59夜 夜美女


ええい、検索したいなら、そのままをお題にしてあげる。
何を検索して辿り着くかを解析する機能というものが世の中にはさまざまあるらしく、
わたしの鄙のウェブログにも最低限の機能が付いている。
こんな辺鄙なところにどんな言葉を探して来るんだろうと思ったら、
とても人気があるのが「夜美女」。
意味深長で悩ましいこの単語、わたしはお話に書いた憶えがない。

わに丸は、美女がいっぱいの雑誌に囲まれている。
わに丸の部屋には作りつけの本棚があって、少し大きくなって部屋を与えるときに、
大人の本をいくつか、わざとそのまま残しておいた。
マンディアルグや澁澤龍彦、ベルメールも四谷シモンも置いておいたが、
怪奇も幻想も関係なさそうで、本や図譜に囲まれる愉しみはないらしい。
王様がむかしむかし机にぽいと乗せておいた中井英夫を読んだ塾生がいたが、
とっつき易い種村季弘を棚に置いておいても、わに丸が手に取ることはない。

ディアギレフの時代など、昔の舞踊の映像や、名の知れた「雨に唄えば」のジーン・ケリーや、
優雅なタップのフレッド・アステアのミュージカルも置いてあるけれど、
それらはわに丸の大量のコレクション、野球のビデオに徐々に追いやられた。
親の趣味と子の趣味の狭間をやっとつなぐのは、せいぜいが「ゲゲゲの鬼太郎」くらいだ。

漫画も、丸尾末広も大友克洋も諸星大二郎も、手塚治虫もますむらひろしも、
「ドカベン」に棚を明け渡した。
もっとも、手塚漫画をわたしはあまり好まず、「どろろ」と「ワンダー3」さえ残してくれればよかったが、
それも今ではダンボール箱の中に詰め込まれている。おそるべし「ドカベン」。
わに丸の部屋に置いた大人の単行本の数々は、かろうじてダンボール箱の刑を免れたけれど、
今では棚は、本の背表紙も見えないほど野球選手のサインボールや記念のお品で飾られている。

音楽はどんな趣味なのか、わたしにはわからない。
携帯音楽プレイヤーをいつも聴いていて、両耳の塞がったわに丸は、
まるで耳のおんつぁになった爺様だ。おんつぁというのは方言で、おんつぁまとも言い、
おやじ様なのだろうが、意味はちっとも偉くなくて少しあちゃこちゃになった状態を言う。
朝食をとる間だけはなんとか外させたけれど、そんなわに丸とわたしは、
孤立と疎外感の組み合わせだ。

テレビでなにかの宣伝に、ダミ声が流れた。
わに丸も聞き覚えがあったらしく、歌うのは誰だという。 
 What A Wonderful World このすばらしき世界
歌い手の名がなかなか思い出せず、翌日になってようやくひらめいた。
わに丸は、授業中携帯電話の電源を切り忘れていないだろうか。いたずらしてやれ。
『ルイ・アームストロング』と送信してやった。いつもは返事などよこさないわに丸だが、
めずらしく折り返し、『そう!それだ』。
スタンダード・ナンバーを聴く耳はおんつぁじゃなかったらしいな。

わに丸の現在の心境と願望。
米国メジャーの選手達が来日して試合をするのだとか。
 Fly Me To The Moon わたしを月まで連れてって ・・さしずめ、ぼくを日米野球に連れてって
さてこのスタンダード・ナンバーを わに丸は知っているでせうか。


夜美女で心あたりがあるのはこれ。美女の雑誌のお話。7夜の「夜」と「美女」をつなげて夜美女なんだな、きっと。
新百夜話 7夜 美女と野獣
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by NOONE-sei | 2006-09-30 22:50 | 趣味の書庫話(→タグへ)


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