31夜 映画三題


   映画を観る予定の人は読まないほうがいい。

・「プレステージ」
おぞましいものを観てしまった。
奇術にも手品にも、タネも仕掛けもあって、それは見ちゃいけない裏側の世界。
小鳥が消えたり現れたりする陰で、仕掛けの細工に閉じ込められた小鳥には、
今日の命があり、明日の命は無いかもしれない。
何羽が生贄(いけにえ)にされたかなどと、想像するだに恐ろしい。
それが人であればなおさら。

劇中、エジソン側に排斥される実在の発明家、ニコラ・テスラの名は聞いたことがある。
直流と交流、どっちが主流になるかの争いだったっけ。
その役をデヴィット・ボウイが演じ、電流ばりばりの中から現れるなんて、格好が良すぎる。
彼には『魔王』を冠したい。
「ラビリンス/魔王の迷宮」(米 1986年)が印象的だったから。
その時の彼は、長い髪で妙なヘアスタイルだった。・・カツラ?
そしてニコラ・テスラを演じる彼はごく普通の短い髪なのだけれど、・・もしかして、カツラ?
彼の師匠リンゼイ・ケンプは頭つるっぱのおじさんなのだから、
デヴィット・ボウイが髪を剃りあげていても、わたしは構わないんだけどな。

2004年に舞台でトニー賞を取ったヒュー・ジャックマンが奇術師を演じる。
妻の目の前で歌い踊る受賞の場面は格好良かった。
この映画でも、舞台の場面ですこしだけ舞台俳優らしい身のこなしが見られて嬉しい。
ただ、この映画での彼の役は、男の嫉妬のどうしようもなさにまみれており、
それは醜く恐ろしく、とどまるところを知らない暴走をする。哀れでもある。

この映画は、予告と内容がぜんぜん違うので驚いた。
このどんよりをどのジャンルというのだろう、モダンホラー?それともダークファンタジー?

                      * * *

・「ゾディアック」
実在の犯罪者を追った男たちの物語。
どの男にも派手さはそうないけれど、それぞれの立場を精一杯生きていく。

僕を見て、僕はここに居るよ、僕をつかまえに来て。
新聞社や警察に暗号と手紙を送りつける犯人。つまりは未熟な精神。
劇場型と呼ばれる犯罪の形の最初は、こんなふうにして始まったのか。
それを何年も追い続けるうちに、抜け出せなくなって、引き返せない男たち。
そんな執着を引きずるには、当時の犯罪捜査方法がまだお粗末で、
勘や状況証拠だけでは決め手に欠けるのがなんともいたましい。

終結を見るまではと身も心もつぎ込んだ結果、こんな愚鈍な知的でない男が
おそらく犯人なんだろうというのは、追った男たちにあまりに失礼じゃないのか?

                      * * *

・「しゃべれどもしゃべれども」
怒っていないのに、「怒ってる?」と、おずおずと訊ねられてしまうような、
そんな美人で損をする女性って、世の中には、いる。
強面(こわもて)に口下手で、親近感を持ってもらえない男性って、いる。
言葉がちがうばかりに、新しい環境になじめずいじめられる子どもって、いる。

そんな、表からは見えない切実な切なさをどこかで吹っ切りたい面々が、
噺家に落語を習うのだが、その噺家も華がない自分に悩んでいる。
大きな意味では、それぞれの成長譚が描かれているんだろう。

日本映画の気難しいのや湿っぽいのは苦手だが、
さらさらとしたこの映画、こんな気持ちになりたかったんだ、と思った。
ところで、達者で桂枝雀そっくりの子役にはひっくり返った。
君は若い。最後まで、ちゃんと生きるんだぞ。

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「プレステージ」を観終わったどんよりした気分は、この短編を読んだ後の感じに似ている。
めずらしく本なんか読んだから・・・

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こちらもめでたしめでたしのようでいて、ちょと変な感じが残るグリムやグリムのようなお話集。
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by NOONE-sei | 2007-07-05 23:03 | 趣味の書庫話(→タグへ)


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