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14夜 行儀作法


わに丸が三泊の県大会から帰ってきた。

ヒゲがある。
こんなのを風呂に入れて寝かしつけていたのかと思うと、かわいかった、あの同じこどもとは思えない。
なんで育つんだ?
急いで大きくならなくてもいいのに。

わに丸を小さい時からよく知る、むかしワンダーフォーゲルをやっていたという友人が、
えらそうにわに丸に語った。
  「山に入ったら、ヒゲもそらないし、下着も取り替えちゃいけない。
  ヒゲ?いいんだぞ、それで。おじちゃんも山の風来坊だった時はそうした。
  山の神は女だから、身なりを整えるのは禊(みそぎ)をすることになって、
  それはある意味、死に装束なんだ。山にひっぱられるからな、だからそのまんまだ。」

おじちゃんはエライ。
全国大会予定地の千葉の山の困難さ、来年予定地の奈良の山の特徴も語りに語った。

実はおじちゃんなりの励ましだ。
わに丸たちは全国大会に行かれない。
体力のある三年生で組んだパーティの学校に出場をもっていかれた。
しかし、わに丸たちは次点で優秀賞を貰ったのだという。
 つまり、来年は三年生、奈良の山に行けよ、という婉曲な励ましなのである。

登山に無知なわたしは、励ましようを知らない。
女子はどうだったのかと聞く。
 部員数の少ない学校から、ひとりパーティの女子がいたという。
装備に不足なく、すべて整ったザックが背負えれば、パーティ人数はひとりでもよいとか。
・・とはいえ、ひとりは心もとない。
審査員の配慮で、わに丸の学校の女子が荷を引き受け、夜は同じテントに寝せた。
その負荷がかかってさえ、県でただ一校の全国大会女子出場枠に今年も推薦された。
そのパーティ、三年生は一名きりだ。しかし圧倒的だったとか。

どれほど無尽蔵のパワーの女子だろう。
尊敬の意を込めて『野獣』と呼ぶ、わに丸の信頼がわかるような気がする。

わに丸は、山から帰るたびに人間に近づく。
気持ちのささくれが小さくなって帰って来る。
濃密な数日間を仲間と過ごし、パーティの誇りを自覚して審査員にアピールし、
皆、一癖ある山男の審査員たちと渡り合うわけだから、普段ねむっている知恵もしぼるのだろう。
 つまり、わに丸は山にゆくたび、行儀作法見習いをしてくるというわけだ。
ありがたい、ありがたい。

14夜、みっつめの14歳、ということで。


百夜話 30夜 ふたつの14歳
by NOONE-sei | 2005-06-08 00:02


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