森の石松や、清水の次郎長の世界じゃない。 花鳥風月というけれど、松に月というのも趣があるらしく、 浮世絵やら日本画やらに描かれ、歌にも詠みこまれているようだ。 15夜は、その月じゃなくて松のほうのはなし。 父がこよなく愛でる我が家の松、カドマツ。 門の横に鎮座して、まるで片手一本だけを門の上に伸ばしているような、 わたしにはミョウチキリンにしか見えない松。 ちょうど桜の頃、父は真新しい、青々とした太い竹をどこからか持ってきた。 ここでご存知、脚立の登場、二本の脚立に板を渡し、その上に乗って松の枝を支える竹を取り替えた。 松に青竹、門構えはすっかり料亭か割烹だ。 父は、竹取の翁か花咲か爺か。梅があれば、目出度い役者の揃い踏みだ。 ・・我が家は凡なる一般人の家なのに。 どうも松には因縁があるらしい。 塾のブロック塀の門には松が植えてあって、これは大家さんの趣味か。 父の松とちがって、こちらは背が低い。けれど、三本も。 店子(たなこ)になったときに、広い庭を好きなようにしていいと言ってもらったので、 シロツメクサを植え、二十種近くがひと袋に入った混合種子を蒔き、花は咲いてのお楽しみをたのしんでいる。 ・・しかし、松は合わないんだ、松は。 片目をつぶり、二年間は松を黙殺した。 新芽が伸び、翌年もまた伸びて、ばさばさになってきた。 大家さんには、毎月店賃(たなちん)を納めにゆく。松の話を切り出した。 ・・大家さん、松もさることながら、松を植えたときの土がご自慢だった。 さっそく植木職人に剪定してもらったあと、大家さんから以後剪定は好きなようにやるといいと言われた。 ・・好きなように?好きじゃない場合は? 放っておいて一年が過ぎ、今年は二年目、また新芽が伸びて、ばさばさになってきた。 先日、青々とした松ぼっくりがなっていたので、観念してちょきちょきと新芽を切り始めたのが運の月。 じゃなくて運の尽き。面白くなってしまったのだ。もう、じょきじょきだ。 ・・枯れなきゃいいが。松の剪定は難しいんだった、、、。 ひとが愛でる順番は、若い頃は花を好み、やがて緑から樹になり石になり、さいごは土になるという。 父が施すカドマツへの恵み。 一升酒をときどき飲むのは土か?松か?
by NOONE-sei
| 2005-06-11 00:05
| 新百夜話 父のお話(4)
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