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39夜 なにかが視ている


ホラーなおはなしじゃない。
ひとには位(くらい)がある、というおはなし。

車を運転していて感じること。道路の雪掻きをする家がここ数年のうちに減った。
家の前の道路はそのままで、敷地のなかだけが掻いてある。
各家々が、だんだんに、我が家さえよければ良しと思っちゃいました、と
言っているようで、恥ずかしくないのかな、と思う。

成熟って深い言葉だと思う。
個人について見ても、情緒の成熟だけじゃなく、社会性の成熟もあるだろうし、
地域社会の成熟と衰退を、わたしなぞは単なる雪掻きから探り見てしまう。

 ひとへの敬意をどう払うのか、その難しさを考えたときの話を書いてみようと思う。

今ほど骨髄バンクが知られていなかった頃、間接的な知人が発病し、力になるために
何人かで懸命に動いたことがある。
「医療関係者こそバンクに登録すべきなんだ。個人登録はそのあとだ。」
「犯罪者を皆、刑務所内で登録させればいい。」
「医療事故がないとは限らない。家族のいる者は、登録すべきでない。」
人の意見は、さまざまあった。どれも難しい、、、ほんとうにさまざま。

 ひとりが、つてを頼ってテレビ関係の人間と会ったときのこと。
「そのご本人を取材できれば、力のある番組を作れるんですが、どうでしょう?」
下卑た気持ちで面白半分に話を聞いたわけではない。彼は彼なりに
真剣に考えての提案だったと思う、それは伝わった。が、なんというか、、、浅い。

わたしはできるだけ頼るまいと思っていた男友達に電話した。
必ず誠実に力を貸してくれる、そういう友達だとわかっていたから、
本当は頼りたくなかった。話はほんの数分で、終わった。
「わかった。だれにも負担にならない方法で番組を作るよ。」
 後日、彼が知らせてきた放映日に番組を見た。
なんと彼が映っている。
赤十字センターに行って、手続きして、採血してもらって、、、自分がバンク登録をする
すべての手順と、その日、彼と同じようにバンク登録をしに来た青年への取材。
数日後の、一次検査の結果と適合者の有無を知らせる、通知とその内容。
自らの克明なドキュメントの最後に、バンク設立準備にかかわったかたへの取材。
 番組を見終わって、彼に電話して言った。
「まさか、自分の実体験を使うとは思わなかったよ。」
彼は言った。
「俺が出れば、誰にも迷惑かからないよ。最後に取材したかたね、静かにごく普通に
おはなしされるかたなんだけど、俺、人間の位(くらい)の高さを感じたんだよ、
差別とか区別とか、そういう言葉の領域を越えてね。
 いるんだなぁ、世の中にはそういう人。それをみている目っていうか、そういうものも、
もしかしたら世の中にはあるかもな。俺、無宗教だけど、そんなこと考えたよ。」

 この彼は、人の尊厳に敬意を払った仕事の仕方をし、結果的に人というものに
感じ入る機会を得た。
 だれかが、もしかするとなにかが、みていると感じること、その触覚を失ったら、
ひとはどうなるんだろう、、、。

ひとはひとでないものになるのかもしれない。
by NOONE-sei | 2005-01-05 00:24


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