26夜 ゆく春くる夏


煩悩の憑き物を落とす鐘の音(ね)、ゆく年くる年。

五月。朝夕の肌寒さとひるべの薄暑さ。夏の初めの今をなんと名づけよう。
冬から春は、食が駆け足でやってきた。
日食や月食のおはなしじゃなくて、食卓のおはなし。

冬、雪の下の土は温かいから、室(むろ)を掘って葱や大根を埋めた。
白菜は凍みないよう、小屋の棚に積んでゴザをかぶせた。
白菜が尽きる頃、雪も融けて蕗のとうが顔を出す。
四月の春祭りにはつくしも顔を出す。むかし、土筆を「つくし」と読めなかった。

山からの吾妻おろしは冷たいから、帽子と手袋は欠かせない。
田んぼのあぜで、蓬(よもぎ)の若芽、空き地で浅葱(あさつき)、小川で芹。
農家の屋敷周りにはウコギの垣根があり、新芽のころはまだ棘が痛くない。
野の収穫に、早春の散歩はいそがしかった。

父はこの季節になると、どこかの沢から葉わさびやクレソンを摘んでくる。
時には蕨やトリノアシもおまけについてくる。
本当は山で、たらの芽やコシアブラなどなど、本格的に山菜採りをしたかったはずだが、
病み上がりだからと待ったをかけられて、今年はすこし不満な春だった。

けれど山の味覚は身近なところにもあって、じつは十分楽しめる。
柿や桑の新芽の天婦羅は美味いし、春の新芽はほとんどの植物が食せると聞いた。
初夏の候、まだ楽しめる味わいはあちこちにある。

皆ちいさいときには苦手なのに、おおきくなると恋しいという山菜。
体の毒を落とす薬と教えられたけれど、山菜の苦味も増すとえぐみになり、きどくなる。
本当は山菜のほうこそ毒ではないかと疑った。
きどい、とは方言か?

「きどい、きどい」と言いながら食べるうちに覚えた山の味。
いつか毒は、落ちるのではなく回るのではないかとこわかったはずだのに。


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冬の気温の低い時に、水をくぐらせて大根を干す。
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夜に凍り、日に干されて出来上がる凍み大根。乾物だから、戻して煮物などにする。

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キムチを作った。アミの塩辛のかわりに桜えびを入れる。全部混ぜて白菜漬けに挟み込むだけ。

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つくしの佃煮を作ろうと摘んだら、入れ物がなかったから手袋(ミトン)に入れて帰った。


おまけ 
 ミトン ロシアのアニメーションの紹介
 ミトン 音楽がかわいい。
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by NOONE-sei | 2006-05-12 02:54 | 新々百夜話 父のお話(8)


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