46夜 誕生日、天の寿ふたたび


鰐号から電話があったので、猫の誕生日だったと教えた。
即座に「ハム、やった?」と聞かれて気づいた。
我が家の犬たちは、誕生日にだけ、一枚ハムを貰っていたのだが、
鰐号はそれを憶えていたわけだ。

わたしが生まれたときから動物たちは身近にいて、誕生日のないものたちのほうが多かった。
誕生日とか記念日とか、そういうものを幼稚園の行事で身に着けたのか、
鰐号はとりわけそういうものに敏感だったので、いつのまにかわたしもそれに沿うように、
家族や周囲のアニバーサリーを正月に一年分カレンダーに書き込むようになった。
だからといってわざわざ知らせるわけでもなくこころ密かに
ああ今日は△△の誕生日なんだな、と思うだけだったりするし、
あるいはわざとわざわざ、今日は結婚記念日だろう?と
忘れていそうな夫婦に嫌がらせをしてやったりする。
王様の誕生日だって、ずっと憶えられずにいたのが、
やっと近頃カレンダーの書き込みのおかげでおめでとうが言えるようになった。
じゃあ誕生日を日付で言えるかというと、王様には悪いがものすごくあやしい。

猫は虫かごに入って公園にいた。
拾ったもののその家の子どもは猫アレルギーで飼えなくて、巡り巡ってうちに来た。
ちょうど鰐号が家を離れて東京に行く直前で、うちでは家族がひとり減ると動物が一匹増える。
鰐号が猫を引き取ることに決め、名まで付けたが実は鰐号も猫アレルギーで、
猫が初めてうちに来たときしか抱いたことがない。
しかし鰐号の動物との距離感は本能的で、特にべたべたするでもなくあっさりと付き合いながら、
シワ コ は絶対服従でありペロ コ はいつも鰐号を気にしている。
あのペロ コ の注意が集中する鰐号を つまりはテン コ もいつも見ているということ。

そのテン コ の誕生日はエイプリルフールにした。
誕生日を決める段になって、エイプリルフールをずらして誕生日を決めた犬の話を引き合いに出し、
うちはちょっとおばかちゃんだから敢えてその日にしようと笑った。

その犬が天逝(てんせい)した。
少し前には友人のところでも、つい先日は別の友人のところでも、相次いで飼っていた犬が天逝した。
本当は「天折」が正しいのだろうけれど、漢字が目に映るイメージは「天逝」だろうと思う。
動物の逝き方というものは天晴れ(あっぱれ)で、天という字が似合う。

猫にハムはやらなかった。
特になにかするつもりもなかった。ただ、憶えていてやりさえすればよいと思っていた。
すると人間のために買っておいたイチゴをペロ コ がひっくり返し、テン コ と食っていた。
愛情込めて言うが、テン コ はちょっとおばかちゃんなので、
それら逝った動物たちの気配を背負ったところでたいして重くもない。
テン コ が誕生日を迎えるたびに、友人とそこにいた動物たちをそっと思い出そう。
知っていた?テン コ は天子という名でもあるんだよ。



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この地はまだ時折雪が天から舞い降りてきて、白い梅がちらほら見かけられるばかり。
桜にも水仙にも程遠いけれどもこの花を載せよう。 こころより
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by noone-sei | 2012-04-10 01:09


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