93夜 がらくた奇譚


骨董屋で店番をしていたことがある。

古道具屋ではないので、時代箪笥や自在かぎなどは置いていなかった。
甲冑や刀剣類も置かないので、骨董屋と聞いて浮かぶ、お化け屋敷的な店でもなかった。
何より良かったのは、櫛やかんざしや帯止めがなかったことだ。
鼈甲・珊瑚・翡翠などの宝飾品や、細かい銀の細工の装飾品は、
身につけていた人の、まるで「過去」という人体標本を見るようで薄気味悪い。
一緒に埋葬されるはずのものが、いつまでも主(あるじ)から離れてさ迷うようで、
店に、そのような半永久に生きる幽霊が飾ってあったら、店番はきっと怖かっただろう。

どこかで落とし物を見つけたら、拾って店の人や受付に届ける。
けれど落とし物の髪飾りだけは、拾わずに口頭で知らせることにしている。
人の髪に付いていた物は、拾うと苦労を背負うから。
きっとちいさい時に誰かに言われたんだろう、
「黒」と「苦労」を掛けただけなのかもしれないが、妙に生々しくて記憶に刻んでしまった。

人が使っていたときにはそうでなかったものが、
使われなくなって、やがて負のイメージを醸し出す。

骨董屋の店主が、セリで落とした器の木箱に一緒に入っていた、
売るのに余分な物を処分していいというので貰った。
壊れた懐中時計や彫りのある時代箪笥の取っ手などの楽しいがらくた。
これらのがらくたの中に、銀細工の小さな蝶が混じっていた。
かんざしの装飾の一部だ。

今でも時々、がらくた箱を取り出して見るのだが、
部品の欠けた懐中時計の中の、小さな歯車にわくわくし、
かんざしに付いていたはずの、小さな蝶を見てびくびくする。
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by NOONE-sei | 2006-01-14 18:45


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