54夜 百足競走


じいじが退院した。

「ほぉれ。」
さっそくわに丸に、服をたくし上げて手術の痕(あと)を見せる。
数週間前の抜糸のときに同じ洗礼を受けさせられたわたしは、
「またやってる!」そうたしなめるが、やっぱりわたしにもまたやる。
 わに丸も負けじと、爺と孫の疵(きず)自慢大会になるかと思ったら、
そうはならなかった。

先日の一時帰宅中に、雪が降った。
朝、なにやら外でごとごと音がすると思っていたら、
じいじが松の枝の支えをし直し終えたところだった。
歳が明けてから降る雪は重たい。水分をたっぷり含んでいる。
枝が雪をかぶり折れてしまう前にと、脚立を使い、下から支えをしたのだった。
わたしが昨年末にやっておいたはずだったが、どうしても気に入らなかったらしい。
じいじ自慢の松だ。名はやっぱり「カドマツ」か。さながら三下か舎弟のような名だ。
                                  (~「32夜 烏賊と蛸」より~)
実のところ、
筋肉の萎えた足で平気で脚立にのぼってしまうじいじに、家族は皆青くなってしまう。

じいじの若い頃の話を聞いても写真を見ても、コワイと言っていたわに丸だが、
近頃、ちょっと様子がちがっている。
一時帰宅の夜には、じいじの体を洗ってやり、あとからそっとわたしに
「じいちゃん、もう病院に返したくないなあ、あんなに垢がたまっちゃって、、、。
からだ、もう骨みたいだったよ。
あんなにされるところに、もう返したくないなあ、、。」
強い強い、野性味のあるじいじだったはずなのに、老人になって帰ってきた。
、、、それは病院のせいではない。
しかし何かのせいにしなければ、やりどころがない。
わに丸は切ないんだろう。

手術の痕をムカデという。
疵自慢は百足競走だ。

どうだ、すごいだろうと得意げなじいじに、
肯(うなず)いて花を持たせたわに丸の胸の疵は、もう、うっすらと白い百足だ。
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by NOONE-sei | 2005-01-25 23:15 | 百夜話 父のお話(19)


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