やっぱり書きたいことがいっぱいあるよ、どうしませう。 今夜のおはなしは獣にまつわるあれこれ。 テン コ の鼻にはいつもはなくそがついている。 いや、本当のはなくそじゃない。 黒い色素が歯茎や唇にぽちぽちあちこちについている。 その色素が鼻にひとつあったのが、四歳近くになったら正中線上にぽちっとはっきりしてきた。 それをわたしははなくそと呼んでいる。 シワ コ は見た目には黒い色素はなかった。 でも、口をあけると舌に黒い舌斑(ぜっぱん)があった。 これがあると気が強いだとか癖っ気があるだとか気質的には多少問題傾向があるらしい。 たしかにシワ コ はきかない女だった。 気性が激しいことをこの地ではきかないというんだが、これは共通語か? シワ コ がいなくなったら、ペロ コ が急に何に目覚めたのだか、わたしの御付きの者になった。 いつもわたしを目で追ったシワ コ とは違い、どこに行くにも家や敷地をくっついてくる。 しかも動線上にくっついて歩き振り向くので、わたしはペロ コ を踏みそうになったりつまづいたりする。 だからわたしはペロ コ を「御付き」と呼び、王様は「動線上のペロ コ 」と呼ぶ。 言わずもがなバッハの『G線上のアリア』である。 王様はテン コ は年を経るにつれシワ コ に似てきたという。 きかない。家族以外には触らせない。ずいぶん慣らす努力をしたのだが。 シワ コ は誰に触られてもよいようにしつけ、実際誰に触られても従順だったが、 家族以外に触られるのを本心では好まなかったし腹も見せなかった。 ペロ コ は誰にでも触られたい。 家に人が来ると、その膝によじ登り丸くなる。大型犬なのに。 ちかごろは、もし口をきいたなら敬語を使うことを覚え始めているのではないかと思えるふしもある。 介護の休みをもらえた日中は、わたしはほとんどでかけない。 昼まで家のことや庭のことをこなして、午後からは自分のためにちょっとしたつまみを整え、 明るい背景音を選び、グラスにワインを注いで本や漫画を読む。 そのうちに日々の疲れが顔を出し寝てしまう。 すると足元にテン コ が丸くなり、わたしの隣でペロ コ が丸くなる。 時には獣たちがもっと近くで寝てしまい、鼻息寝息がわたしにかかることもある。 母が帰るまでのほんのひとときだけれど、幸せで贅沢で大切なひとりの時間。 時々訪れる幸せな時間もある。 弟のような男友だちが、互いに休みの日が合うと自分の作った料理をメールに貼付してくる。 これみよがしに、どうだとばかりに、たとえばオーブン料理とワインの瓶とグラスも写っているので、 わたしはわたしで愛情たっぷりな皮肉でエレガントに返事を返してやる。 彼は娘が進学して上京したので今は猫と暮らしている。 わたしたちは休みの日が合っても、まずめったに会うことはない。 ひとりの時間を大切に過ごしているのだな、とわかればそれでいいんだ。 ところで猫というものはたいへんに綺麗好きでおしゃれで、いつも身づくろいをしている。 けれども目やにを自分で取るということができない。 テン コ が、シワ コ には取らなかった生意気な態度をペロ コ には取ることがある。 いつも我慢しているばかりではないが、ペロ コ のほうがテン コ に比べたらずっと心優しい。 ペロ コ も自分で自分の目やにを取ることができないけれど、でもペロ コ は目やにだけだ。 テン コ は「目くそ鼻くそ」じゃないか。 □わたしに幸せをくれる獣たち 向かって右のまぶたの上に目やにがあるよ。 □もうひとつの幸せ 時々、近所の馬たちにおやつをやりに行く。 外乗といって、乗馬レッスンではなく松林の中を馬に乗って小一時間散歩しに王様とたまに行く、その牧場の馬。 そこは農家の人が道楽で飼っているだけかと思ったら、ちゃんと乗馬クラブで、 浜通りの相馬野馬追いという由緒ある伝統行事にも出ていると、おやつをやりに行って初めて知った。 それが数年前、鞍もつけずに裸でうちのほうまで脱走して散歩に来ていたとは。 近所のおじさんで、王様の「畑の先生」のひとりが時々立派な野菜をくれる。
by NOONE-sei
| 2014-11-30 23:52
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