44夜 虫を愛づる

   虫を愛(め)づらないひとは読まないほうがいい。

わたしを「ちーねぇちゃん」と呼んで、同じ時期を同じ屋根の下で暮らした妹分がいた。
彼女は北海道の出身で、大きくなるまで信号を見たことがなかった。
進学して東京に出、借りた部屋にゴキブリが出たら、これも見たことがないので
珍しがって、捕まえて虫かごに入れた。

わたしは東北から東京に出、信号は見たことがあったがゴキブリを知らなかった。
だから、わたしもゴキブリは全然恐くない。
この地では、今でも一年に一度見るか見ないか、ほとんどお目にかからない。
ゴキブリは動作の素早いクワガタのようなものだ。
不潔で悪い虫なんだとだれかに教えられてからは、ちゃんと仕留める。
妹分の彼女とは違って、飼うには至らなかった。なむなむ合掌。

北海道では地震もあまりないんだろうか。
ゴキブリを愛でる彼女は、地震がくるとたたっとわたしの部屋の戸を叩き、
「ちーちゃん、恐いよっ。」とわたしの布団で震えた。彼女はゴキブリが恐くなくて地震は恐い。
わたしよりずっと大柄なのに、小さな虫のように丸くなる。 ・・ダンゴ虫みたいで可愛かった。

                      *

今、庭の畑には気になる虫が五ついる。
どれもアゲハの幼虫で、三つはもうじきまどろむのじゃないかと毎日観ていた。
あむあむと口を動かしてニンジンの葉を食うもの、三つ葉を食うもの。
でも、ひとつは紫蘇にくっついている。おかしくないか?
アゲハって、ミカン科やセリ科の植物を食うのだろう?紫蘇って、シソ科とちがうか?

残りのふたつはまだ鳥の糞に擬態している醜い毛虫のような姿。
幼虫は四回姿を変える。
いずれ、これらも黄緑の綺麗な青虫になって、オレンジの点々の芋虫になって、
どこか離れた、とんでもないところで蛹になるんだろう、まどろむように、体に糸を巻いて。
脱皮はセミとはちがう。脳天がぱかりと開くようにして折りたたんだ濡れた羽が現れるのだ。

どうぞこのまま、蜂や鳥に食われずに虫から蝶へと変貌できますように。なむなむ神様仏様。


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「虫愛づる姫」って、平安時代、いろんな人がどんどんお話を作ってつなげてゆく、
宮中の女性たちの遊び「堤中納言物語」の中の一篇。 ・・風の谷のナウシカではありません。



おまけ
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この夏に読んだり読み返した漫画等々。
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by NOONE-sei | 2007-09-04 22:49 | 趣味の書庫話(→タグへ)


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