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44夜 呼び名を呼びな


わに丸が王様を何と呼んでいるのか、王様は今日まで知らなかった。
だから教えてあげた。・・『ぱぱやん』。王様がひっくり返っていたのが楽しい。
呼びかけるときには『とーちゃん』。お金が必要だったり相談があるときには『お父さん』。
今日、じいじとの会話に王様が登場し、わに丸は王様を『おやじ』と呼んでいて、
わたしはそれを初めて知った。

子供には、両親をちがう呼び名で呼びたくなる時期がある。
わたしは『おとん・おかん』と呼べと言ったのに、わに丸は『とーちゃん・かーちゃん』を選んだ。
外で、自分達がどう呼ばれているか。『おや』もしくは『ちちおや・ははおや』かと思っていた。

最近いいことがふたつあった。
ひとつは、
朝、喧騒のさなか、弁当を作っていたわたしは急に情けなくなって、途中で蓋をしてしまった。
ご飯用の入れ物には白米と梅干と佃煮。
昼、学校で蓋をあけたら、おかずの入れ物にはから揚げがころんとふたつだけ。
隣の席の子が「おめーのかーちゃん、手抜きだなーー。」
けれどわに丸は、もしやそれは手抜きではなく朝のせいだったかもしれないと感じたという。
そんなふうに気づき、しかも、責めるでなくわたしにそれを話したのは、奇跡だ。
もうひとつは、
アルバイトで貰った給料で王様になにか買うように言っておいたら、父の日にシャツを贈った。
サイズが合わなかったので、後日そっとわたしが取り替えてきたけれど、それはご愛嬌。
進路について、わに丸は王様に相談することが増え、ふたりの会話も増えてきた。
不器用な触手をおずおずと伸ばし始めている。

実は今日、もうひとついいことがあった。
じいじは耳が遠い。ただでさえ遠いのに、そのとき周りの音がうるさかった。
大きな声で幾度も話し掛けるわたしを見て、わに丸が初めての場面を見るように言った。
「お母さんって、ほんとに大きな声が出せなかったんだ・・。」
声の小さいわたしの声を聞かずに過ごしてきたことを 初めて知ったようだった。

王様が『おやじ』なら、わたしは?『おふくろ』はぜったいに嫌。
・・『おかん』と呼んでほしい。


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by NOONE-sei | 2006-07-01 02:53


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