通院に合わせて生活しているからといえばそうなのだが、
時間の帳尻を合わせるということがうまくできない。
遅く帰ったら帰ったなりに、時間に動きの丈を詰めれば帳尻が合うものを。

庭の畑では食用菊の盛りだ。
山形では『もってのほか』、新潟では『おもいのほか』というのだとか。
家ではいくらも食わぬのに、花は毎日咲く。
摘まないでいては外聞が悪いから、と病院で父に言われた。

王様と鰐号の食事が済んで手が空いたらもうすぐ夜の正午。
菊を摘もうと外に出たら王様もカゴを持って出てきた。
夜の灯りに薄紫の小菊の群。
夜更けに時間は詰められなかったけれど花を摘みながらおしゃべり、
それもまた良き哉(かな)。





正反対のおはなし

きたない話だから、苦手な人はやめたほうがいい

山で用を足したくなったら、「花を摘みに」「雉(きじ)を打ちに」と言うのだったか。
女性と男性で言い方がちがうのだったか、大小でちがうのだったか、よく憶えていない。
「生理現象なので」と言うよりは、ずっと趣きがある。

山でのマナーの悪さに運悪く出くわすと、人間の愚かさに気持ちが沈む。
花は摘んだら持ち帰るもの。
それは山だけではない。

すこし離れた駐車場から、街を歩いて病院に向かう小さな時間は、ちょうどいい気晴らしだ。
あちこち眺めながら、ショーウィンドウに映る自分の姿に街鏡(まちかがみ)なんてしながら、
もう少し身だしなみに気を配ればよかったなどと思いながら。

不思議な看板に目が留まった。
   『不法駐車 罰金三万円
    犬の糞遺棄 罰金五万円』

犬の糞(ふん)に憤懣(ふんまん)やるかたない駐車場の持ち主の感情が伝わる。
花は摘んだら持ち帰るもの。犬の糞の所有者は飼い主だろう?
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by NOONE-sei | 2007-10-19 10:36


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