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75夜 グリム兄弟は似ていてほしい


映画「ブラザーズ・グリム」(米)を観た。

民間伝承を物語にまとめ、今では怖いだとか残酷だとか言われながら、
人間の心の、『こわいもの見たさ』をくすぐり続けるグリム童話集。
その中の幾つかのお話を本歌取りにして、
兄弟は魔物退治を騙(かた)る詐欺師だったとさ、でも時には本当の冒険活劇もあったかも、、
という仕立ての娯楽映画だった。

イギリスには、昔、
とってもインテリさんでおかしなおかしなコメディを連射する、モンティパイソンという集団がいた。
彼らはテレビで、お下劣あり、辛辣あり、しかも緻密の迷路に引きずり込んでおきながら、
手なんか元からつないでいなかったじゃない?と、ぱっと離して蹴っ飛ばすようなひどいやつらで、、。
・・・と言えるほど見たわけじゃないけれど。
そんな集団の出身者が作る長編映画は、最後にはもたらすのが常の、観客への救済がなかったり、
もしかしたら、こわいことは輪廻で繰り返してゆくのかもしれないよ、と皮肉に寒がらせてみたり、、。
映画に血が通っているとすれば、赤いというより青いかな、と感じさせる終わりかた。つまり、ずるいのだ。

そのメンバーのひとりが、この映画を作ったテリー・ギリアム。
以前作った「未来世紀ブラジル」(1985英)というと、彼の代表作なのだろうか?
今では神話のようにも語られているように思う。
なんとも寂しさに突き落とされる映画で、日本映画でもないのに無常観があってもう一度観るのは勘弁だ。

もっと以前には、「バンデットQ」(1981英)という映画があって、
神様の僕(しもべ)たちが大切な地図を盗み出すところからお話が始まる。
僕(しもべ)たちは歴史をかき回す根っからの泥棒で、小賢しくて、全員が小人で。
ナポレオンが登場するが、これまた背がほとんど小人。強い劣等感の持ち主として描かれている。
「ブラザーズ・グリム」でもフランスをけちょんけちょんに、いいのかと思うほど蹴っているし、
ギリアムはフランス嫌い?

テリー・ジョーンズという、もうひとりのモンティパイソンのメンバーも映画を作った。
「エリック・ザ・バイキング バルハラへの航海」(1989英)という。
この映画をジョーンズが作った同じ頃に、ギリアムは「バロン」(1989英)という映画を作っていて、
ふたりのテリー、ふたつの映画、真似たの真似ないのという話にもなったとか。
どちらがどちらに似ていてもいいけれど、わたしにはほらふき男爵を本歌取りの「バロン」より、
同じ本歌取りでも北欧神話が時空を越える「エリック・ザ・バイキング」のほうが楽しかった。

ところで最近、モンティパイソンと味わいの似ている映画をみつけた。
デンマーク映画で「キング・オブ・パイレーツ」(2002)という。

神様から何かを盗んで逃げるという設定は「バンデットQ」と似ている。
けれど、我がまま度と無責任度がちがう。
盗んだ海賊も、追う海賊も、追わせる天使も、そもそも神様にも使命感がないのだ。
神様は天地生きとし生けるものの創造よりも、死んで天国に来た有名人と遊んで暮らしたい。
だから水槽にタコを飼って、代わりに世界を管理させている。
タコ語は難解だから、天使たちが翻訳辞書を片手に天球儀の駒を動かすというわけ。
ときには珈琲を天球儀にこぼしてしまって、地球には茶色の大雨が降ることもある。
そんなこんなあったけど、みんな何故だか収まるべき所に収まりましたとさ。という映画。
 これのいいところは、積み木の最後のひとつを積み損ねたり、積むのが嫌になっても、
それを観客に、ギリアムのようには押し付けたりしない、というところ。

おそろしいことは、繰り返すのかもしれないよ、、、。
それはギリアムでなら「バンデットQ」で経験済みだし、
そういう終わらせかたをする映画なんて、捨てるほどある。
そんなことで恐怖を引きずって映画館を出たりは、もうしない。

わたしは怖がりなのだけれど、グリム童話があまり好きでないのは、
怖いからではなく、すこし腹立たしくなるから。
スティーブン・キングやラブクラフトの小説を読みたいと思えないのは、
恐怖が嫌だからではなく、ずるさが嫌だから。
このずるさ、モンティパイソン系なら許せるけれど、大家の小説のは御免だ。

映画の数々、小説の数々、こわいものの数々、、、。似た味わいは数々ある。
でも、ゆうべ似ていてほしかったのは、グリム兄弟の顔だったな。
by NOONE-sei | 2005-11-21 11:33


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