98夜 花嫁の小正月


小正月は女(おんな)正月。
嫁に行った姉様(あねさま)が実家に帰してもらえる。
今夜は「初嫁さま」のおはなし。

今でこそ嫁ぎ先の姑(しゅうとめ)も若く、核家族を知っているから、
これをわたしに語ってくれたひとは、昔の慣わしを嫁に踏襲させようとは思わない。
そのひとが嫁に来た明くる年の正月には、初嫁さまは親類縁者の家々を回って披露目をした。
結婚式で顔を合わせてはいるが、それぞれの家に訪問するのはこれが初めてだ。
各家では膳を用意して待っている。
嫁ぎ先が一同を集めれば良いではないかと思うが、一軒一軒の敷居をまたぐことに意味がある。
年寄りのいる家では、その目出度さに「まんまたきができてよかったナイ」と言う。
まんまとは飯のこと、まんまたきとは飯炊きする人のことである。

ほどなく子が生まれ、長男を授かると、またもや各家を回って披露目をする。
すると年寄りは、その目出度さに「位牌持ちができてよかったナイ」と言う。
なんて縁起の悪い、と内心思うけれどもその意味を知らない。
子を大きくし、夫を見送り、舅を見送り、二度の葬式の位牌をその子が持った。
それはつい先ごろのことで、「位牌持ち」の意味がようやく解かったとそのひとは言った。

この正月、そのひとの家には「初嫁さま」が居た。
初嫁さまの披露目はもうやらない、そのための結婚式だったのだもの。
そう思っていたら、初嫁さまのほうから「わたし、親戚のおうちに行ってきましょうか」
と言ったので驚いた。もうお仕舞いにしようと思っていた慣わしを若いひとが知っている。

初嫁さまはお百姓の家の出だった。
仕事を持っているけれども実家の田植えもすれば稲刈りもする。
ふたりの結婚式は、五月の田植えが終わってから。
そのひとの家の初嫁さまは、だからジューンブライド、六月の花嫁だった。

初嫁さまは結局、正月の披露目に回らなかったけれど、
位牌持ちをした子は「初婿さま」になって、この小正月、初嫁さまの親類縁者を回る。


□初春の山
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うちから見える吾妻小富士。白い雪の綿帽子をかぶったお嫁さん。お相手は富士山。



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近くの山の地面には、山クルミが。
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by noone-sei | 2011-01-15 00:10


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