91夜 月は東に日は西に


 ・「鋼の錬金術師」をこれから読む予定のひとは、今夜の夜話を読まないほうがいい

昨日は雲ひとつなく空が澄んで、
こんなに美しい山々の稜線はそう見られないというほど。

そんな日の日の入りはたくさんの色を目にくれる。
山の連なりは青いような紫のようななんとも言えない階調で、
古(いにしえ)のひとなら、わずかな、けれども確かにある色のいろいろを
たくさんの色の名で言い当てられるのだろうに。

そうしてぽっかりと大きな白い月が昇っていた。
月は東に日は西に、そんなことばがあったっけ。

今夜は月蝕だったのだそうだが、外は雨。
昨日と今日をとりかえばやにすればよかったのに、
天はときどき気の利かないことをする。

                  *


ひとり「鋼の錬金術師」まつりをしている。
2001年から2010年まで少年誌に連載した物語が完結した。
作家はひとり立ちするまで、酪農で産業動物の育成と農業に従事していた。
そこは生命が生まれる現場でもあり、自然に反する生命操作の現場でもあり、
生き物の手触りと生命科学が同時にある場所だった。
その背景から窺(うかが)える生命観、死生観、倫理観。

漫画の話である。「鋼の錬金術師」は、
基本の流れがあり、多層構造で物語は幾重にも交錯しつつ、しかし少年誌には欠かせない
勇気や友情や困難を乗り越える要素も入れつつ、そして残酷さや非情さと向き合って
大団円で終結をみた。

漫画は本来、物語だけを切り取って批評されたり論評されたりするものではない。
雑誌「ユリイカ」の中に「・・漫画は、展開だけからなる単層の構造物ではない。
・・殆ど映画的なカットの接続を伴い音声の立体感を伴って、複数の層がぶつかり
干渉し合う動きの中から立ち上がってくるものであり、・・・」という記述の寄稿があった。
しかし敢えて宗教論から身体表象論から幹細胞生物学から等々、さまざまな見地からの
アプローチによる寄稿文が載っているので面白い。
なかには東大生がありったけの論拠をありったけの参考文献の後押しと「私たち」という
人称にやっと支えられて寄稿したものもあったけれど、笑って許そう。
今月の「ユリイカ」の特集は、連載が終わってのおまつりのようなものだから。

さて神や天をその身に取り込みたかったホムンクルス、劇中では日蝕や月蝕が大きな鍵となる。
これが現実だったら、「約束の日」の今夜は雨で大きな野望は崩れるところだっただろうな。
今、大きな雷まで鳴った。
物語のほうは、肉弾戦で野望を砕き、大団円ののち、兄弟は東と西に分かれて円環の旅へ。

そうそう、作家が女性と知って驚いたのは今年のことだったが、
二年前に連載も休まず男児を出産していたと「ユリイカ」で知って、再びびっくりだ。



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隅に手だけが描かれているのは、主に劇中で死んだ者たちなど。


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読者プレゼントでもらったアルフォンスの携帯充電器。可愛い。



春から秋に読んだ漫画の展示会はまたあした。
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by noone-sei | 2010-12-22 00:10 | 趣味の書庫話(→タグへ)


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