わに丸が三泊の県大会から帰ってきた。 ヒゲがある。 こんなのを風呂に入れて寝かしつけていたのかと思うと、かわいかった、あの同じこどもとは思えない。 なんで育つんだ? 急いで大きくならなくてもいいのに。 わに丸を小さい時からよく知る、むかしワンダーフォーゲルをやっていたという友人が、 えらそうにわに丸に語った。 「山に入ったら、ヒゲもそらないし、下着も取り替えちゃいけない。 ヒゲ?いいんだぞ、それで。おじちゃんも山の風来坊だった時はそうした。 山の神は女だから、身なりを整えるのは禊(みそぎ)をすることになって、 それはある意味、死に装束なんだ。山にひっぱられるからな、だからそのまんまだ。」 おじちゃんはエライ。 全国大会予定地の千葉の山の困難さ、来年予定地の奈良の山の特徴も語りに語った。 実はおじちゃんなりの励ましだ。 わに丸たちは全国大会に行かれない。 体力のある三年生で組んだパーティの学校に出場をもっていかれた。 しかし、わに丸たちは次点で優秀賞を貰ったのだという。 つまり、来年は三年生、奈良の山に行けよ、という婉曲な励ましなのである。 登山に無知なわたしは、励ましようを知らない。 女子はどうだったのかと聞く。 部員数の少ない学校から、ひとりパーティの女子がいたという。 装備に不足なく、すべて整ったザックが背負えれば、パーティ人数はひとりでもよいとか。 ・・とはいえ、ひとりは心もとない。 審査員の配慮で、わに丸の学校の女子が荷を引き受け、夜は同じテントに寝せた。 その負荷がかかってさえ、県でただ一校の全国大会女子出場枠に今年も推薦された。 そのパーティ、三年生は一名きりだ。しかし圧倒的だったとか。 どれほど無尽蔵のパワーの女子だろう。 尊敬の意を込めて『野獣』と呼ぶ、わに丸の信頼がわかるような気がする。 わに丸は、山から帰るたびに人間に近づく。 気持ちのささくれが小さくなって帰って来る。 濃密な数日間を仲間と過ごし、パーティの誇りを自覚して審査員にアピールし、 皆、一癖ある山男の審査員たちと渡り合うわけだから、普段ねむっている知恵もしぼるのだろう。 つまり、わに丸は山にゆくたび、行儀作法見習いをしてくるというわけだ。 ありがたい、ありがたい。 14夜、みっつめの14歳、ということで。 百夜話 30夜 ふたつの14歳
by NOONE-sei
| 2005-06-08 00:02
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