数のない夜 夢の花


 ・長いおはなしなので時間のあるときに読んでくれたらいい

あとひと月したら、花が咲き出す。
野も山も、桃色、黄色、真白、青の花々が。
そんな景色が見たいんだ、今年も。

誰もいないところで花だけが一斉に咲くのかもしれない。
そう言ったひとがいるけれど、それはさみしい。

お彼岸はお彼岸だから。
そう言っていつもどおりに墓参りをした。
みんな墓に参っていて、どこで買えたのかちゃんと花が供えられていた。
うちも、王様が仕事帰りの自転車で洋花を買ってきてくれた。
王様は先日誕生日だったのだけれど、自分のためでなく父の墓参のために。

わたしは王様の誕生日を忘れていなかったよ。
結婚してずいぶん経つけれど、今度こそ、ちゃんと日付を覚えられたような気がするよ。
誕生日の献立を聞いて聞いて。 ・・ちらし寿司。
地震の前に買ったまぐろはさっと湯通ししてヅケにしておいた。
冷凍しておいた海鮮や缶詰、夏に干して揉みほぐした紫蘇の葉は酢飯に混ぜ込んで。
陸の孤島の食生活は、秋に一年分を玄米で買っておいた米がまだ残っているから大丈夫なんだ。
その数日前には畑のフキノトウをてんぷらにした。
原発の備えとして換気扇を使ってはいけないというお達しがあるのだけが不自然だった。

食生活には不満を感じていない。
畑から、土に埋めておいた大根も掘り出しておいたし、ネギも白菜もある。
青々とした葉の小カブもたくさん摘んだから緑の野菜もある。
買っておいたトマトはオリーブオイルとニンニクと鷹のつめでソースにした。
肉は塩で揉んで日持ちするようにした。
それらを少しずつ、いっぺんに使い切らぬように工夫して、毎日の食卓を作る。
そう、食卓を作る、そういうイメージだ。

被災などと言うのは恥ずかしいくらい、わが家はちゃんと暮らせている。
そしてラジオでは本日現在の死亡者数と不明者数と放射線の数値を定期的に放送する。
さまざまな現場からの生の状況を知らせるメールと音楽のリクエスト、
それらを聴きながらちゃんと暮らしている。
救助された人の数も定期的に放送して欲しいとも思う。

ちゃんと暮らすための食べ物を これまでおすそ分けで人に送ったりしていた。
よろこんでもらったり、調理の仕方を教えてあげたり、食べ物はそんなふうにして
わたしとその人を繋ぐ時があった。
これから、そんなちいさな愉しみが摘まれてしまうのか?
この地や、この地に暮らす人々や子どもは、この先、特別な目で見られるのか?

「セイさんちは逃げなかったの?△△さんちは子どもを飛行機で関西に逃がしたよ。
うちの近所は県外に逃げた家でスカスカだよ。」
高台に住む知人が電話をくれた。彼女の子どもは鰐号と同級生で、看護師一年生。
大きな病院に勤めていて、貴女たちは最後の砦だから、とヨードをひと瓶、
じつはずいぶん前にもらったんだという。
米を背負わせて、高速バスで勤め先に向かうのを見送ったと言った彼女。

「いいからいいから、って患者さん置いてっちゃったんだよ。手続きしなきゃって言ったら。
精神疾患の患者さんに出す薬、ないの。もう、ワイルドになっちゃって。
で、ほかの患者さんがね、わたしたちソフィスティケイテッドされてますねー、って言うんだー。」
ほんとうは笑うところじゃないんだが、「いいからいいから」を合言葉に働く医者。

「六号線の横はすごいよー。田んぼに船がいるんだからナイ、あははは。」
明るくそう言って相馬からこの地まで何十キロも走って餡子(あんこ)を買いに来た菓子店。
「ぼたもち、作ったべか?」避難から帰ったばかりの菓子店に聞きに来た客。
岸のむこうにいるご先祖のために、仏壇にぼたもちを供えたいじゃないか。
お彼岸はお彼岸だから。

「法事は法事だから。」と、幼なじみの一周忌に、原子力発電所から約三十キロの村で
客を三十人も集めて酒盛りをした村の年寄りたち。もう、動く気はないんだそうだ。

庭の福寿草と椿と、王様が買ってくれたチューリップを墓に供えた。
菊はきらい。だいいち秋の花だ。ひと月ののちには、春の花がもっと綺麗だ。


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遠くの友人が送ってくれたお写真。

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うちにくれたけど、この気持ちはきっとうちだけじゃなくもっともっと遠くへも送られているんだと思う。
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by noone-sei | 2011-03-22 00:10 | 数のない夜(23)


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