嫌いなひとは読まないほうがいい。
花底蛇(かていのじゃ)という言葉が中国の故事にあるのだそうだ。 美しい花の下には時として怖いものが潜んでいる。 まっすぐなまなざしで日々を生きる少女と、その周囲の人々との関わりを描いた漫画に この言葉があった。吉田秋生の新連載。 少女が人の心の底の底にある闇を垣間見るお話だった。 いつも行く、山のふもとの公園の森は木々の間に山百合の街道が続く。 不自然なほど大柄の花が緑の中に点々と白い。 花芯は毒々しい朱の色とめまいがするように甘い匂いだ。 王様に、怖いものが匂いの下には居ることがあるから近くに寄ってはいけないと叱られた。 数日前、塾で庭の手入れをしていたら、長いものを見つけた。 とても細く長いそれを、わたしは腹を壊した野良猫の糞だと思った。 じっと見ているとゆっくりと動いたものは顔だった。いや、目がないので顔のような部分だった。 目で見たものが頭の中でわかるまでには時間差がある。長く感じる呆けたような時間が。 腰を抜かすほど驚いて、塾に駆け込み、 「だれか、だれか、長いものが怖くない子、割り箸持ってわたしを手伝って!」 塾生たちが箸でつまんで裏の川に捨ててきてくれた。 玄関に隠れて耳をふさいでも、形状をよく観察する声は聞こえてしまった。 その数日後、王様と塾で庭の手入れをしていたら、王様が長いものを見つけた。 ちいさな塾は文字通り寺子屋で、高い木に囲まれた寺のそばにあり、秋には落ち葉が山のように降る。 掃いても掃ききれずに積もった葉は腐葉土になる。その秋の葉の底に、それは居たんだという。 わたしや塾生の話からヒルかと思っていたが回虫かな、という。 わたしはあれ以来、ずっと映像が目の奥に払っても払いきれずにあって困っていた。 気味悪いのは正体がわからないからだったが、怖くて図鑑を見ることもできないでいた。 足のない長いものは怖い。名がわからなければなお怖い。 「博物誌」のルナールとかいう著者は、蛇を『長すぎる』と簡明に定義したのではなかったっけ? 虫と出くわす覚悟がなければ庭の手入れはできないけれど、わたしには長すぎるものへの覚悟がない。 それはずっとこれからもない。塾の長いものは、、、蛇じゃなくて虫、蛇じゃなくて虫。 ・・・呪文のように自分に言い聞かせたって、やっぱり長すぎることに変わりないじゃないか、、、。 * * * 今夜は山のふもとの公園の花や実を。
by NOONE-sei
| 2007-07-15 23:31
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