湯湯婆と書いて『湯たんぽ』。それが、湯婆婆と書いた『ゆばーば』に読めてしまう。 しかし見ようによっては、うちではそれが相応しくて毎晩母に湯たんぽをこしらえる。 口いっぱいまで熱い湯を入れると、長時間高温が保たれ朝まで温かい。 自分で体温を調節したり寝床を体温で温かく維持できない母には必需品。 湯たんぽという言葉を忘れてしまった母は、これをこたつと呼ぶ。 寝る直前に風呂に入れても、どうして足が冷たいんだろう。 皮膚から吸収して脳を刺激する貼り薬はほんとうは上半身につけるのだが、 かぶれてしまうのでいつも足先につける。 そのあと皮膚の保護剤を擦り込むと足が冷たい。 小憎らしくてぎゅっぎゅと擦り込む晩もあれば撫でて擦り込む晩もある。 もどかしいのはきっと母もおんなじ。 憶えていることや忘れてしまうこと、理解できないことやまちがった理解をすること、 表わしたいことが言葉にならないこと、それが自分でもわかること、 母はときどきあちらとこちらの世界を行き来して、生きたひとも死んだひとも一緒くたになるけれど、 まったく行ったきりになるわけじゃない。 どんな人生を送ってきたのか今となっては母は語る言葉を持たないが、 きちんと化粧をしようとすることや食器を洗って片付けようとすることや洗濯物を干してたたむ姿を見ると、 身の回りを整えることをずっとやってきたひとなのだとわかる。 昨冬までは湯たんぽを自分でなんとかこしらえていたのもそうだ。 ひとつひとつなにかを失ってゆくのを見続けるのはたいそうつらいこと。 けれどもまだ残存する機能や能力をできるだけ維持させてやりたい。 それがきっと、「家で暮らす」、ということなんだろう。 しかたない。小憎らしい晩も可愛げのある晩も、湯婆婆に湯湯婆をこしらえてやろう。 今夜のお写真は常備菜を。 しょうがを使って 夏に漬けたフレッシュパクチーシードを使って 山椒の葉と実を使って ・ ・ ---------------------commercial message by Excite Japan Co., Ltd.--------------------------
by noone-sei
| 2014-01-16 01:37
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