こわいこわいと思っているから目で追ってしまうのだ。 けれど嫌いなものにこそ敏(さと)く反応してしまうことってないか? そして道を歩くときには用心するが、室内では無防備なもの。 中学校に入学したばかりのちびだったわたしは、 同じ小学校だった子が一人もいなくてどう振る舞っていいのかわからなかった。 町の中学だったので、山で育ったわたしには町の子たちが大人びて見えてまぶしかった。 教室の席は一番前、教卓は目の前。 隣の席の男子はいじわるで、わたしをからかってばかりいる。 わたしは、怒ったり泣きそうになったり、情けない気持ちになったり。 町場の子はこんなふうに口達者でせっかちでいじわるなんだろうか。おんなじちびのくせに。 腹が痛くなったり怪我をしたりしないかな、と 寝る前に祈るのに、起きてみるとなんともないから登校する。 学校にゆくのが嫌なのに、学校とはゆかなくてはならぬものだった。 教室の席に座り、教科書を机の中に入れ始めたらがさごそとなにかが入っていた。 手を差し入れて取り出したら、カサカサしたごみ。 目の高さまで持ち上げてみたけれど、つぶつぶ模様がうっすらとあるひらひらしたもの。 指でぶらさげてみたら、なにやら見覚えのある輪郭。 ・・それは蛇の抜け殻だった。 木を見て森を見ないという、視野の狭さを喩(たと)える言葉があるけれど、 田舎に住んでいる者が自然と仲がよいかというとそうとは限らない。 見るつもりで見なければ、目玉は飾りだ。 わたしは物知らず、物の名知らず、森どころか木も見ていない子供だったから、 蛇の抜け殻を見たのが初めてだった。 やっと手にあるものがなんなのかを認識したわたしは、おそらく気が狂ったんだろう。 悲鳴も上げ、叫び、きっと大騒ぎをしたにちがいない。憶えていないが。 隣の席の男子は担任にみっちりしぼられ、ばつの悪そうな顔で教室に戻ったけれど、 うなだれてはいなかった。 「仲良くすっぺな。」 席についたら小さな声でそう言ったので、わたしはなんだか安心した。 朝の授業はいつもの通り。 彼もわたしも机と机の間を離したりはしなかった。
by NOONE-sei
| 2006-06-16 18:24
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