59夜 赤ちゃんの庭


「オレ、まだ死んでた。」
言うたびにやめろというのに、わに丸はいつもこう言う。

自分が生まれる以前の出来事には、みんな「まだ死んでた」 ・・・だ。
なんとか、「まだ、生まれる前のこと」といい直させたくていろいろ話してみる。
けれど甲斐なく、今でもそのまんまだ。



  「生まれる前の赤ちゃんは、神さまの庭に住んでいてね、
   生まれるときには『約束』をするんだって。

   お母さんたちは、『あなたのお母さんになりたいんだけど、いいですか』
   って赤ちゃんに聞くの。
   『いいですよ』って言った赤ちゃんが、そのお母さんから生まれるというわけ。

   大きくなってから『産んでくれなんて頼んでない!』とか、
   『生まれたくて生まれたんじゃない、勝手に産んだくせに!』とよく聞くけれど、
   あれはまちがいね。赤ちゃんは生まれる前に約束するんだから、
   生まれるつもりで生まれてくるんだよ。」



わに丸の「死んでた」は、今存在している実在感の裏がえし。
きっとずっとそう言って、この世に踏み出した生と、それ以前の生を
はっきりと時系列でとらえてゆくんだろう。
どんなに言っても変わらない、わに丸の「死んでた」は、そういうことなんだろう。

赤ちゃんがたくさん死んでゆく。
産むつもりと生まれるつもりで結ばれた約束だったはずなのに、
守られなかった約束がニュースで流れる。

約束する相手をまちがえた赤ちゃんたちは、生まれなおしの庭に
もどっていけるんだろうか。
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by NOONE-sei | 2005-02-03 22:56


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