花々が、気が狂ったように咲いたからだろうか。 この春はウグイスの声が美しかった。 近くに啼き方を教えてくれる先住鳥がいないと、 新米鳥はなかなか美しい啼き方を覚えないと聞いたが、 きっとここいらに面倒見がいい鳥がいるんだろう。 鳥の声は音楽なんだろうか信号なんだろうか。 別れの季節、春。 周囲で、ひとりになったり家族が離れたりする話を聞く。 わが家もこの春から、鰐号がアパート暮らしだ。 夜が来ると泣いている友人がいる。 子どもたちが一度に地元を離れたために、急に一軒家に一人になってしまった。 独身の一人のさみしさを知っていても、家族の味わいを知ってからの一人はつらい、と。 わたしも、鰐号がひとり暮らしを始めたその翌朝は気持ちが沈んだ。 なにか音楽を聴こうとコンピレーションアルバムをかけたら、 そのうちに「Your Song」(エルトン・ジョン)が流れて、 気持ちが動き出しそうな旋律が耳に残るので素早く切ってしまった。 琴線を鈍くたわませていなくちゃいけないのに、音楽に直接働きかけられてはたまらない。 直(じか)に向き合わずにほどよく気をそらしてくれる、そして時には弾みをつけてくれる、 その朝はそんな音楽が必要だった。 優しくなる音楽が欲しいと言った知人がいる。 家族が離れてしばらくになり、以来、悲哀のある音楽を聴き続けている。 割合軽やかさもある素朴な女性ボーカルをいくつか選んで進呈した。 喜んでくれて、ではお返しに、と先方からも音楽が送られてきた。 アルゼンチンタンゴ、スパニッシュギター、インディオの歌、等、、 それらは哀愁に満ち満ちて心のひだとやらに沁みるどころではない、 奥の奥の生理を素手で掴んで涙の製造元に働きかけ、 泣いてしまえ獣になって啼いてしまえという旋律で参った。 まるで音楽がそう操作するように気持ちの安定レベルを下げるのにも参るが、 なにが参るって、知人の泣く声が直に脳に伝達されるようで参る。 共に落ちてゆくような音楽もあるのだな。 音楽には、共振し合う愉しみというのがある。 恣意的に音楽に劇的要素を求め、同化しようと試みる聴き方もあろうし、 いつかの懐かしい場面を重ね合わせ、心地よく記憶野が刺激される聴き方もあろうし、 没頭して聴き込んで、己の鏡とする聴き方もあろう。 聴く側の態度というか志向性というか、言ってしまえば嗜好、癖のようなものがある。 志向性という意味では、わたしにとって音楽は背景音で、 いつも音楽を途切れさすことがないかわりに、ほとんど身を入れて聴いてもいない。 なくてはならないものなのだが、耳に留(とど)まって脳に障(さわ)っては困る。 音楽とは恐ろしいものだな。 鳥啼き人の目に涙とはいうけれど、 鳥の声とはちがって、その快(こころよ)さに魂まで開(あ)けてしまおうとは思わない。 だって、そこからなにが出てくるのか想像もつかなくて、恐ろしいじゃないか。 追って: ほんとうは・・ 行く春や 鳥啼き魚の 目は泪 (松尾芭蕉) 春が過ぎ去るのを 鳥は啼き、魚は目に涙をうるませて惜しんでいるように、 旅立つ自分のために門弟たちは別れを惜しんでくれている。 * * 今夜のお写真は、まだ盛りだった時の桜のお写真。 接写と望遠を使う撮り方を覚えたので載せてみる。 カタクリと一輪草。 カタクリとふきのとう。 檀家の婦人会のおばあちゃんたち手製の、自慢の茶受け。初物の葉わさび漬けも馳走になった。 おばあちゃんたちの、揃いの白い割烹着がまぶしい。 春の汁物はじゃがいもだから、芋煮ではなく豚汁。 素早く切ったのはこんな曲 僕の歌は君の歌Your Song/Elton John 昨年の暮れにはげまされたのはこんなアルバム Sunshine State/Sunshine State 試聴ができる 本日、シワ コ は11歳になりました 山の右下に溶け残っている雪が、まるでしっぽのあるウサギが耳を上げて山に向かって ぴょんと飛ぶように見えないかな? シワ コ も風に吹かれて気持ちがいい。 おまけ 父犬って、気持ちがいろんな意味で、太いらしい。
by NOONE-sei
| 2009-04-18 02:13
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