35夜 食む話

 ・嫌いな人は読まないほうがいい

言を食む(げんをはむ)は前言を翻(ひるがえ)す偽りや嘘のこと。
一度口にした言葉をもう一度口に入れるから。「ことをはむ」ともいう。

今夜は食むのおはなしを。

夜中に月蝕を見た。月を食むのは地球なのか太陽か。
とぐろを巻いたような赤い月、皆既月蝕は怪奇な奇奇怪怪、丸いものの蝕(むしば)み。
ところでこの冬までに、わたしは長いものを生涯でいちばん多く見た。
息絶えて長々とのたばった長いもの、その長いものの啄(つい)ばみ。
月を蝕むのは黒い影、長いものを啄ばむのは黒い鳥。

夏のこと、山あいの温泉町のはずれ、本家の畑を訪ねたら、
それはそれは立派な青灰色の長いものが、ずるずると草薮に帰って行った。
人の来ない道路でのたばって昼寝していたんだろう。
歯はあるのか無いのか知らないが、案外小心ものなんだ。

夜の窓にはカエルがへばりつき、白い吸盤の指を広げている。
道路では身投げのようにカマキリが死に、時にはペロ コ に食われる。
そんな秋のこと、空には白い半月と日の入りが赤々した夕暮れ、黄金色の田んぼは所々刈り入れが。
稲藁の束は地面に刺した杭に、まるでかさこ地蔵のように掛けられている。
犬の散歩の綿羊ロードはイチジクがたわわ、見とれながら歩いたらとぐろを跨(また)いだ。
犬も跨ぎながら匂いを嗅いだ。
長いものもイチジクの木の根元は気持ちよかったんだろうか。
翌日は、悪夢を繰り返さぬよう遠くから気をつけて見たら、
長いものは実に長く伸びていた。白い腹を出して。
今年の邂逅はこの二回でおしまいにしたいと思ったら、
ほんの数日後には、田んぼのあぜ道で別の長くて白いものが伸びていた。

道路の隅に鳥がうつ伏せで死んでいて、毎日それを横目で見ながら散歩する。
夏から秋は暑さと雨で日に日に鳥は骨になっていった。
隅で死んでいるタヌキはすぐに片付けられるのに、
その鳥は骨格標本のようになってうつ伏せで居続けた。
鳥の近くには小さな川が流れていて、手入れもしていない藪だ。
藪をつついて何かを出すとか言うけれど、その藪にはたいそう気になるものが伸びていた。
田んぼに稲が無くなると、それまで密やかだった生き物の気配が濃くなる。
散歩の度に気になるのに恐くて近寄って見られない。
思い切って近くのガソリンスタンドの兄ちゃんに取り払ってくれるよう頼んだ。

有り難がって神棚に飾ったり、千切って切れ端を財布に入れ、金が貯まるようにと
験(げん)を担ぐ者もいるけれど、わたしには必要ない。
兄ちゃんはわたしが気にしていた一本だけでなく、五本もびらびらと掴んで持ってきた。
十メートルを三歩で飛びのくようにして、遠くから「要りませんから」と答えた。
長いものは川のそばに棲んでいる。
そこは巣だったらしく抜け殻が幾本も伸びていたのだった。

今度こそ邂逅はおしまいと思ったら、綿羊ロードでカラスの群れを見た。
よくよく見たら白くて長いものが千切られている。
こうして啄ばまれるから長いものは跡形も無くなるのだと知った。
けれども不思議なのはうつ伏せの鳥。それはカラスよりもずっと小さい骨格。
カラスは共食いまでしそうな恐ろしい鳥だと思っていたけれども、
同じ種は食まないのだろうか、それとも美味くないのだろうか。
啄ばむのは嘴(くちばし)であって、言を食むような口は持っていないんだろうか。





今夜のお写真は、十月、近くの陸上自衛隊祭のいろいろを。



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大きくて細身のバイク。


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ギュイーンゴゴゴという音がして、想像よりずっと素早く動く乗り物。


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これはジープなのか?


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ロビーの書棚。


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精神面の援助がなされている。


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お土産いろいろ。美味しいものや便利なもの。
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by NOONE-sei | 2011-12-13 01:00


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