50夜 見えすぎる月 


ゆうべの月は満月、高くから照らすものだから、夜中なのに見えすぎて困った。

蝶は蛹のまま、羽化に失敗したようなのだ。
色が黒ずんだのを見て、鰐号が言った。
「それ、もう死んでる。ほんとはもっと透明になんだ。」
王様も、わたしを気遣いながら言った。
「ずいぶん日が経ったよね。」

殻の中に蝶の羽の模様が見える。
殻を切って出してやろうと思う。
鰐号に手伝いを頼んだらいい顔をしない。
「だってもう死んでんだよ。」
自分の気持ちをうまく伝えられないわたしが精一杯言う。
「このまま埋めたくないんだ。最後まで見なくちゃいけない気がする。」

鰐号が小さかった時、友達と子猫を拾ってきたことがある。
橋のたもとで紙袋に入っていたそれをそのまま自転車のカゴに入れて。
じいじは、この猫の親を飼う人がいかに悪いかを語り、可哀相だが元の所に置いてこいと言った。
じいじもばあばも、飼うことはできないと頑として許さなかった。
わたしは方々(ほうぼう)手を尽くし、涙をこぼしながら貰い手を探した。
子どもが、親ならなんとかしてくれると思って持ってきたものを 放り出すことはできないと思った。

ついに貰い手はどこにも見つからず、王様とわたしは獣医に薬殺してもらう決心をした。
最期まで見るのが役目だと思ったから、医者から焼き場にも自分で持ってゆく。
それを知ったばあばは、わたしに「あんたは恐ろしい。」と言った。
理解されないことは悲しかったが、保健所に持ち込んで殺処分することのほうは普通で、
わたしのした選択のほうが異常なのだとは思えなかった。
見るということは最期まで見るということではないのか?

今夜は満月の次の夜。
蝶は山椒の木の根元に埋めてやろう。


                         *


猫のその後:
子猫を見た獣医が、最近同じような柄の猫を亡くした人を知っているからと連絡を取ってくれ、
おかげで猫は貰われて行った。
鰐号は貰い手が決まってから心ひそかに猫に名を付けた。実際には誰も呼ぶことのない名を。
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by NOONE-sei | 2007-09-27 21:03


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