「書を捨てよ町へ出よう」 高邁(こうまい)な精神ではない。 ずっと夜の外出を控えていたので、本当に町へ出たかったのだ。 著者・寺山修司には悪いが、酒盛りの虫がうずいていた。 町へ出たいだけだから書も捨てないし、もとより書を読むほうでもない。 飲む機会があり、一軒目はおやじ店(みせ)。 こじんまりした、小料理屋というよりは割烹。 一杯目は乾杯に生ビール。きめの細かい泡が美味くて料理も美味い、 が、ちょっとアソビが足りないか、概しておやじ店ってそんな所がある。 熱燗も冷酒も苦手なので常温で日本酒をのんだあと、二軒目のイタリア料理屋へ。 アンティパストっていうのか?わたしは前菜のとりどりが好きだ。 三軒目はごく親しい者だけになったので、王様も呼び出し居酒屋へ。 わたしはすでにへべへべだ。 その夜から三日後、財布がない。ない、ない。 三日も気づかないのもお目出度いのだが、あの夜の翌日の行動が思い出せない。 翌日わたしはなにをしていたんだ? 今日がその夜からの三日後。 出先でやっと気づいた自分にあきれ、無免許運転だったことにもあきれる。 二軒目に最初の電話。 次は王様に電話。 三度目は三軒目に電話。 「財布をどこかに・・・はい、これこれこういう財布で・・・あぁ、ほかにですか?・・・小銭入れ・・・」 「えっ!!それ、それ、それですっ!・・・はぁ、いただきにあがる・・・実は今店の前で・・・」 「自動ドアが開(あ)かなくて」 ・・なにかのタイトルじゃない。 ドアの向こう、店内で人の気配があるのに、ドアの前で電話していた。居酒屋は出先のすぐ近くだった。 ドアのスイッチをいれてもらい、ヒラメのようにおじぎをしながら礼をいい、受け取ったら 先日絵を出品した展覧会要項の入った封筒も。 ・・え゛? 見るまでぜんぜん思い出さなかったお目出度さ。 ・・てなもんや・・。 書は捨てないけど酒を捨てよ、だ・・。
by NOONE-sei
| 2005-03-18 23:36
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