2夜 記念のお品


身の丈で買えるもの。

いちばん古い記憶は、高校入学の記念に買った服。
すこしずつ貯まったこづかいで、自分のために。
コール天のカジュアルなスーツで、洗いざらしたジーンズの色だった。

二十歳(はたち)には万年筆。
ひとの好みはさまざま。セーラー派とパイロット派がいた。
わたしはスレンダーなセーラーより、ふくよかでほんのすこし
ペン先にしなり感のあるパイロットが好みだった。

社会人になっても万年筆。
ギフトとして文房具店が職場に届けてくれた。
あこがれのモンブランの極太字。やわらかい。しなる。

長年わたしに絵の手ほどきをしてくれた恩師を失い追悼展をひらいたとき、
絵だけでなくなにか大切にしている物もオマージュにしのばせようと思った。
「身近なものから描き始めなさい。絵が借り物になってしまわぬよう。」
そう教えてくれた作家だったから。
贈答品としてのギフトではなくメンタリティなギフト、、、。

「誉田万次郎との対話」
そう名づけた展覧会は、日中は優しく外光が入り、おすましではないけれど
心地よく背筋の伸びる、詩画集のような落ち着いた雰囲気だった。
夕暮れには、街に灯りがぽつぽつともるとギャラリーは外からライトアップされ、
大きなガラス窓越しに客が足を留めて絵を観る。
丸テーブルにぱりっとした白布を掛け、ペンとペーパーウェイトと芳名帳でお迎え。
わたしのモンブランは、引き寄せられてふらりと入る、
幾人もの客の手のペンになった。

04.11.17
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by NOONE-sei | 2004-11-27 23:16


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