4夜 世界一


「セイ、新しいパチンコ屋ができた。大きくて広くてね、あれは東洋一だよ!」

同い年だけど後輩のアキラに誘われて、井の頭線ガード横へ。
東洋一は怪しいが、なるほどぴかぴかだ。
大学生、昼間の娯楽はパチンコ。
今ほどの賭博性がなかった頃だから、元手が少しでもそこそこ遊べた。

ところでわたしは世界一難しい漢字を知っている。ばら(薔薇)だ。
読める、けれど書けない。

つい先ごろ、30年来の記録を塗り替える漢字が出現した。どくろ(髑髏)だ。
記録の更新に異存はないが、発見した子が小憎らしい。
小粒なのにからい。揚げ足をとるわ、「そんなこといつ言った?何時何分何秒?!」
 いつものように悪態をつきながらも、その日はわたしからの提案に気分が乗ったらしい。
カードを二枚一組にして最高に難しい漢字の熟語を書き、トランプのように神経衰弱をする。
「カルタにもできる!一枚は読み札にすればいいんだ!」
小粒、今日は冴えてるし機嫌もいい。読み札なんて趣のある言葉、いつ覚えたんだ?
辞書も使っているじゃないか。
 そして発見したのが、髑髏だ。

大学生、夜の娯楽は酒盛り。
飲めない奴に酒は勧めない。もったいないから。先輩から受け継がれている伝統だ。
すっかり出来上がって、お目出度い一行は東洋一からおめでたさのおすそわけにあずかる。
花環から造花を頂戴して、道端で東洋一を讃え歌い踊る。

小粒、次に得意げに思いついたのが、よろしく(宜しく)。
「小粒、それも難しい漢字だけど、カードに書くなら別の言葉で、熟語のほうがいいと思うよ。」
「熟語だっ!オレ書ける。」
紙切れに書いた漢字は、夜路死苦。
わたしはひっくりかえりそうだった。
「不良か、おまえはーっ!」

世界一を発見した小粒を讃えるべきか、いさめるべきか、、、ひとに言えるほど、
わたしはえらくない。

04.11.20
[PR]
by NOONE-sei | 2004-11-27 23:21 | 百夜話 本日の塾(9)


<< 5夜 茶摘み 3夜 花の移ろふ >>