31夜 君知る哉?


「僕の両親とは、どういう関係ですか。」
どきっとした。こんな言い方をされたのは、生まれて初めてだ。

王様はちっちゃな塾をやっている。王様は踊り手だが、子供を集めて普段は塾長先生だ。
 15年も音信不通だった、王様の昔の友人から、「息子が高校受験なのだが、
世話になれないだろうか。」と、突然電話があった。

小学生のちいさいさん達と丁度勉強を終えたわたしは、王様に、塾に通い始めた
友人のご子息を紹介された。

 そうか、君は中学三年生になったのか。
父上に面差しがそっくりだ。思わず「はじめまして。」と言ったけれど、君が
ぽやぽやの赤ちゃんだったときに、わたしは君に会っているんだよ。

「僕の両親とは、どういう関係ですか。」
「(えっ!喋れる上に、そう聞くか?)おとうさんからは、聞いてない?」

「いえ、なんにも、、、。」
「そっかー。いきつけの店が一緒でね、君のおかあさんにもそこで会ったんだよ。
おとうさんもおかあさんも、その頃はまだ独身だったんだ。
だから、昔の仲間みたいなものかなぁ。」

「知りませんでした、、。」
「そのうちゆっくり話してあげるよ。」

子供というものは、えてしてどの子も、無意識に親を自分のものだと思っている。
だから、親のことは何でも知っているつもり、逆にいえば知らない面があってはならない。
自分のことは隠したいくせに、親に青春があったことを受け入れたくないという、
背中あわせの感情を内在させているものだ。

 君の当惑した表情を見たから、わたしは嘘つきになろうと思うよ。
君のご両親とは、ごくごく平凡な昔からの知り合いだった。それでいい。

 嘘つきでも、心の中には真実がある。
ほんとうに、わたしは君の父上の話を君にしてあげたい。
君の父上が昔、まんがを描いていたこと。
それはわたしが密かに金字塔と思っている雑誌、「夜行」だったこと。
「ガロ」と「夜行」、ふたつの雑誌があったけれど、君の父上が載せていたのは「夜行」、
そのことにどれほどの意味があるのか、
わかる人はちゃんとわかっていて、今でも忘れないということ。
 君は父上を農業人と思っているだろうが、家を継ぐために父上が筆を折ったこと。

王様は君の父上の単行本を持っていて、そこには父上のサインがあるんだ。
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by NOONE-sei | 2004-12-28 01:53 | 百夜話 本日の塾(9)


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