冬に雪が降るのは当たり前のことで、いつもなら、雪そのものがめずらしい、ということはない。 それは、光に反射してきらきら輝くスノウダストだったり、 水分を多く含んでいるために、転がせばすぐに立派な雪だるまになりそうな水気を含んだ雪質だったり、 幾度も温度変化を受けて分厚い氷になってしまった、かつては雪と呼ばれるものだったり、 ひと口に『雪』と言ってもいろんな表情がある。 家の中で聴く雪の音も、風のようだったり、柱が軋(きし)むようだったり、音の無い音だったり、 屋根から地面に叩き落ちる大きな振動だったり、これもいろんな表情を持つ。 叩き落ちるというのは、どうやら方言らしいが察してくれ。 ただ、雪との折り合いとなるとこれはやっかいで、数日来の大雪は御するにも共存するにも骨が折れた。 折り合いというのはたいへん曖昧模糊とした言葉で、子どもなぞには真似のできない高等技術でもある。 加減乗除を自在に駆りつつ退(ひ)き時も心得ているという、食えない術(じゅつ)とも言える。 この度の雪は、だれかが天災と呼んだほどのやっかいさで、折り合いどころではなかった。 なす術(すべ)がなかったとも言えるし、人のちいさな力をたくさん集めて闘ったとも言える。 坂道を登れない車のせいで後続車が渋滞して夜を明かし、除雪車も車道が渋滞で到着できなかったとか、 峠が雪で塞がって自衛隊を要請したとか、国道は26キロメートルにわたって渋滞し、 主要幹線道路や高速道路は通行止めになり、雪でこれほどの混乱をするのは近年にないことだった。 重くて水分を大量に含んだ、ほんとうにたちの悪い雪だった。 積雪量50センチメートルが二日降り続くと、道路はもはや道として機能しない。 道には深くて安定しない轍(わだち)があり、選ぶ轍を間違えると、路脱や、ハンドルを捕られて進めなくなる。 地域では、大通りの轍とはまた違う、罠にかかるような雪の路に嵌(は)まり込んだ車を 住民総出で掘り出してやるとか、一晩放置された見知らぬ車を掘り出してやったらいつのまにかいなくなったとか、 助け合いも思いやりも恩知らずも久々に総登場の日々だった。 車庫の屋根が雪の重みで潰れて車の窓ガラスも割れてしまった家もあり、 わたしの車は、雪で腹が(こす)擦れ、ナンバープレートは破損してしまった。 道の両側に、除雪した雪が積み上がり張り出し、たとえ二車線の国道でも怖くて二台並んで走ることができない。 一本わき道に入ると車同士がすれ違うことができず、旧道のバス路線は回復していないところがまだある。 おとといはうちのような住宅地にもやっと除雪車が入った。 装甲騎兵のような四つ足の車両の操縦部にはオペレーターが立ち、 大きなシャベルを道路と平行に整え瞬時に角度を決定し、一気に雪を押しつつ道の両脇に積み上げて進む。 これは高等技術が要る。 数年前、この地の行政は予算削減のためオペレーターの確保をやめ始めたのが心配だと聞いたことがあった。 この度の雪で、孤立した山梨県に新潟県がオペレーター付きの除雪車群を派遣したと聞いて、 この独特の技術を かの雪国は継承しているのだと思った。 災害時に自衛隊は頼りになる、なるけれども、雪を御するのには独特の技術もまた要る。 一週間前には弁当も惣菜売り場もパンの陳列もからっぽだったスーパーに、食料品がちゃんと並んでいた。 昨日は14日に発送したと聞いていた本が長野県の上田からやっと届いた。 今日は、ひところ燃料の輸送と流通が危ぶまれ給油制限も一部にあったガソリンを満タンにした。 数日中には、雪で断られた灯油のタンク車にも来てもらえると思う。 一週間前には母が週に二度通所しているデイサービスセンターから、 一週間ほどの食材の備蓄なので雪の影響で流通が確保できなければ休業すると予告されたが、 現在はそれも解消された。 つい数日前までは、じわじわと震災の311を思い出していた。 大雪の直後はみなスコップを持ってわっせわっせと雪をかいてがんばれる。 その時はそれからあとの流通の回復に見込みが立たないことなど頭にはない。 食い物や燃料に困ることをじわじわと知り、高揚感が消え、じわじわと元気を失ってゆく。 災害は、起こったその時よりもあとに響く。 女ともだちの父上がひどいめまいで倒れ、つい昨日救急車で搬送されたと知らされた。 震災以降に環境が変わってしまって続いた心身疲労の蓄積と連日の雪との闘い、堰を切ったような入院だった。 「もうたくさんだー。」と、女ともだちがめずらしく弱音を吐いた。 いいかげんにしろよな、天のなにものか。わたしも上を向いて言ってやりたい。 もうひとつ言いたい。 もともとテレビはほとんど見ないんだが、この雪で立ち往生した地域が日本中にたくさんあったのに、テレビの報道はたいへん杜撰(ずさん)だった。 雪の状態が収まってきたのでオリンピックをハイライト映像でゆうべやっと観た。 でも、ちゃんと感動はあったよ。 おはなしはここまで ・・・・写真はこれからup
by noone-sei
| 2014-02-23 18:09
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