80夜 冬の贈り物


秋に王様からもらった、贈り物の入った封筒。それを初雪の晩に開けた。
クリスマス・カクテルショーのチケット。出演はピーターさんだった。

大好きだから「さん」付け。少女の頃からずっとずっと好きだった。
映画『薔薇の葬列』(松本俊夫)も、舞台『青ひげ公の城』(寺山修司)も、
舞台『あやかしの鼓』(原作・夢野久作/作・赤江 瀑)も、
映画『上海異人娼館』(寺山修司)も、
ホラービデオ『悪魔の女医さん』(喰始)も、どれも怖かったけれどみんな観た。
夢まぼろしの妖しいものがピーターさんの周りにはあって、くらくらしてしまう。

ディナーショーの客が引けてから始まるカクテルショーには、お洒落した紳士淑女が集う。
・・まちがいはないのだが、少しちがう。紳士は数えた方が早い。カクテルドレスのお嬢さんも見かけたが、
フォーマルドレスはもとより、お着物や、中にはイブニングドレスのご婦人もいて、そういったご婦人方は
いろいろな、そう、いろいろな意味で場慣れしており、もしかすると、「かつて少女だった」女の人達ではなく、
「生まれた時から女の人」だったかもしれない。王様とわたしはまだ若造だった。

スモークが焚かれ、生バンドにダンサーが踊り、ステージの一曲目は、
江利チエミの名曲『家へおいでよ(Come On-A My House)』。二曲目は『夜と朝のあいだに』。
そしてシャンソンを歌い、衣装を替えたら越路吹雪の歌を。最後に白の衣装でフィナーレ。
・・エレガントなショーのイメージ?全然ちがう。ゴージャスなキャバレー。
歌に合わせた振りを練習させられるのだが、ピーターさんはやらせておきながらステージの上から客席を見て
けらけらと本気で笑う。会場は笑いに包まれ、笑い始めると笑っていることが可笑しくて連鎖してゆく可笑しさ。

久しぶりに観たピーターさんは、すっかり大人になっていた。
それでも三輪明宏の半分の年だと言っていたけれど、嘘つき。
客へ惜しまず投げかけて、あしらいが上手く、分け隔てない。
三輪さんのように霊験あらたかな菩薩化しないでいいから、いつまでも淫靡な妖かしでいて。
ステージを下りて歌いながら歩くピーターさんとそっと握手をしたら、
白粉(おしろい)とドーラン(舞台化粧)の匂いがして、顔も体もちゃんと年をとっていた。

越路吹雪の『ろくでなし』を歌っていたピーターさんは、客と握手をしていたはずなのに、
くるりと振り向いて王様の目を見ながら歌詞を替えた。
「・・す・け・こ・ま・しーー、おんな・たらしー、なんてひどい、ah wi 言いかたー」そしてにっこりと笑った。
ほんのわずかな時間だけれどピーターさんを独り占めした王様こそ、
贈り物をもらったんじゃないのか?


追って・・
寺山の「青ひげ公の城」は、オペラ「青ひげ公の城」 (1911年 作曲・バルトーク)がもとになっている

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by NOONE-sei | 2006-12-06 02:55 | 趣味の書庫話(→タグへ)


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